上海漢院顧問のつぶやきNo.353

1.特集

【中国関連】

【日本関連】

【アジア関連】

【米国・北米関連】

【欧州・その他地域関連】

【世界経済・政治・文化・社会展望】

2.トレンド

3.イノベーション・モチベーション

4.社会・文化・教育・スポーツ・その他

5.経済・政治・軍事

6.マーケティング

7.メッセージ

目次

 

  【上海凱阿の呟き】

記事

1.今週の特集

【China関連】

 

中国の新100元札、「偽造防止の新技術」が採用されたのに紙幣識別機は「偽札」と判断、ATMも取り扱い不能=中国ネット「発行早々メンツが…」Record China 1113()

 

13日、央広網によると、中国吉林省長春市で、前日に発行が始まった新100元札を入手した人から「想定外のトラブル」が報告されている。写真は新100元札のサンプル。

20151113日、央広網によると、中国吉林省長春市で、前日に発行が始まった新100元札を入手した人から「想定外のトラブル」が報告されている。

中国人民銀行は12日、偽造防止の新技術を施した新100元札を発行した。デザインは旧版と同じく初代中国国家主席、毛沢東氏の肖像だが、表面の「100」の文字が見る角度によって色が変わるなどの偽造防止技術が採用されている。しかし、同日に銀行窓口で新100元札4枚を入手した同市のネットユーザーが中国版ツイッター・微博(ウェイボー)に「要注意!偽造紙幣の検出機には引っかかるし、銀行のATMも識別できなかった」と投稿。記者があるスーパーで試してもレジの機械は「偽札」と判断し、店員からは「申し訳ございません。新100元札対応の機械ではないので…」と受け取りを拒否されたという。スーパーの店舗内にあるATMも新版を識別できず、ATMを設置した銀行からの回答は「対応処理が終わっているのは一部のATMだけ。今週中には全てのATMで完了する見通し」だった。

この報道に対し、ウェイボーには「自分も同じ体験をした!」「偽札がもっと出回りやすくなるんじゃないの?」「本当に偽札だったとか…」というコメントや、「発行早々、メンツがつぶれた」「紙幣識別機メーカーにとってはうれしいニュースだろう」などの意見が寄せられている。

「爆買い」1日で17兆円=独身の日、過去最高―中国

時事通信 1112()

 

 

 【北京時事】中国で「1」が並ぶ1111日の「独身の日」に展開されるインターネット通販の値引き商戦で、中国電子商取引最大手・阿里巴巴(アリババ)は、同日の売上高が9121700万元(約17600億円)に達したと発表した。
 昨年の571億元を大きく上回り、史上最高を更新。中国「爆買い」のものすごさを改めて示した。
 アリババグループは12日未明、微博(中国版ツイッター)で「これは消費の力であり、新たな経済の力、われわれ一人一人の力だ。さらに中国の力だ」とつぶやいた。国営新華社通信によると、電子商取引による宅配便注文件数も11日、前年同期比65%増の46000万件に上った。
 「双111111日)」と呼ばれる値下げ商戦は2009年、アリババが「ひとり者」を対象に「自分にプレゼントを」というキャンペーンを始めたのがきっかけ。中国経済が減速する中でも、ネット通販市場は急成長を続けており、中国政府も個人消費を後押しする「双11」に期待を寄せている。
 アリババは輸入品を専門に扱う傘下の通販サイトを通じ、日本企業の出店を誘致してきた。中国で日本製品の人気は高く、11日の値引き商戦には多くの日本企業も参加。新華社通信は論評で、「双11」に関し「世界各国の共同発展にさらに多くの活力を注入し、チャンスをもたらす」と強調した。 

中国で新たな不動産ブーム!東京にも投資の波が殺到する過熱ぶり陳言 [在北京ジャーナリスト] 20151113 DOL

深センで新築マンション1637戸に、1万人超が殺到し即完売

 澎湃ニュースによると、117日午前10時から午後4時の間に、深センで平均価格1平方メートル当たり4.35万元(約83万円)の新築マンション1637戸が完売し、契約金額は60億元(約1178億円)に達したという。

 購入者希望者が1万人を超えたため、不動産デベロッパーは仕方なく販売センターを深セン湾スポーツセンターに設けた。今回の発売会は地元の住宅購入者に「人気コンサート」のようだったと言われている。

深センの不動産価格はなぜ全国トップなのか

不動産ブームが最も過熱している深セン

 メディアの報道をまとめると、先日、中国指数研究院が発表した100都市の価格指数で、100都市すべての不動産価格が連続6ヵ月再上昇し、深センでは北京・上海・広州を超えて32.7%の暴騰となった。

 価格は例外なく市場需給が決定的な要因となっている。2013年の深セン警察局のデータによれば、実際の管理人口はすでに1800万人を突破しており、広州を超え、北京に迫る勢いだ。

 反面、深セン市の総面積は北京の8分の1、広州の4分の1しかない。そのうえ深セン政府は深センの総面積の48.8%をエコ・グリーン地帯とする計画で、加えて都市の公共の商業付属施設や交通計画などにより、住宅用地の開発はすでにまったくその余地がなくなっている。

2014年までに深センでは計画建設面積の99%の使用を終えており、残る開発可能な土地はほとんどが中心地区以外のものである。また別の面においても、深センは全国でも科学技術イノベーションの中心であり、全国の高学歴の若者が流入し、若者は同時に不動産購入の主要な年齢層でもある。これらの要因がすべてあわさり、深センの不動産価格が全国記録を絶えず更新しているのは、不思議なことではないようだ。

一級都市ではブーム、三・四級都市では泥沼化、もはや常軌を逸した不動産市場

『証券時報』によると、今年に入って一級都市では、尋常ではない高値による不動産の購買合戦が繰り広げられ、これによって将来的に北京では1平米あたり10万元の住宅プロジェクトが50件も計画されることになるという。

上海でも不動産市場が異常に過熱

 今年の1月から10月まで、上海の新築高級住宅の取引件数は2.9倍に跳ね上がった。まるで土地を奪い合うかのような勢いは、すでに他の都市にまで広がっており、10月下旬以降、北京、南京、杭州、温州、仏山の五つの都市では10日もたたないうちに、「地王(どんなに値段が高くても土地を購入しようとする不動産業者)」が6社も誕生した。

 だが、これはとても危険なギャンブルだ。もし都市全体が高級住宅化したり、一般住宅までもが高級住宅化したりするならば、どれほどの人々がその状況に対応することができるだろうか?

専門機関の概算によると、1平米あたり10万元の高級住宅市場における北京の将来的な供給規模は4000から5000軒であり、供給と需要の比率はだいたい201で、供給が需要を大きく上回ると予想されている。

 実のところ、一部の開発業者はすでに経営が回らなくなってきている。近ごろ、著名な不動産デベロッパーである碧桂園と龍湖が土地を返上したというニュースが伝えられた。それと共に、一級都市とは反対に三・四級都市で不動産市場は泥沼化の状況を呈しており、もはや尋常ではなくなっている。

多くの中国人投資家たちが東京の不動産に照準

 不動産投資の波は東京にも押し寄せている。『ウォールストリート・ジャーナル』は114日、ますます多くの中国人投資家が現在、東京の不動産に狙いを定めていると報じた。彼らを引き寄せているのは、その安定した収益と、この市場ではハイグレードな建築物の需要が強いこと、そして訪日観光客の宿泊需要があることだ。

目黒雅叙園アルコタワー

 記事によると、30歳の中国の企業家・牛志方は、7月に会社の寮として使われていた建物を購入した。約2億円をかけて学生用マンションに改造する計画だ。

 中国投資公司(CIC)は1月にジョーンズ・ラング・ラサール傘下のラサール・インベストメント・マネージメントと共同で東京の目黒雅叙園を買収した。復星集団は昨年、オフィスビル2棟を買収し、現在はホテルの買収を検討中だ。

 記事は、中国人の東京の不動産市場への投資額は、ニューヨークやロンドン、シドニーなどに比べまだ少ないが、今後数年間でこうした状況が変わる可能性があると指摘している。過去1年間で、東京都心部のオフィスビルの賃貸料は平均で4.7%上昇している。

人民元、基準通貨入りへ=30日決定―IMF時事通信 1114()

 

 【ワシントン時事】国際通貨基金(IMF)は13日、準備資産「特別引き出し権(SDR)」の算定基準となる通貨に中国・人民元を加えるのが妥当との報告を正式発表した。
 IMF加盟国から大きな反対の声は上がっておらず、元は30日の理事会で、ドル、英ポンド、日本円、ユーロに続き、5番目の基準通貨に決定される見通しだ。
 元が基準通貨入りすれば、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設を主導する中国が、国際金融で一段と存在感を強めることになる。
 基準通貨への採用は「貿易での利用量」や「取引の自由度」が条件。IMFは報告で、中国が取り組む市場改革を評価し、理事会に「元は(量だけではなく)自由度でも条件を満たした」との見解を伝えた。
 ラガルドIMF専務理事は「報告を支持する」と明言。加盟国代表で構成する理事会に承認を仰ぐ意向を示した。
 元の基準通貨入りを要求する中国に対し、米国や日本は当初、警戒姿勢を示していた。しかし、中国との経済緊密化を狙う欧州諸国が賛成に傾いたため、日米も「基準を満たせば支持する」などと姿勢を軟化させた。
 SDRIMF加盟国に出資額に応じて配分される仮想通貨で、外貨不足に陥った国は、手持ちのSDRを米ドルなどと交換できる。今年は5年ごとの構成通貨の見直し作業が行われた。 

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【Japan関連】

民泊、許可制で全国解禁 来春にもルール 訪日客急増に対応 2015/11/22 情報元

日本経済新聞 電子版

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 厚生労働省と国土交通省は個人が所有するマンションや戸建て住宅の空き部屋に旅行者を有料で泊める「民泊」を来年4月にも全国で解禁する方針だ。現在は旅館業法などで原則禁止しているが、無許可の営業が広がり、トラブルも相次いでいる。訪日客の急増で宿泊施設の不足が深刻になっており、早急に明確な基準をつくり、安心して使える民泊を普及させたい考えだ。

 

 政府は6月にネット仲介を通じた民泊の規制改革について16年中に結論を得ることを決めた。ただ法令違反が続き、旅館業法違反の容疑で逮捕者が出たり、見知らぬ人物の出入りによる近隣の苦情が増えたりするなどの問題が噴出。厚労省と国交省は法改正を必要としない範囲で早急に基準を整えることにした。

 厚労省は今年度中に旅館業法の省令を改正し、営業許可の基準を緩和する。「ホテル」「旅館」「簡易宿所」「下宿」の4種類の営業許可に、新たに「民泊」を加える案が有力だ。都道府県などに申請して基準を満たせば、許可を得られる。

 許可の基準は、客室数の規制がないなど民泊に最も近い簡易宿所を参考にする。簡易宿所は客室の延べ床面積が合計33平方メートル以上必要だが、一般住宅を利用する民泊の場合は広さの基準を緩和する見通しだ。旅館業法には宿泊名簿の管理や入浴設備、換気などの詳細な規則があるが、民泊の実情に合わせた新たな基準を検討する。

 国交省は建物の安全規則を定めた建築基準法の運用で民泊の扱いを検討する。旅館業法で営業許可が出ると、建築基準法では自動的に「ホテル・旅館」に区分けされ、非常用照明の設置などが求められる。ただ実際に貸し手が生活する住宅であれば、新たな設備の設置を不要にする方針だ。

 旅館業法の許可は都道府県などが出すため、自治体が民泊の実態を把握しやすい。近隣で事故やトラブルが発生した場合には立ち入り調査や警察との連携も取りやすくなるとみている。ただ訪日客の場合、言葉や文化の違いから深夜の騒音などで近隣住民とのトラブルが相次ぐことも予想される。特に住宅地などで民泊を始める場合、こうした問題をどう防ぐかが大きな課題になる。

 すでに政府は国家戦略特区で旅館業法の適用を特例で外し、訪日客向けの民泊を認める制度を設けている。東京都大田区が早ければ来年1月に開始するが、7日以上の滞在が条件になる。旅館業法の許可であれば、宿泊日数の制限がない。ただ一方で、今回の制度は旅館業法の許可を受けるため、固定資産税を6分の1に軽減する住宅向け特例が当面は適用されないデメリットもある。

 厚労省と国交省は長期的な視点で法改正を含む対策も検討する。月内に有識者会議を立ち上げ、違法営業の取り締まりなどのトラブル防止策や適切な課税方法などを議論する。今年度内に方向性をまとめ、来年末までに報告書を作成する。与党との調整も踏まえ、法整備は早くても17年の通常国会になりそうだ。

三越伊勢丹、免税品を除いた売り場の実態、大西社長、「消費の状況はよくない」の真意藤尾 明彦 :東洋経済 記者 藤尾 明彦ふじお あきひこ

東洋経済 記者

201410月からニュース編集部。小売り業界を中心に、『週刊東洋経済』や「東洋経済オンライン」のニュース記事の執筆・編集を担当。『週刊東洋経済』、『株式ウイークリー』の編集を経験。健康オタクでランニングが趣味

20151115日 TK

三越銀座店の201549月期における免税品売り上げシェアは27%に達した(撮影:尾形文繁)

「消費の状況はよくない。下期も厳しい」

百貨店最大手・三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長は、決算説明会の場で、同社の置かれた市場環境を厳しい表情で語った。

中間期(201649月期)の業績自体は好調だった。売上高は前年同期比5.5%増の6139億円、営業利益に至っては同48.6%と大幅増の145億円で着地。20084月に三越と伊勢丹が統合して三越伊勢丹HDが誕生して以来、中間期の営業益は2期ぶりに過去最高を更新した。

免税品を除くと、売り上げの伸びはわずか

しかし、好調な業績の内訳をひも解くと違った景色が見えてくる。同社の業績を牽引したのは、ひとえに訪日中国人客による免税品の購買だった。上期に免税品売り上げは前年同期比約3倍の301億円に拡大。その影響を除くと、国内百貨店の売り上げの伸びは2%にとどまった。

前期は4月に実施された消費税の増税による影響で特に上期は急激に消費が落ち込んだ。「(ハードルが下がっていたので)今期は反動増でもっと伸びてもおかしくはなかった。しかし、実際は施策を打っていなければ(国内客の消費は)落ち込んでいた状況だった」と大西社長は危機感をあらわにした。

国内客の消費意欲が鈍い一因として、中間層の家計収支が改善していないことが考えられる。大西社長は「円安で(輸入品など)日常品のコストが上がった」ことをその理由に挙げた。店舗別に見ると、訪日客や富裕層が多く訪れる伊勢丹新宿店は前年同期比10.0%増、三越銀座店は同26.4%増と大きく売り上げを伸ばしたが、郊外の伊勢丹立川店は同0.4%減、三越千葉店は同5.3%減とさらに売り上げを落とした。

三越銀座店の前には開店前から訪日客が大勢押しかける

一方、免税品の販売は好調を維持している。中国は811日~13日にかけ、対ドルで人民元の基準値を3日連続切り下げ、「人民元ショック」が市場を揺るがした。1元=20円台から一気に18円台半ばまで円高が進んだため、訪日客数の減少が懸念されたが、足元では1=19円台前半まで戻っており、円高の進行には歯止めがかかった。

免税販売が好調な理由は円安だけではない。201410月からの免税対象品の拡大、20151月からのビザ発給要件の緩和、日中間のLCC(格安航空会社)の増便、さらに日本製品への信頼感も「爆買い」を後押ししている。こうした複合要素の下支えがあるため、どれか一つが欠けたとしても直ちに免税販売が大きく落ち込む可能性は低くなっている。下期の免税品売り上げは上期実績の300億円に対し400億円を計画。当面は拡大基調が続きそうだ。

新宿店、日本橋店で大規模改装を予定

国内消費の不振に対応するため、三越伊勢丹HDは基幹店の改装を積極的に行う。今年10月に、約50億円を投資して三越銀座店のリモデルを実施。10月の同店の売り上げは前年同月比18%増、予算比でも5%増と出足は順調だ。

2016年から2017年にかけては、伊勢丹新宿店の食品・レストランフロアと三越日本橋店のリモデルを計画。大西社長は「新宿店のレストランは食事のためにわざわざ足を運んで頂けるように変えたい。営業時間の延長も検討している」とコメント。日本橋店に関して具体案は明かされなかったが、「アート、ラグジュアリーを切り口とした商品構成を考えている」(大西社長)とした。

20163月期の通期業績に関して、同社は売上高13100億円(前期比3.0%増)、営業利益370億円(同11.8%増)と増収増益の見通しを立てている。ただ、これは少数の訪日客と富裕層による高額消費の貢献によるところが大きい。収益基盤を厚くできるかは、多数を占める中間層を店舗へ呼び込めるかどうかにかかっている。

マイナス成長の原因は、消費税でも世界経済停滞でもなく円安政策野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] 【第38回】 20151119 DOL

円安で企業利益は増えているのに、なぜマイナス成長に陥るのか

 日本経済は、2期連続のマイナス成長になった。このことの意味は極めて大きい。

 政府は、201546月期のマイナス成長を一時的とした。しかし、いずれ回復するとしてマイナス成長を無視するのではなく、その原因を真剣に検討することが必要である。

 消費税の増税からすでに1年半経っているので、停滞の原因を消費税に押し付けることはできない。また世界経済の停滞が原因だとも言われるが、後で見るように、そうとも言えない。

 経済政策が内蔵する要因のために、長期的な停滞から脱出できないのである。具体的に言えば、円安政策のためにマイナス成長に陥るのだ。

2期連続のマイナス成長、世界の中でも悪い日本の状況

 内閣府が発表した201579月期の国内総生産(GDP)第1次速報によると、実質GDPは、前期比0.2%減、年率換算で0.8%減となった。46月期(年率換算で0.7%減)から2四半期連続のマイナス成長だ。しかも、マイナス幅がわずかではあるが、拡大している。

 なお、前期(46月期)の実質GDP成長率は、年率換算0.7%減、前期比0.2%減と2次速報値(それぞれ1.2%減、0.3%減)から上方改定された。

 今年度の成長率はどうなるだろうか?

 仮に1012月期と1613月期における実質GDP成長率が前期比年率0%であれば、15年度の成長率は、0.62%となる。これは、後で述べるIMFの見通しに近い数字だ。

 政府の経済見通しでは、15年度の実質GDP成長率は1.5%とされている(平成27年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度15112日、閣議了解)。

 これを実現するためには、1012月期と1613月期における実質GDP成長率が、前期比年率で4.73%となる必要がある。これは、とうてい実現不可能だろう。

 外国の状況はどうだろうか?

 欧州連合(EU)統計局が発表した第3四半期のユーロ圏の域内総生産(GDP)速報値は、前期比0.3%増、前年比1.6%増だった。

 なお、IMFが試算する15年の実質GDP成長率は、日本0.591%、ドイツ1.509%、アメリカ2.568%などとなっている。

 このような比較からも、先進国経済のなかで、日本のパフォーマンスが相対的によくないことが分かる。マイナス成長の原因を世界経済の停滞に求める考えは、こうした比較からも、誤りであることが分かる。

最近のGDP増加は公共支出頼み、円高期のほうが成長率が高かった

 実質GDP(季調済み)の推移は、図表1に示すとおりである。201513月期に消費税増税後のピークに達したあと、減少傾向にあることが分かる。

  そうではあっても、15年のGDPの水準が12年や14年に比べて増加しているのは事実だ。しかし、増加をもたらしたものは、公共支出なのだ。

[図表1]実質GDPの推移

(注)季調済み年率、実質(資料)内閣府

図表2には、政府最終消費支出と公的固定資本形成の合計を示してある。安倍晋三内閣発足以降増加し、最近にいたって再び増加していることが分かる。

 後で見るように、GDP需要項目の中で最も重要なのは消費支出だが、この水準は、中期的に見て減少気味である。

[図表2]政府最終消費支出と公的固定資本形成の合計の推移

(注)季調済み年率、実質 (資料)内閣府

 実質GDPの四半期別対前年同期比の推移を見ると、図表3のとおりである。

 東日本大震災の影響を除けば、1012年頃の円高期のほうが成長率が高かった。安倍内閣の発足後は、高くても2%程度にとどまっており、最近では1%に低下している。 

[図表3]実質GDPの四半期別前年同期比の推移

(資料)内閣府

後出の図表4で見るように、円安によって物価が上昇し、それが実質消費を中期的に見て減少させ、経済成長率を抑えているのだ。これは、物価上昇率の引き上げを目標とする経済政策が、基本的に誤っていることを示している。

企業の利益増にもかかわらず設備投資が減少を続ける

 今回のマイナス成長に最も大きな影響を与えたのは、民間企業設備(設備投資)である。前期比でマイナス1.3%、年率換算でマイナス5%となった。これは、2四半期連続のマイナスだ。

 企業の利益が伸びているにもかかわらず、設備投資が増加しないのである。こうなるのは、企業利益の増加メカニズムのためである。

 仮に生産が増加して利益が増加しているのなら、企業は設備投資を行なうだろう。しかし、鉱工業生産指数の推移に見られるように、生産は減少している。

 円安によって輸出の円建て売上高が増加し、半面で賃金が伸びないため、利益が自動的に増加しているにすぎない。だから、設備投資が増えるような状況ではないのだ。製造業の国内回帰ということが言われるが、それも本格的には進まないだろう。

2015年版『経済財政白書』は、現在の日本経済の状況を「四半世紀ぶりの成果」であるとし、「経済の好循環が着実に回り始めている」としている。しかし実際に起こったことは、好循環とは縁もゆかりもないものである。

 こうした実体経済の停滞にもかかわらず、株価は上昇している。株価が上昇しているために、人々は日本経済が改善していると錯覚している。

 しかし、上述のように、株価の上昇は、輸出売り上げが増える中で賃金が増加しないから生じているものである。つまり、日本の労働者が貧しくなっているから企業の利益が増大するのである。

実質消費は増加したが中期的には減少、アベノミクスの基本的な誤りを示す

 他方で、家計最終消費支出の前期比は0.5%増と、前期(0.6%減)から2四半期ぶりに増加に転じた(年率換算で2.1%増)。ただし、つぎの2点に注意が必要だ。

 第1に、これは名目賃金が顕著に上昇したためにもたらされたものではなく、消費者物価が下落したために生じたものだ(消費者物価の上昇率は、コアCPIで見て、8月、9月は前年比マイナス0.1%と低迷している)。

 そして、消費者物価の下落は、原油価格の下落という外国からの贈り物でもたらされたものだ(そうした贈り物があったにもかかわらず、経済全体がマイナス成長になってしまったのだ)。つまり、アベノミクスの成果ではなく、逆に、日銀の物価目標が達成されなかったことによって実現したものである。

 言い換えれば、79月期における実質消費の増大は、アベノミクスの基本的な思想が間違っていることを示しているのである。

 消費支出について第2に注意すべきは、中期的に見ると減少していることだ。この状況は、図表4に示されている。

201579月期に前期より増加しているのは事実だが、傾向的な増加を示しているものではない。また、12年の値に比べて減少気味だ。13年に消費税増税前の駆け込み需要で一時的に増加しただけだったのである。

[図表4]家計最終消費支出の推移

(注)季調済み年率、実質 (資料)内閣府

売り上げ低迷でまだ続く在庫調整、今後のGDPにマイナスの影響

 その他の需要項目の推移は、つぎのとおりだ(数字は、在庫品を除き、季調済み実質値の対前期比)。

 政府固定資本形成(公共投資)は0.3%減と、2四半期ぶりにマイナスとなった。民間住宅投資は1.9%増と、3四半期連続でプラスだった。

 在庫の寄与度(実質民間在庫品増加の季節調整系列寄与度)は、マイナス0.5%だった。売り上げが伸びないので企業は生産を落とし、在庫を減らしているのである。

 在庫指数の動向は、図表5に示すとおりだ。

6月以降頭打ちになり、9月には減少している。こうした動きがGDP統計に表れているわけだ。

 ただし、水準としてはまだ高いので、在庫調整が簡単に終了するとは考えられない。在庫調整がまだ続くとすれば、今後のGDP成長率にはマイナスの影響を与える。

[図表5]在庫指数の推移

(資料)経済産業省

ドル建て輸出は減少しているが実質輸出は増加、中国の減速は大きな影響を与えていない

 海外需要は、経済全体の成長にプラスの寄与をしている。外需の寄与度(実質純輸出の季節調整系列寄与度)は、0.1%だ。

 輸出も前期比2.6%増だった(年率で10.9%)。財の輸出は世界経済減速の影響で振るわなかったが、サービス輸出が好調だった。実質季節調整系列の伸び率(年率)で見て、財貨の輸出が7.3%だったのに対して、サービスの輸出は31%だった。

 しばしば、現在の経済停滞の原因は、中国をはじめとする新興国の減速だと言われている。中国に対するドル建て輸出が減少しているのは事実だ(日本貿易振興機構が公表する「ドル建て貿易概況」によると、1519月のドル建て輸出の前年同期比は、対世界がマイナス9.5%、対中国がマイナス14.2%)。しかし、それはGDPにはあまり大きな影響を与えていないということがわかる

問題は短期的な変動ではなく長期的停滞、経済構造にメスを入れる政策が必要

 来年の日本経済が、為替レートがどうなるかで大きな影響を受けることは間違いない。ただし、それがプラスに影響するのは、これまでのように企業利益や株価である。

 実体経済に対する影響は、これまでのように、物価が上昇して実質消費が減少するというものでしかないだろう。

1012月期は回復するという意見もあるが、いまのところ確たる根拠は見当たらない。

 日銀が追加緩和しても、影響は株価に留まるだろう。

 政府は、GDP600兆円の実現に向けた緊急対応策を今月中にとりまとめるとしている。しかし、仮に公共事業を増加させたとしても、一時的な効果に留まるだろう。

 問題は短期的な経済変動ではなく、日本経済が長期的な停滞状態から抜け出せないことである。そしてこの問題は、金融緩和では解決できないということが明らかになったのである。経済の基本構造にメスを入れる経済政策が必要だ。

7~9月期実質GDP、年率0.8%減2期連続マイナス15/11/16 日経Net

 内閣府が16日発表した2015年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.2%減、年率換算では0.8%減だった。4~6月期(年率換算で0.7%減)から2四半期連続のマイナス成長となった。中国景気の不透明感などを背景に、企業の設備投資が低調だった。実質賃金の改善傾向が続く中で、前期に落ち込んだ個人消費は持ち直した。

 QUICKが13日時点で集計した民間予測の中央値は前期比0.1%減、年率で0.3%減だった。

 生活実感に近い名目GDP成長率は前期比0.0%増、年率では0.1%増だった。僅かながら、4四半期連続のプラスだった。

 実質GDPの内訳は、内需が0.3%分のマイナス寄与、外需は0.1%分の押し上げ要因だった。

 項目別にみると、設備投資は1.3%減と、2四半期連続のマイナスだった。企業収益は過去最高水準で推移しているが、設備投資への意欲は高まらなかった。企業が手元に抱える在庫の増減を示す民間在庫の寄与度は、0.5%分のマイナスだった。

 個人消費は0.5%増と、前期(0.6%減)から2四半期ぶりに増加に転じた。公共投資は0.3%減と、2四半期ぶりにマイナスとなる一方、住宅投資は1.9%増と3四半期連続でプラスだった。

 輸出は2.6%増、輸入は1.7%増だった。輸出の回復ペースは鈍かったものの、原油安などの影響で輸入の伸びも小さく、GDP成長率に対する外需寄与度はプラスとなった。

 総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期と比べてプラス2.0%だった。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは0.2%上昇した。

 2015年度の実質GDP成長率が内閣府試算(1.5%程度)を実現するためには、1012月期、16年1~3月期で前期比年率4.7%程度の伸びが必要になるという。〔日経QUICKニュース(NQN)〕

傾斜マンション問題、浮かぶ3つの論点2015/11/12 日経Net

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 傾斜マンション問題の補償費用分担を巡る3つの論点が、三井住友建設と旭化成の発言から浮かび上がってきた。

■管理責任どこまで

 一つ目は三井住友建設の管理責任だ。元請けは本来、工事が適正に進むようにする責任がある。だが、三井住友建設の永本芳生副社長は「旭化成建材を過信したことが根本の原因」と述べるなど、自社の責任は限定的という立場だ。問題のマンションの地盤は地中十数メートルにある強固な「支持層」の起伏が激しいが、「国の指針に基づいて管理すれば十分にやってもらえると思っていた」と話す。

 一方、旭化成の関係者は、「特殊な地盤のため国の指針に従うだけでは適正とは言えない」と話している。

■工期圧力の有無

 もう一つの焦点は工期厳守の圧力の有無だ。

 三井住友建設の永本副社長は工期について「非常に余裕があった。(長い杭に交換するため)仮に2~3週間かかっても全体の工期の中で吸収できた。販売者の三井不動産レジデンシャルとの関係は深く、言ってくれれば対応した」と話した。

 しかし旭化成の平居正仁副社長はこれまでの会見で「工期が現場へのプレッシャーになったかじっくりヒアリングしたい」と述べるなど、工期厳守の圧力があった可能性を示唆する。杭の交換も三井住友建設は「10日ほどで可能」との認識に対し、旭化成は「1カ月かかるため、工期への影響は避けられなかった」と両社の主張はすれ違う。

■杭は本当に未達か

 さらに決定的なのが「本当に杭は支持層に未達か」という点だ。三井住友建設は「傾いた棟に使われている計8本の杭が支持層に未達だったり届き方が不十分だったりする」との見解だ。

 ところが旭化成の平居副社長は以前の会見で「工事をした当事者らは『杭は支持層に到達した』と口をそろえている」と述べてきた。杭以外に傾斜の原因がある可能性も指摘している。(藤野逸郎、新井惇太郎)

非コメどころの猛追で王者・新潟も逆襲へ、ブランド米戦国時代を制するのは?ダイヤモンド・オンライン編集部 20151113

コメがまずいと言われ続けてきた北海道や青森県が次々に新品種を開発し、ブランド米市場を席巻している。過去5年で、コメの食味ランキングの最高位「特A」は倍増。今や全国でブランド米大競争が起きている。

初登場でコシヒカリ超え!青森県、悲願の「特A」米

「青天の霹靂」(青森県)や「森のくまさん」(熊本県)など、変わった名前ながら「味は折り紙付き」と評価される新興ブランド米が多数誕生している

 「これまで、取ろうと努力をしても、取れなかったのですが…」。

1971年から実施されている日本穀物検定協会の「米の食味ランキング」。最高ランクの「特A」が取れるかどうかは、コメの生産者や農協、都道府県関係者にとって、大きな関心事だ。

 青森県はこれまで、一度も最高ランク「特A」を取ったことがない。しかし、ここにきてようやく悲願の「特A」取得に成功した新品種「青天の霹靂」が、先月から発売された。

 

 青森県内でもスーパーに行列ができただけでなく、首都圏でもイベントを開催した銀座三越で「青天の霹靂」フェアが盛況となるなど、出だしは好調だ。

 県担当者は「ブランド米としてはむしろ後発。しかし、味わいの良さは、ランキングの審査員の方々からも高い評価を頂いた。また、意表を突いたネーミングや米袋のデザイン、さらには青森県内でしか放送をしていませんが、テレビCMを打つなどの広告戦略も成功したのでは」と話す。

 青森県だけではない。過去数年、新興ブランド米が続々と誕生している。

 

 上図にあるように、「特A」を取得した銘柄の数は、過去5年で倍増した。

 さらに、2014年産で「特A」を取得した銘柄(右図参照)を見てみると分かるように、依然「コシヒカリ」が強さを見せつけているものの、北海道や青森県、熊本県など、かつては、コメに関してはパッとした印象のない道府県が作った、独自ブランドのコメがランクインしている。

 “最強”と名高い新潟県産「コシヒカリ」は、価格面でも新興ブランド米に押され気味だ。

 魚沼産「コシヒカリ」だけは別格で、今も最高値の地位を維持しているものの、そのほかの新潟県産「コシヒカリ」に関しては、「青天の霹靂」や「つや姫」(山形県)、そして「ゆめぴりか」(北海道)などに価格で逆転された。

コメ作りもPRも戦略的に、全国区目指すホクレンの野望

 全国区のブランド米を作った成功事例として知られるのが、北海道のブランド米戦略だ。かつて、北海道のコメは「やっかいどう米」などと言われ、「安いだけが取り柄の美味しくないコメ」の代表格だったが、今や「ゆめぴりか」「ななつぼし」「ふっくりんこ」など、全国でも名の知られたブランド米を多数生産する地域に変身した。

 北海道米を成功に導いたポイントの1つは、大胆なテレビCM戦略だ。せっかくうまいコメができても、知名度が低ければ、値段も安いままだし、数もさばけない。たとえば「ななつぼし」は販売後、10年経っても首都圏での認知度は4割程度でしかなかった。

大ブレイクをしたマツコ・デラックスさんを起用したホクレンのCM。北海道のブランド米を一気に全国区に押し上げる威力を発揮した

 やはりブレイクを果たした山形県のブランド米「つや姫」は、関東限定で阿川佐和子さんを起用したCMを流していた。「ゆめぴりか」は道外で本格的に売り出したい。そう考えたホクレンは、タレントを起用して関東や関西、中京地区など、大々的にCMを打つことに決めた。

 特に大ブレイクしたタレント、マツコ・デラックスさんの起用が当たり、CM前は東京で2割だった「ゆめぴりか」の知名度は、今では9割になった。同じく「ななつぼし」も8割に向上している。

 もう一つ、ブランド米として生き残れるかどうかを左右するカギは、高品質の維持にある。「独自の基準を満たした、いいコメしか『ゆめぴりか』を名乗れません。合格率は毎年7580%です」。ホクレン米穀事業本部米穀部主食課の南章也課長は、こう話す。基準外のコメはブランド名を名乗れず、業務用などに流通していく。

 こうした業務用向けは売値は安いうえに、「ゆめぴりか」は収量が少なめ。「名乗れない『ゆめぴりか』種を作るくらいなら、最初から価格の安いコメを作った方が儲かります」(同)。

 「青天の霹靂」もやはり、独自基準を設けて収穫したコメを選別するほか、青森県が生産者指導プロジェクトチームも結成。水田の土壌分析をして、問題があれば土壌改良をしてもらうなどの対策を講じている。このほか、山形県の「つや姫」も、こうした基準を設けているブランド米だ。

産地を競わせ品質を強化、迎え撃つ新潟県の“新兵器”は?

 さらにホクレンは今年から、「『ゆめぴりか』コンテスト」を実施。「ゆめぴりか」の中でも、最優秀サンプルに選ばれた「最高金賞ゆめぴりか」は、12月下旬から、魚沼産コシヒカリと同程度の価格で、数量限定販売をする予定だ。

 また、「ゆめぴりか」の基準を満たしていることを示す「認定マーク」の周知徹底にも力を入れる。今年10月から新たに開始したマツコ・デラックスさんのCMは、この「認定マーク」を消費者に知ってもらいたい、との思いが込められている。

 ホクレンが品質維持に躍起になる背景には、不透明な流通が横行していることにある。実際、基準を満たしていないのに、こっそり「ゆめぴりか」を名乗って販売されていたケースも見つかっている。「違法行為」ではないのだが、ブランド維持のために好ましくないことは、言うまでもない。

 生産者に品質を守ることを意識してもらい、さらに切磋琢磨をしてもらうとともに、「よい米を作れば、高く売れる」という好循環を作って行かなければならない。

 ブランド米ブームも後押ししているため、発売直後は売れるかも知れないが、長い目で見れば、「いつ買ってもおいしい」と評価される実績を積み重ねなければ、ブランド米として安定した地位を築くことはできない。新興ブランド米に広がった、厳格な基準による生産者への指導や、収穫したコメの選別の流れは、今後も広がって行くだろう。

 こうした攻勢を迎え撃つ新潟県は来年、新ブランド米「新之助」を世に出すことが決まっている。「コシヒカリ」と肩を並べるトップブランドという位置づけで、「ゆめぴりか」や「つや姫」「青天の霹靂」と同じように、厳格な基準で選別を行う。

 米価は下落傾向が続いており、昨年度などは「暴落」と言える落ち込みぶりだった。そんな環境下にあって、「各県とも、ブランド米に賭ける意気込みは大きいはず」(青森県農林水産部販売戦略課)。ブランド米は、コメ農家の生き残りにも大きく影響する戦略商品なのだ。(ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)
 
通知カードが届かない!?ついに始まったマイナンバー大混乱

週刊ダイヤモンド編集部 【15/11/21号】 20151116

『週刊ダイヤモンド』1121日号の第1特集は「マイナンバー最新対策」。この10月下旬からマイナンバーの通知がスタートしました。20161月からは税・社会保障分野で利用が始まり、すべての企業がこれに対応をしなければなりません。ところが、その現場では戸惑いが広がり、悲鳴さえ上がっています。その実態をつぶさに追い、企業がこうした混乱に巻き込まれないための「最新版対策」をご紹介します。

続々届く膨大な数の簡易書留にあぜんとする浦安市役所職員

1030日、千葉県の浦安市役所に届いた簡易書留の膨大な数に、担当職員はあぜんとさせられた。

 その数、約1000通。封筒には、市内の約1000世帯に向けて発送された社会保障・税番号(マイナンバー)の「通知カード」が収められている。

 同市では全国に先駆けて同月23日から郵便局員による配達が始まった。

 しかし不在などの理由で宛先の住人の手元に届かなかった書留は、郵便局で原則7日間保管した後に順次、市区町村役場に送り返されることになっている。

11月に入ってからも、浦安市役所には毎日のように数十通から数百通の書留が届き、10日時点で約4000世帯分に達した。すでに市内約75000世帯の5%を超えたが、「未達」の書留はさらに増え続ける見込みだ。「最終的にどのくらいの未達が出るのか、全く予想がつかない」と職員は頭を抱える。

 日本郵便によると、11日までに全国で配達した720万通のうち、4.3%に相当する31万通が未達だった。配達量が増えるにつれ、未達数が今後も積み上がるのは必至だ。今のところ、全国民の1割程度しか通知カードは届いていない。

 なぜ大量の未達が出るのか。

 そもそも浦安市のような都市部では、住人の帰宅時間が遅かったり長期出張中で書留を受け取れなかったりするケースが多い。また、宛先は105日時点の住民票の住所のため同日以降に転居した場合、住民票を移していても最初は旧住所に送られてしまう。

 通知カードの書留は「転送不要」のため、郵便局に転送届を出していても自動的に役所に送り返されてくるのだ。

 そこで市は通知カードを保管している旨を記した封書を近く発送し、役所まで取りに来てもらうか、要望があれば書留で再送する方針だ。普通郵便で封書を送れば転送先住所に行き着くので、住人の所在を〝追跡〟できる。

 それでも連絡が取れなかった場合、通知カードを送り届ける作業は困難を極める。役所での保管期限は最短3ヵ月間。多くの自治体では専従の職員チームを編成し、所在不明者の行方を追うべく臨戦態勢を取る。

 そんな中で聞こえてくるのは、国への恨み節だ。自治体職員は、総務省の事務処理要領を参照しマイナンバー制度への対応を行うが、この要領の最終版が確定したのは法施行直前の9月末だった。職員は「想定外の事態を考える余裕もなく、要領を読み込みながら実務を同時に進めている」(神奈川県のある自治体職員)というドタバタぶりだ。

11月中配達は絶望的?当初予定の延期で現場から悲鳴

 しかし「想定外」の事態は早くも起こっている。

 千葉県内の介護付き有料老人ホームでは、住民票を自宅から施設に移した入居者の通知カードが届き始めた。しかし施設入居者の中には判断能力が低下し、マイナンバーを自ら管理できない高齢者も多い。実は、介護施設が入居者のマイナンバーをどう取り扱うかいまだにルールが定まっていない。留意点をまとめた事務連絡は、厚生労働省が10月中をめどに通知する予定だったが、「関係各所の調整に時間がかかっている」(厚労省保険計画課)として遅れているのだ。

 施設職員は「ルールがはっきりしないので勝手に家族に渡すわけにもいかない。結局、開封しないまま金庫に保管している」。国の方針決定の遅れで現場に混乱が生じているのだ。

 通知カードは、地方公共団体が共同運営する「地方公共団体情報システム機構」(JLIS)が作成し、全国各地の郵便局へ発送する手順になっている。しかし全国の郵便局が引き受ける予定の5600万通のうち、1111日時点で実際に届いたのは4割程度に過ぎない。

12000万枚という全国民の通知カードを一度に印刷するには、業務を担う国立印刷局の既存施設ではキャパシティに限界があり、印刷や封入が終わっていない通知カードが大量にあるためだ。

 国は11月中に全世帯への初回配達を終える目標だが、仮に郵便局に通知カードが届いたとしても、そこから局内での仕分けや確認作業を経て実際に配達を完了させるには、引き受けから720日間を要する。横浜市や大阪市など大都市の郵便局に通知カードが届くのは11月中旬以降とみられ、「11月中」という政府の目標達成はほぼ絶望的な状況なのだ。

 こうした通知カードの配達遅れは民間企業にとっても死活問題となる。

ついに始まったマイナンバー大騒動、本当にやるべきことは何なのか?

 

『週刊ダイヤモンド』1121日号の第1特集は「マイナンバー最新対策」です。住民11人に割りふられた12桁の個人番号。その通知カードの配達をめぐって今、不安や困惑が広がっています。

 ただし、通知カードにびくつく必要はむろんありません。通知カードが届いたら当面、なくさないよう大事にとっておいてください。大企業の皆さんは、勤務先から「通知カードが届いたら、コピーを送付するように」と「マイナンバーキット」を渡されているかもしれません。その手続きに従うだけです。

 なお、個人番号カードを持っていると、いろいろな提出手続きがラクになります。希望する人は20161月以降、交付申請してください。

 厄介なのは、個人ではなく、企業のほうの対応です。すべての企業は20161月以降に順次、税と社会保障の分野の手続きで、個人番号を使うようになります。その取り扱いには、「番号の利用目的をはっきりさせないとダメ」「番号がその人のものと確認しないとダメ」「きちんと安全に管理、保管、破棄しないとダメ」と、さまざまな制約が課せられます。

 しかも、漏えい、不正提供などしようものなら、厳しい罰則が設けられています。個人情報保護法などとは比べ物になりません。大きな重圧がかかるのです。

 こうして対応に翻弄される企業のドタバタ事情を、外食、小売り、銀行、保険、製薬、病院、電力、通信、建設、介護、大学の各業界で追いかけました。

 企業のマイナンバー対応は、ビジネスチャンスとなるのも確かです。50万円近くの顔認証ロック付き金庫は売上げ倍増、鍵付きアタッシュケース、パーテーションなども飛ぶように売れています。

 一方対応システムの特需で、恵まれているはずのITベンダーは、食うか食われるかの白兵戦に突入、地殻変動の只中にあります。税理士や社会保険労務士なども、制度対応できないと仕事を奪われる死活問題とっています。

 企業のマイナンバー対応がさらに厄介なのは、「正しい対策」「賢い対策」の中身が変わってきていることです。10月に入って以降も突如、ガイドラインが改定され、また社会保険などの新たな注意ポイントが明らかにされました。

 早くから着手していた大企業も安心していられません。20161月の実務開始が近づくにつれてクリアになってきた「最新対策」を徹底解説します。

「マイナンバー対応はまだ……」という中小企業の皆さんも、頭を抱える必要はありません。まだ間に合います。おカネをかけずに、賢く対策する方法はあります。今、本当にやるべきことは何なのか? ぜひ本特集をご一読ください。(『週刊ダイヤモンド』編集部 重石岳史、小栗正嗣)

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【Asia関連】

歴史的政権交代へ=スー・チー氏野党、過半数制す―与党惨敗・ミャンマー総選挙時事通信 1113()

 

 

 【ヤンゴン時事】8日投票が行われたミャンマー総選挙で、連邦選挙管理委員会が13日発表した開票結果によると、アウン・サン・スー・チー党首率いる最大野党・国民民主連盟(NLD)が上下両院の過半数の議席を獲得して圧勝した。
 これにより、スー・チー氏主導の民主派政権が来年春に発足、半世紀以上にわたって「軍人支配」が続いてきたミャンマーで、歴史的な政権交代が実現することになった。
 選管は上下両院(定数合計664)の改選議席491議席中431議席の開票結果を発表。NLDは獲得議席を348議席まで伸ばし、過半数を制した。一方、軍事政権の流れをくむ政権与党・連邦団結発展党(USDP)は40議席にとどまっており、惨敗を喫した。
 2011年の民政移管後、初めての総選挙となった今回、「変革」を唱えるNLDに対し、USDPはテイン・セイン政権が進めてきた改革路線への支持を訴えたが、国民がスー・チー氏に寄せる高い人気の前に圧倒された。
 テイン・セイン大統領の任期は来年3月末まで残っており、今回の選挙結果を受けて招集される新国会で新大統領の選出投票が行われるのは同2月となる見込み。
 息子2人が外国籍のスー・チー氏は憲法の規定で大統領になれない。具体的な大統領候補の名前も明かしていないが、「大統領より上の存在」として実質的にNLD政権を自ら指揮する方針。 

<変化するミャンマー>現地写真報告 選挙の陰で―民衆の暮らしは今 (写真11枚) 宇田有三 アジアプレス・ネットワーク 1113()

 

 

ミャンマー(ビルマ)で行われた総選挙に合わせて、フォトジャーナリストの宇田有三氏は投票日までの3週間、最大都市ヤンゴンと、最も経済的に貧しいといわれる西部ラカイン州を回り、現地の人びとの生の暮らしを写し撮った。

街一番の目抜き通りに掲げられた候補者のポスターに黒いインクが投げつけられていたが、投票まで1週間というのに、そのまま放置されている。(ラカイン州)撮影 宇田有三

街一番の目抜き通りに掲げられた候補者のポスターに黒いインクが投げつけられていたが、投票まで1週間というのに、そのまま放置されている。

上座仏教が支配的なミャンマー(ビルマ)最大の行事は、4月中旬に行われる正月のティンジャン(水かけ祭り)。その次に大切な行事は、10月の満月のカソン月(雨安居開け)である。この日、全国のパゴダでロウソクが灯される。撮影 宇田有三

上座仏教が支配的なミャンマー(ビルマ)最大の行事は、4月中旬に行われる正月のティンジャン(水かけ祭り)。その次に大切な行事は、10月の満月のカソン月(雨安居開け)である。この日、全国のパゴダでロウソクが灯される。

夜明け前の市場、懐中電灯の光で野菜の品定めをし、お金のやりとりをする。(ラカイン州)撮影 宇田有三

夜明け前の市場、懐中電灯の光で野菜の品定めをし、お金のやりとりをする。(ラカイン州)

インフラが未整備な地方では、手作業で道路建設が続けられている。(ラカイン州)撮影 宇田有三

インフラが未整備な地方では、手作業で道路建設が続けられている。(ラカイン州)

ビルマ最大の都市ヤンゴンの中心を貫く「ウイザヤー通り」は僧正の名前に由来する。建設中の建物によって、像の背景の青い空は消えていく。今しか見ることができないヤンゴンの風景がある。撮影 宇田有三

ビルマ最大の都市ヤンゴンの中心を貫く「ウイザヤー通り」は僧正の名前に由来する。建設中の建物によって、像の背景の青い空は消えていく。今しか見ることができないヤンゴンの風景がある。

ヤンゴン郊外から街の中心を望む。本来なら黄金色に輝くシュエダゴン・パゴダ(左端)が目立つはずであるが、建設中のビル群によってその姿は隠されつつある。撮影 宇田有三

ヤンゴン郊外から街の中心を望む。本来なら黄金色に輝くシュエダゴン・パゴダ(左端)が目立つはずであるが、建設中のビル群によってその姿は隠されつつある。

ヤンゴン市内を走る車が急増し、あちこちで交通渋滞を引き起こす。撮影 宇田有三

ヤンゴン市内を走る車が急増し、あちこちで交通渋滞を引き起こす。

電気の通わない街でも、ビルマでは携帯電話やスマホは必需品。夜が明ける前の喫茶店でスマホの画面に見入る男性。(ラカイン州)撮影 宇田有三

電気の通わない街でも、ビルマでは携帯電話やスマホは必需品。夜が明ける前の喫茶店でスマホの画面に見入る男性。(ラカイン州)

インフラ整備が急ピッチで進められているラカイン州。電柱や送電線の鉄塔の建設が進む。撮影 宇田有三

インフラ整備が急ピッチで進められているラカイン州。電柱や送電線の鉄塔の建設が進む。

 

今年1024日はイスラーム教シーア派のイマームのフサインの殉教を悼む日(アーシューラー)にモスクの屋上で礼拝するムスリムたち。(ヤンゴン)撮影 宇田有三

今年1024日はイスラーム教シーア派のイマームのフサインの殉教を悼む日(アーシューラー)にモスクの屋上で礼拝するムスリムたち。(ヤンゴン)

ヤンゴンから郊外の町に向けて高架橋が整備され始めた。撮影 宇田有三

パナソニック、シンガポールで植物工場野菜「ベジーライフ」販売開始へみんなの経済新聞ネットワーク 1113()

 

 

"パナソニックが発売したサラダカップ"

 パナソニックの子会社、パナソニック・ファクトリー・ソリューションズ・アジア・パシフィックが1112日、植物工場で生産された野菜の販売を始めたと発表した。新ブランドは「ベジーライフ」。(シンガポール経済新聞)

 パナソニックは工業地域での屋内農場のライセンスをシンガポールで初めて取得。昨年は77平方メートル3.6トンだった生産能力を634平方メートル81トンまで拡大した。パナソニックのLED照明、FAの技術を転用し、最適な栽培環境を制御することによって、無農薬で高栄養価の野菜を安定的に供給できるシステムだ。今後もシンガポールの地産野菜を増やしていく予定。

 シンガポールは国土が限られているため、農産物のほとんどを輸入に頼っている。日本のような鮮度の高い野菜が手に入らないことが課題となっている。シンガポール政府は国内自給率向上を目標に掲げており、国内での野菜生産に力を入れている。

 今回販売された野菜はサラダカップ3種類。マリーナスクエアにオープンした「エンポリアム・ショクヒン」のほか、明治屋、伊勢丹スコッツ店、伊勢丹ウエストゲート店で販売しており、今月末にはBig Boxハイパーマーケットと一部のフェアプライスでも取り扱いを始める。(みんなの経済新聞ネットワーク)

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【USA・北米関連】

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【Europe・その他地域関連】

テロリストを憎まず=遺族の文章に共感—パリ同時テロ

時事通信 1121()

 

 

 

 

 【パリ時事】「私は君たちを憎みはしない」。
 パリ同時テロで妻を失ったフランス人ジャーナリスト、アントワーヌ・レリスさん(34)がテロの実行犯に向け、フェイスブックに投稿した文章が世界中の共感と同情を集めている。
 仏メディアによると、レリスさんの妻エレーヌさん(35)は、最多の犠牲者を出したバタクラン劇場で襲撃に巻き込まれた。レリスさんは最愛の妻を亡くし、15カ月になる息子メルビルちゃんが残された。
 やり場のない悲しみにうちひしがれる中、レリスさんは文章を投稿した。「憎しみに怒りで応じることは、君たちと同じ無知に屈することになる」「君たちは私が恐れ、市民を疑いの目で見たり、安全のために自由を犠牲にしたりすることを望んでいるだろうが、君たちの負けだ」とつづった。
 レリスさんは17日にラジオ局フランス・インフォのインタビューで、「音楽を愛したり、外出を続けたりするのが最善の反応だ」と述べ、テロに屈しない決意を示すことが最も必要だと強調。文章を執筆した動機については「息子には憎しみの中で育ってほしくない。彼のためにも、怒りや憎しみを忘れる必要があった」と話した。 

ISISには経済を破壊する力はない、イスラム主義者のテロのロジックと限界2015.11.20(金) profile Financial Times  JBPress

20151119日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

同時テロの衝撃に見舞われたパリ (c) Can Stock Photo

 パリが攻撃を受けて数日経っても、テロリストの標的にされた店の名前がなかなか言えない。公共の施設――バタクラン劇場と国立競技場スタッド・ド・フランス――は覚えやすいが、パリ東部地区のカフェやバー――ル・カリヨン、コントワール・ボルテール、ラ・ベル・エキップ――は、それ自体象徴的な場所ではなかった。ただ人々が集うだけの場所だった。

 また、流血の惨事があったにもかかわらず、都市としての基本的な構造が物理的にひどい損傷を受けたわけでもない。

 確かに、窓ガラスが割れていたり、爆発の爪痕が残っていたりはするが、それを除けば、パリの姿は攻撃の前とほとんど変わらない。

 物理的なインフラや経済――フランスのエネルギー供給、通信、サプライチェーン――を停止させるという点では、イラク・シリアのイスラム国(ISIS)はわざわざ攻撃などしなくてもよかったくらいだ。

アルカイダはフランチャイズ型、ISISはアウトソース型

 アルカイダの国境を越えた経営モデルは、グローバルなフランチャイズビジネスと比較される。半ば独立したいろいろな集団がアルカイダというブランドを掲げつつ、独自の攻撃計画を練って実行するからだ。

 パリの事件から判断するに、ISISはアウトソーシングの方を好んでいる。軍隊仕様の兵器のサプライチェーンを擁するところから爆破計画を外国で策定するところまで、この団体はまるで多国籍企業のようだ。「デザインはシリア、生産はベルギー」がISISのスローガンであってもおかしくない。

 しかし、できるだけ多くの人を死に至らしめようという考えに取り憑かれたイスラム主義者のテロリストが経済に及ぼすインパクトは、観光旅行業を別にすれば、最小限にとどまるのが普通だ。2001911日のテロ攻撃は最初に900億ドルの損害をもたらしたものの、その後は長期的な影響をほとんど及ぼさなかった。2008年の世界金融危機や、世界のサプライチェーンが断たれた2011年の日本の大地震の方が打撃は大きかった。

パリでは死者がかなりの数に上ったが、金銭面での影響は、2012年にドイツの化学工場で起きた爆発事故のそれにも及ばなかった。この事故では従業員が2人死亡し、自動車のブレーキ・燃料系統の部品に用いる樹脂の生産が止まって欧米の自動車メーカーへの部品供給が滞った。

 この理由だけでも、ISISとの戦争だとするフランソワ・オランド大統領の発言は見当違いだ。

 確かにISISは、制圧した地域内の石油産業を支配することによりシリアとイラクの領内で国家を築いた。しかし、国境を越えるISIS流のテロは戦争とは違う。

ISISの攻撃が戦争ではない理由

 人を殺すのは恐ろしいことだが、それだけでは戦争とは言えない。1940年代にナチスがロンドン東部の港を爆撃したように、インフラを破壊したり、物資の供給に打撃を与えたりしなければならないのだ。

 財界の要人を主たる標的にすることが多かった左翼テロを1990年代半ばに凌駕したイスラム主義者のテロは、これをやらない。ISISの言うところの「グレーゾーン(カリフ制国家に囚われることを好まず、どこかほかの場所で自由を謳歌したいと考える何百万人もの人々のこと)」でテロを扇動することにより、文明の衝突を激化させようとする。

 「売春と悪の都を標的にする」ことについて冷酷な言葉遣いをする裏側で、ISISは現実をちゃんと理解している。フランス経済を破壊したいと思っているが、それほどの力は持っていないことを分かっているのだ。

 テキサス大学でテロの経済的影響を研究しているトッド・サンドラー教授が述べているように、「彼らは我々をとても怖がらせることはできるが、経済には大きな影響を与えないように思われる」。

 これは規模の問題でもある。テロ攻撃はそのほとんどが小規模で、影響が及ぶのは特定の地域に限られる。今回のパリのものでさえもそうだ。発生した時に近くにいなければ危険はない。またこれは、多角化した現代経済の復元力の反映でもある。確かに、電力や通信のインフラには急所がいくつか存在するが、その大半はしっかり守られている。テロリストの標的になりやすいものは、金銭的にはさほど重要ではないのだ。

「個々の企業は困るかもしれないが、産業全体は非常に頑強だ」。マサチューセッツ工科大学(MIT)のヨッシー・シェフィー教授はこう話す。テロが長期的なダメージをもたらすためには、継続的に実行し、的を絞り、かつ小さな地域に狙いを定める必要がある。

 スペインのバスク地方では、分離主義者の20年に及ぶ活動によって経済全体の産出額が10%押し下げられたと推計されている。

 この活動はイスラム主義者のテロとは異なり、大半が産業施設を狙ったものだった。

 一部の国が示唆しているように出入国管理を再開し、ヒトとモノの自由な移動を認めるシェンゲン協定を骨抜きにするという対応を各国政府が取れば、今回のパリへの攻撃はフランスやほかの欧州諸国の経済を減速させるかもしれない。シティグループのエコノミストらは今週、「グローバル化の柱の1つに対する反発が強まっている」と警告を発した。

ISISはこれを自分たちの宗教的な攻撃の経済的副作用として歓迎するだろうが、それも既定事実ではない。ニューヨークの世界貿易センターに対するテロ攻撃や2004年のマドリード列車爆破テロといった攻撃は、国際貿易の伸びを鈍らせなかった。貿易の伸びの減退――1987年から2007年にかけての伸びが平均7.1%だったのに対し、2013年には3%に低下した――には、ほかに原因があった。

 国際通貨基金(IMF)のある研究によれば、最も重要な要因は、米国と欧州から中国、アジアへの生産アウトソーシングが長期にわたって成長した後、サプライチェーンの細分化と工業部品の「行き来」が安定したことだ。グローバル化が休止したのは、テロや貿易保護主義のせいではなく、それが限界に達したからだ。

テロのロジックと限界

 テロリズムには独自のロジックがある。テロは、それがもたらす危険をはるかに超えた恐怖を助長する。人員採用のためのマーケティングキャンペーンでもある。テロは、その立案者が望むことをやる。だが、地震などの自然事象や産業と貿易の盛衰と比べると、大規模な攻撃でさえ経済的には大したことではない。

 残虐な行為に直面した時に心に留めておくのは難しいが、それが現実だ。多くのパリ市民が倒れたが、パリは立っている。By John Gapper  © The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. Please do not cut and paste FT articles and redistribute by email or post to the web.

「イスラム国」、パリ攻撃を9月に決断か 反転攻勢に出る「イスラム国」ロイター ロイター

20151116

 

 11月15日、過激派組織「イスラム国」がシリアとイラクの支配地域で米国などから軍事的反撃を受けるなか、9月にフランスやその他の地域への攻撃を決断した可能性がある。パリで14日撮影(2015年 ロイター/Christian Hartmann

[ベイルート 15日 ロイター] - 過激派組織「イスラム国」がシリアとイラクの支配地域で米国などから軍事的反撃を受けるなか、9月にフランスやその他の地域への攻撃を決断した可能性がある。

シリア国内にいるイスラム国戦闘員の1人は、同組織のアブ・モハメド・アドナニ報道官が海外での活動を指示していたと話す。

「活動を開始するよう文書で2カ月前に指示があった。レバノンやフランス、その他の地域はすべて作戦の一部に含まれていた」と、この戦闘員はソーシャルメディアを通じて語った。

フランスによる空爆への報復として実施

イスラム国は、13日に仏首都パリで発生し、少なくとも132人が死亡した同時多発攻撃について、フランスによる空爆への報復として実施したとする犯行声明を出した。

その前日には、レバノンの首都ベイルート郊外で2件の自爆攻撃を行い、43人の犠牲者を出した事件で犯行声明を出している。現場は、シリアでイスラム国と戦うイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」の拠点地区だった。

イスラム国はまた、乗客乗員224人が死亡した1031日のロシア機墜落でも犯行声明を出している。ロシアはシリアの同組織に対し、独自に空爆作戦を開始していた。

また2人のトルコ治安筋は15日、ロイターに対し、当局が拘束した英国人が、パリで起きたような攻撃をイスタンブールでも計画していた可能性があると語った。

イスラム国はサウジアラビア、米国、ロシアも攻撃すると警告している。

外国での作戦組織

イスラム国の組織は複雑であり、秘密裏に運営されている。大まかに言えば、アブ・バクル・バグダディ容疑者がイスラム共同体の指導者「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)」として組織の頂点に立ち、その下に強力な権限を持つ同容疑者の代理が存在する。また、軍事的・宗教的指導者らから成る評議会があり、同容疑者に戦略や軍事計画についてアドバイスを行っている。

イスラム国は、欧州を含む世界各地から多くのジハーディスト(聖戦主義者)志願者を引きつけているが、一部の欧州諸国による治安強化により、同組織の支配地域への流入が妨げられている。

その対抗策として、イスラム国は中東にある拠点から志願者たちに接触し、「一匹オオカミ」として、もしくは小さな集団を形成して自身が居住する国で独自に攻撃を実行するよう奨励している。

イスラム国戦闘員の1人によれば、休眠している下部組織同士は連絡を取り合わないが、「海外作戦」を指揮する特別組織の攻撃命令には応じるという。

この特別組織の責任者についてはほとんど知られていない。この戦闘員によると、同責任者はヨルダン国籍でシリアとイラクの指導部と緊密に連携し、両国を往来している人物だと語った。この責任者はニックネームでしか知られていないという。

米ニューヨーク・タイムズ紙が欧米当局者らの話として伝えたところによると、パリの容疑者らは実行前にシリアのイスラム国メンバーと通信していたという。

イスラム国戦闘員たちは、パリへの攻撃は組織内の士気を高めたと話す。同攻撃の前には、支配下に置いていたイラク北部の都市シンジャルのほか、シリアにあるイラク国境沿いの戦略的都市を失っていた。

シリア政府軍もロシア軍の空爆やヒズボラの支援を受け、軍事基地を奪還していた。

イスラム国は西側諸国内での攻撃をたびたび示唆するが、同組織の支持者たちは、イスラム教徒を差別しているためだとして、フランスとの戦いはとりわけ優先順位が高いと語る。

「これは始まりにすぎない。われわれはマリで味わった苦しみやフランス人の傲慢(ごうまん)さを絶対に忘れない」と、シリアにいる戦闘員は、西アフリカのマリ共和国でイスラム系武装組織に対して行われた仏主導の軍事行動に言及し、このように述べた。

高まる反欧米感情

仏当局によると、13日の事件は3つの編隊が組織的にバーやコンサートホール、スタジアムを襲撃。国境をまたいだ捜査が進むなか、検察当局は今回の事件について、仏国内のほか、中東、ベルギー、ドイツなど多国籍が絡んだ組織が関与したとみている。

米国主導の有志連合のほか、今ではロシアも軍事作戦を開始しており、イスラム国は一段と強化される反撃に苦しんでいる。

トルコもまた、外国人戦闘員がイスラム国支配地域に流入するのを阻止するため、国境警備を強化するよう国際社会から圧力を受けている。

米国主導の有志連合がシリアとイラクのイスラム国支配地域に空爆を始めてから、同組織の支持者たちの反欧米感情は劇的に高まった。そうした態度は今後も変わらないと彼らは話す。

「われわれはイデオロギーに基づいて行動している。イデオロギーをどうやって倒すのだ。もしくは信奉者である人をどうやって負かすというのだ。われわれ真のイスラム教徒に対する戦いが激しくなるほど、われわれの信仰やカリフ国家への献身も強まる」と、ある支持者は語った。

「(イスラム)国は明日何をするかは語らない。だが、罰を受けるのは世界であり、そうなるだろうと世界に向けて発信したのだ」(Mariam Karouny記者 翻訳:伊藤典子 編集:新倉由久)

後藤さん殺害映像の男に無人機攻撃=黒覆面「ジハーディ・ジョン」--米軍時事通信 1113()

 

 

 【ワシントン時事】米国防総省は12日、米軍が過激派組織「イスラム国」の拠点であるシリア北部ラッカで同日、モハメド・エムワジ容疑者を標的に、無人機による攻撃を実施したと発表した。
 英国籍のエムワジ容疑者は「ジハーディ(聖戦士)・ジョン」の名で知られ、フリージャーナリストの後藤健二さんを殺害したと主張する映像に登場していた。
 国防総省のクック報道官は「作戦の結果を評価中だ」と述べ、エムワジ容疑者の死亡確認を避けた。ただ、CNNテレビは、同容疑者を殺害したと米当局は確信していると報道。ABCテレビによれば、同容疑者は建物を出て車に乗り込んだところで、無人機から攻撃を受けたという。
 エムワジ容疑者は「ビートルズ」と呼ばれる「イスラム国」の英国籍4人組のリーダー格とされ、黒覆面姿で多数の人質殺害映像に「出演」してきた。後藤さんのほか、湯川遥菜さんや、米ジャーナリストのジェームズ・フォーリー氏ら複数の米英人の殺害に関与したとみられ、米欧当局が1年以上にわたり居所の特定を進めていた。
 同組織が21日(日本時間)に公開した後藤さん殺害映像では、エムワジ容疑者は後藤さんとみられる男性を前に「日本の悪夢が始まる」などと述べ、米国と協力する日本の国民を狙った攻撃を警告していた。 

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【World経済・政治・文化・社会展望】

パリ同時多発テロが起きるほどにIS膨張を許した戦犯は誰か?

北野幸伯 [国際関係アナリスト] 20151120 DOL

1113日、世界は「9.11」以来の衝撃に襲われた。パリで「同時多発テロ」が起こり、129人が犠牲になったからだ。イスラム国(IS)による犯行と見られるこの事件によって、世界はどう変わっていくのだろうか?

突如現れて広大な地域を占領したIS、米国は過去に彼らを支援していた

 今回のテロについて、フランスのオランド大統領は、即座にISの犯行と断定。そして、IS自身、「犯行声明」を出している。

反アサド派国家たちが支援した結果、ISは広大な地域を占領する力を手にした。パリ同時多発テロの背景には、関係諸国による「代理戦争」がある Photo:AP/AFLO

2014年に「どこからともなく」現れ、いきなりイラクとシリアにまたがる広大な地域を占領したIS。日本人には、「唐突に」登場したように見える。

 しかし、ある集団が強い勢力を持つには、「金」と「武器」が必要だ。彼らは、どこでそれらを得たのだろうか?まず、ここから話をはじめよう。

 以下は、AFP-時事2013921日付からの引用。「シリアの反体制派同士が、ケンカし、戦闘になったが和解した」という内容である(太線筆者、以下同じ)。

<シリア北部の町占拠、反体制派とアルカイダ系勢力 対立の背景
トルコとの国境沿いにあるシリア北部アレッポ(Aleppo)県の町、アザズ(Azaz)で18日に戦闘になったシリア反体制派「自由シリア軍(Free Syrian ArmyFSA)」と国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系武装勢力「イラク・レバントのイスラム国(ISlamic?State of Iraq and the Levant、ISIS)」が停戦に合意したと、イギリスを拠点とするNGO「シリア人権監視団(Syrian Observatoryfor Human Rights)」が20日、明らかにした。>([AFP=時事])

 短いが、ISに関する2つの重要な事実」(知らない人にとっては衝撃的な)を含んでいる。まず、ISは、139月時点で「アルカイダ系」であった。(その後、アルカイダから独立)。2つ目は、この時点で、ISはシリアのアサド政権と戦う「反体制派」(=反アサド派)に属していた

 これがなぜ「衝撃的」なのか?「アルカイダ」については、説明する必要もないだろう。米国で01911日「同時多発テロ」を起こしたとされるテロ組織だ。「米国最大の敵」とされた。ISは「アルカイダ系」なので、「米国の敵」なのはわかる。しかし…。11年にシリアで内戦が起こった時、米国はアサド現政権ではなく、「反アサド派」を支援した。その時のことを思い出していただきたい。

 米国は、「悪の独裁者アサド」「民主主義を求める善の反アサド派」という構図を、全世界で宣伝した。ところが、その「善の反アサド派」の中に、「アルカイダ系」の「IS」も入っていたのだ。つまり米国政府は、「最大の敵であるはずのアルカイダ系ISを含む勢力を、『善』と偽って支援していた」ことになる。

ISを含む「反アサド派」に6000億円もの支援をしたのは誰か?

 もう少し詳しく、ISのルーツを見てみよう。ベストセラー「イスラーム国の衝撃」(池内恵著)にISの組織と名称の変遷が記されている(6568p)。

1999200410月:「タウヒードとジハード団」
200410月~20061月:「イラクのアルカイダ
 (この時点では、はっきり「アルカイダ」を名乗っている)
20061月~10月:「イラク・ムジャーヒディーン諮問評議会」
20064月~20134月、:「イラク・イスラム国
 (ここで、「イスラム国」という名に変わった)
20134月~20146月、:「イラクとシャームのイスラム国
20146月~、:「イスラム国」 

 次に、ISが急速に勢力を拡大できた理由を見てみよう。既述のように11年、シリアで内戦がはじまった。ロシアとイランは、アサド現政権を支持、支援した。

 一方、欧米は「反アサド派」を支援した。さらに、トルコ、サウジアラビア、ヨルダン、エジプト、アラブ首長国連邦、カタールも「反アサド派」を支持、支援した。これらは「スンニ派」の国々である。アサドは「シーア派」の一派である「アラフィー派」。彼らは、アサドを政権から追放して「スンニ派政権」 をつくりたいのだ。

 ところで、一言で「反アサド派」といっても、さまざまな勢力がある。そこで1211月、「反アサド諸勢力」を統括する組織として、「シリア国民連合」がつくられた。著名なアラブ人ジャーナリスト・アトワーン氏の著書「イスラーム国」には「どの国が、反アサドを支援したのか」に関して、こんな記述がある。

<サウディアラビアとカタールが革命勢力に資金、武器支援を行った。『ニューヨーク・タイムス』は、二○一二年一月、カタールが武器を貨物機に載せてトルコに運び、革命勢力に供与していたと報じた。サウディアラビアも軍用機でミサイルや迫撃砲、機関銃、自動小銃をヨルダン、トルコに運び、シリア国内に送り込んでいた。
非公式の情報に基づけば、サウディアラビアは五○億USドル(約六一五○億円)を、武器支援などのシリア反体制派支援に費やしたという。>(203204p)

 アトワーン氏は「非公式の情報」と断っているが、6000億円以上の金、武器が「反アサド派」に提供され、その一部が(反アサド派にいた)ISに流れたとすれば、彼らが突然「勃興した理由」もわかる。

 ここまでで分かるように「シリア内戦」は欧米vsロシア、そして、スンニ派諸国vsシーア派の「代理戦争」と化した。そして、欧米や、サウジアラビアなどスンニ派諸国からの支援こそが、ISを短期間で一大勢力に成長させたのだ。

 ちなみにオバマは138月、「アサド軍が化学兵器を使った」ことを理由に、「シリアを攻撃する」と宣言。しかし翌月には、「やはり攻撃はやめた」と戦争を「ドタキャン」して世界を驚かせた。この頃からISは「反アサド派」や「アルカイダ」の枠を超え、独自の動きをするようになっていく(アルカイダは142月、ISに「絶縁宣言」をした)。

やる気のない欧米の空爆を尻目に勢力を拡大、プーチンの本気の攻撃でピンチに

 独自勢力になったISは、次々に支配地域を拡大し、さらなる金と武器を手にしていく。14610日には、イラク第2の都市モスルを陥落させた。ここには大油田があり、ISは重要な「資金源」を得ることに成功する。同年629日、ISのリーダー、アブー・バクル・アル=バグダーディーは「カリフ宣言」を行った。つまり彼は「全イスラム教徒の最高指導者である」と宣言したのだ。

 ISの現在の資金や武器は、どうなっているのだろうか?前述の本「イスラーム国」によると、資金源は以下の通りである。

 ・ イラク中央銀行から、5億ドルを強奪した。
 ・石油販売で、1200万ドルの収入を得ている。
 ・支配地域の住民約1000万人から税金を徴収している。

 武器については、

 ・イラクとシリア両国政府軍拠点を制圧し、米国製、ロシア製の武器を大量に奪った。
 ・2700を超える、戦車、装甲車、軍用車両を所有している。

 さて、米国は148月、「ISへの空爆を開始する」と発表した。同年9月には、今回テロが起こったフランスが空爆を開始。その後、「有志連合」の数は増えていった。しかし、米国を中心とする空爆は、あまり成果がなく、ISはその後も支配領域を拡大していった。

 米国を中心とする空爆に「やる気」が感じられないことについてロシアは、「ISを使ってアサド政権を倒したいからだ」と見ている。

15930日、状況を大きく変える出来事が起こる。ロシアが、シリア領内のIS空爆を開始したのだ。ロシアの動機は、親ロ・アサド政権を守ること。そのため空爆も「真剣」である。1ヵ月半の空爆の結果、シリアのISは大打撃を受け、アサド政権は息を吹き返した。

 アサド軍は現在、着実に失地を回復している。追いつめられたISのメンバーが、難民に紛れ込み、欧州に逃亡を図っている可能性は高い。こんな状況下で1113日、「パリ同時多発テロ」が起こったのだ。

パリ同時多発テロ」で世界情勢はどう変わるか?

 次に、「パリ同時多発テロ」で「世界はどう変わるのか?」を考えてみよう。
<フランス>
 まず、テロが起こったフランスは、ISに復讐しなければならない。ここで空爆を止めれば、「テロに屈した」ことになるからだ。実際、テロ翌々日の1115日、フランス軍は、ISが「首都」と称するシリア北部の都市ラッカを空爆した。これは、今までで最大規模の攻撃だった。また、フランスは、原子力空母「シャルル・ド・ゴール」をペルシャ湾に派遣し、4ヵ月間駐留させることを決めている。オランド大統領は、今回のテロを「戦争行為」と断じ、最後まで戦い抜く決意を示した。

<欧州全体>
 欧州全体を見ると、今後難民に対する姿勢が硬化するだろう。難民の中にISメンバーが多数含まれている可能性は高い。とすれば、欧州は、「便衣兵」(敵を欺くために私服を来ている兵士)を大量に受け入れていることになる。規制が強まるのは、やむをえない措置といえるだろう。

<ロシア> 
 不謹慎な言い方だが、事実として、「楽になる」のがロシアである。18ヵ月前、「クリミア併合」を決断したプーチンは、「ヒトラーの再来」「世界の孤児」と呼ばれていた。しかし、現在、「クリミア」「ウクライナ」のことを思い出す人は、ほとんどいない。それどころか、プーチンは、欧米にとって「対IS戦争の同志」になりつつある。

 ロシアが空爆をはじめた当初、欧米は、「『IS』ではなく、『反アサド派』を攻撃している」と批判した。ところが1ヵ月半の空爆で、実際にISは著しく弱体化している。オバマとプーチンは1116日、G20が開かれていたトルコ・アンタルヤで会談。そこで、オバマは、ロシアの空爆に理解を示した。

<<米露首脳会談>「シリア和平必要」…露IS空爆に米が理解
米国のオバマ大統領とロシアのプーチン大統領が15日、主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開催中のトルコ・アンタルヤで会談し、シリア内戦の終結に向け、国連の仲介によるアサド政権と反体制派の交渉や停戦が必要だとの認識で一致した。? オバマ氏はロシア軍が9月末にシリアで始めた過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆にも一定の理解を示した。>(毎日新聞1116()1228分配信)

 さらに、オランド大統領は1117日、米国だけでなく、「ロシアと協力して」「イスラム国」と戦う意志を明確にしている。

<仏米ロ、シリア北部のIS空爆 軍事的連携を強化へ
フランス、米国の空軍は17日、過激派組織「イスラム国」(IS)が首都と称するシリア北部ラッカを空爆した。
パリの同時多発テロ後、仏空軍による空爆は2度目。
これとは別に、ロシア空軍もラッカを空爆した。
仏ロ関係はウクライナ紛争で冷え込んだが、オランド仏大統領は16日の演説で、対ISで従来の米国に加えてロシアとの軍事的連携も強化すると述べた。>(朝日新聞デジタル1118()20分配信)

自称“国家”のISは消滅するがテロは今後も続く

<米国>
 米国は、今までの「ダラダラ空爆」を改めざるを得なくなるだろう。このままロシア軍がISを征伐してしまえば、超大国の威信は失墜する。これから米国は、「有志連合軍」を率い、真剣にISと戦うことになる。

 ちなみに、「反IS」で欧米ロが一体化することは、米国に「もっと大きな利益」をもたらすことになる。現在、米国最大の問題は、「中国の影響力が米国に迫っていること」である。実際、57もの国々が、中国主導「AIIB」への参加を決めた。その中には、英国、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国など、「親米国家群」も含まれる(彼らは、米国の制止を無視して参加を決めた)。

 特に、伝統的に「親米」だった欧州が、「米中の間で揺れていること」は、非常に問題だ。米国は、ISとの戦いを主導することで、欧州との関係「再構築」をはかるだろう。そして、「中国と対抗するためにロシアと和解する」のは、筆者が428日の記事で予想したとおりである(記事はこちら)。つまり、「パリ同時多発テロ」がなくても、両国は和解に向かっただろう。しかし、テロはそのプロセスを速めた。
<IS>
 では、「パリ同時多発テロ」を起こしたとされるISはどうなるのだろうか?欧米ロが一体となって、全力をあげて攻撃をしかけるのだから、どう考えても勝ち目はない。結局彼らは、支配地域を失い、欧州、ロシア、旧ソ連諸国などに散らばっていくだろう。支配地域を持たない古巣のアルカイダ同様、世界のさまざまな地域でテロ行為を続ける。

 ISという、自称“国家”は消滅するが、そのメンバーは、これからも世界各地でテロを行い、民衆を恐怖させるだろう。

仏政府、反政府的な国内モスク閉鎖へ テロ再発防止策

2015/11/17 日経Net

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【パリ=白石透冴】過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)による同時テロに見舞われたフランス政府が、再発防止に向けた対策に乗り出す。テロの温床になりかねないとみる反政府的な国内モスク(イスラム教礼拝施設)の閉鎖を命じる検討に入ったほか、危険人物からの仏国籍の剥奪などの法改正案も浮上している。テロの芽を事前に摘み取る狙いだが、国内外のイスラム教徒の一部などの反発も予想され、さらなる火種となる恐れもある。

 仏AFP通信によると、仏政府が閉鎖を検討するのは明確に反政府的、暴力的な考えを掲げるモスクが対象。特にイスラム厳格派のサラフィー主義と関係が深いモスクは「極めて保守的で信者が過激な思想に染まりかねない」(バルス首相)とみており、仏政府はかねてテロの温床になりかねないと問題視してきた。

 サラフィー主義の影響を受けるモスクはマルセイユ、リヨンなど仏全土に100カ所程度ある。このうち暴力扇動などの危険な証拠がある場合、今後数週間で閉鎖を命じる可能性がある。10カ所前後が最終的に対象になるとの見方もある。

 国家に敵対的な思想を持つ団体に解散を命じることも検討する。

16日、パリ郊外のベルサイユ宮殿で開かれた上下院の合同集会で演説するオランド仏大統領=ロイター

 法制面での対応も整備する。オランド大統領は16日の議会演説で、二重国籍を持つフランス人が国に不利益を及ぼした場合、仏国籍を剥奪できるなどの法改正が必要と訴えた。危険人物と見なす外国人の国外追放に関しても、手続きを見直して迅速に実行できるようにする意向を示した。

 オランド氏は17日にパリでケリー米国務長官と会談し、IS掃討作戦での協調を再確認する。オランド氏はロシアのプーチン大統領とも近く会談し、大国の力を借りてテロ根絶を推し進める。

 仏政府当局によると、テロによる死者は現在132人。自爆があったため身元確認に時間がかかっている。外国人も多く英国、ルーマニア、ポルトガルなど被害者の国籍は計19に及ぶ。ロックコンサートの会場など若者が集まる場所が多かったため、2030代の若者層の被害が目立っている。

欧米諸国を覆う大不況の長い影

危機後の経済の落ち込みがなかなか回復しない理由

2015.11.12(木) profile Financial Times

危機への対応を誤ると、成長トレンドを恒久的に痛めつけることになりかねない (c) Can Stock Photo

 米国と欧州はいまだに、200709年の金融危機とそれに続くユーロ圏危機による負の遺産を抱えている。この結末を、もっと優れた政策で防ぐことはできなかったのだろうか。もしできたとしたら、それはどのような政策だったと考えられるだろうか。

 回復は進んでいるが、それは限られた意味においてでしかない。危機の直撃を受けた国々の国内総生産(GDP)の変化率は、ほぼすべての国でプラスに戻っている。

 しかし、GDPそのものの値は、危機前のトレンドから予想できた可能性のある水準を大幅に下回ったままだ。

 そして、主に生産性の伸び率が下がっていることから、成長率はほとんどの国で回復していない。ユーロ圏の場合、GDP2015年第2四半期になっても危機前の水準を下回っていた。危機に見舞われたユーロ導入国の産出額は、危機前の水準にはまだほど遠い。これらの国々は今後、失われた10年や20年に悩まされることになるだろう。

ドイツ経済がそっくり消えたような損失

 米ジョンズ・ホプキンス大学のローレンス・ボール教授が高所得国23カ国のサンプルで研究したところによれば、失われた潜在産出額の規模はスイスの0%からギリシャ、ハンガリー、およびアイルランドの30%超までばらついている。合計すると、今年の潜在産出額は、危機前のトレンドから予測されたであろう水準を8.4%下回ったと考えられる。

 「グレート・リセッション(大不況)」によるこのダメージは、ドイツ経済がそっくり消えてしまった場合のそれとほぼ同じになるという。

 ボール教授の研究、そしてフランスのビジネススクール、欧州経営大学院(INSEAD)のアントニオ・ファタス、ハーバード大学のローレンス・サマーズ両氏による最近の共同研究で分かった重要なことの1つは、潜在産出額の推計値は実際の産出額の後を追いかけているということだ。これは「ヒステリシス(履歴効果、過去の経験がその後のパフォーマンスに影響を及ぼすこと)」が非常に強いことをうかがわせる発見だ。

原因として考えられるのは、失業が長引く人は次第に就労が難しくなっていくという現象、投資の伸び悩み、イノベーションを支援する際の金融セクターの能力低下、「アニマル・スピリッツ」の喪失があちこちで見られることなどである。

 米大統領経済諮問委員会(CEA)のジェイソン・ファーマン委員長は今年、金融危機後の投資の伸び悩みがどんなインパクトをもたらしているかを明らかにした。

 これによると、危機の後には労働生産性の向上に対する投資の寄与がかなりの低水準に落ち込んだ。米国ではその傾向が顕著で、推計の寄与度がマイナス圏に陥ったという。

ヒステリシス仮説に代わる説明はあるが・・・

 このヒステリシス仮説はすべての人に受け入れられているわけではない。危機後の産出額の落ち込みがなかなか回復しないことについては、これ以外に少なくとも3種類の説明が提起されている。

 第1に、危機前の潜在産出量の推計値は融資ブームのせいで持続可能な水準をかなり上回るところまで引き上げられている、という説がある。

 ただこれには、融資の拡大が押し上げたのはもっぱら資産価格であり、それに比べれば実際の支出は大して増やしていないという反論がある。この主張は、英国の旧金融サービス機構(FSA)の長官を務めたアデア・ターナー氏が著書『Between Debt and the Devil(債務と悪魔の間)』で展開しているものだ。

 また第1の説に対しては、需要構造への債務の寄与と供給全体への債務の影響とを混同しているとの反論も出ている。

 金融危機後に産出額が落ち込んでいることの2番目の説明は、新しいテクノロジーが産出額に及ぼしているインパクトが過小評価されているというものだ。しかし、仮にそうだとしても(この説が正しい可能性はある)、金融危機後に生産性の伸びが急減速したことの説明にはならないだろう。

また、新しいテクノロジーの影響を英国で計測することが米国でのそれに比べて突然難しくなったわけではない(英国は、危機後の生産性伸び率の鈍化による悪影響が最も大きい国だ。米国は新しいテクノロジーの本家だが、生産性伸び率の鈍化による悪影響は比較的小さい)。

 最後の説明は、生産性の伸びは危機の前にすでに減速していたというものである。

 確かに米国にはそれが当てはまりそうだが、ほかの国々では明らかにその通りだとは言えない。

 このように考えると、ヒステリシス仮説にはかなりの説得力がある。ゆえに、大きな危機はまず回避すること、始まってしまった時には強力な施策を講じて経済へのインパクトを最小限に抑えることが非常に重要だ。それを怠れば、悪循環が成長トレンドを恒久的に痛めつけることになるかもしれない。

金融危機の悪影響は抑えられたのか?

 ここで、さらに2つの疑問が浮上する。あの金融危機の悪影響を小さくすることは可能だったのだろうか。また、あの悪影響を克服して元に戻すことはまだ可能なのだろうか、という疑問だ。

 第1の疑問の答えは、イエスであるに違いない。しかし、それには金融・財政面でもっと強力な政策対応が必要だっただろう。そして、ダメージを受けた金融機関についてはもっと積極的なリストラを行う必要があっただろう。特にユーロ圏は、もっと上手に対応するべきだったが、今日でさえ必要な意志と制度が欠けている。

 失われた産出額の水準と成長率を取り戻すことはできるのかという疑問の答えも、イエスであるに違いない。

 例えば米国は、1929年以前のトレンドが続いていた場合の1人当たりGDPの水準を、1960年代の初期には回復していた。不幸なことに、その過程では第2次世界大戦に伴って多額の財政支出が行われ、これがデウス・エクス・マキナ(時の氏神)になった。平時ではこんなことは再現できない。

 だが、たとえそうでも、危機前のトレンド成長率に戻ることぐらいはできるかもしれない。需要を積極的に下支えする施策と長期の供給に寄与する施策――特に、公共投資の大幅増額――を組み合わせて実行すれば、両方の目標を一度に達成できるだろう。

グレート・リセッションの教訓

 つまり、証拠は、適切に対処しなかったために悪化した景気後退が経済の繁栄に長期に及ぶ悪影響をもたらすことを示している。従って、迅速に行動して需要を回復させることが欠かせないというのが1つの結論になる。

 さらに、今になってみると、規模の大きな高所得国には、果断に行動するために必要な政策対応の余地があったことは明らかだ。

2010年に多くの人がひどく愚かにも何を言ったにせよ、こうした国はギリシャ化するリスクにまったく直面していなかった。

 米国は、そしてユーロ圏はそれ以上に、もっともっと積極的に対応すべきだったのだ。

 過去の経験は、上記に勝るとも劣らない重要なことをもう1つ示している。危機を回避するのは困難かもしれないが、まずめったに発生しないようにすること、そして発生したら小規模に抑え込むのが肝要だという教訓だ。

 金融危機は深刻な景気後退と長期間の成長減速につながるが、それは十分に強力な政策対応の実行を政策立案者が怖がってしまうためでもある。それゆえに、金融規制はとにかく厳しくしておく必要があったわけだ。問題は、その規制強化が正しく行われたかどうか、ということだけだ。

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2.Trend

中国で続々誕生、「現代病」が生み出す最新職業とは―中国紙

Record China 1121()

 

 

16日、現代生活はさまざまな新興職業を生み出している。その中でも、市場の見通しが明るい新興職業には具体的にはどのようなものがあるのだろうか?資料写真。

20151116日、現代生活はさまざまな新興職業を生み出している。その中でも、市場の見通しが明るい新興職業には、具体的にはどのようなものがあるのだろうか?北京晨報が伝えた。

▼クロゼット整理収納アドバイザー:報酬は12000
北京・上海・広州などの大都市では、「クローゼット整理収納アドバイザー」なる職業が相次ぎ誕生、普及している。彼らは、アパレル設計などファッション業界出身者が多い。クロゼットを整理すると同時に、顧客のセルフイメージに対するブランディング(価値を確立すること)をサポートする。

クロゼット整理収納アドバイザーは、ある顧客の1000着以上入っているクロゼットを整理、一新した。60着以上を処分し、TPOに合わせた基本コーディネート50組を決め、洋服をさっと取り出せるように分類して収納した。

現在、前述のチームは、「メートル」単位で顧客からコンサルティング料金をもらっている。具体的には、クロゼットの長さに応じ、1メートルあたり680元(約13000円)で、一般的なクロゼットの長さを約3メートルとすると、1回の業務で約2000元(約38000円)となる。今年の6月に本格的に業務を初めてから、彼女のチームは20件あまりを受注、業務を行った。さらに、彼女らは、1時間あたり280元(約5400円)で、街での買い物に付き添うサービスも行っている。

▼出張ドッグトレーナー:500元で飼い犬のしつけはお任せ
「狗狗専車が出張いたします」-中国ペットビジネス大手の「狗狗専車」はこのほど、新サービス「自宅でのワンちゃんトレーニング」を打ち出し、訪問サービス分野での第一歩を踏み出した。

この新たな「自宅でのワンちゃんトレーニング」は、むやみやたらと吠える・拾い喰いをする・攻撃する・噛み付く・逃げ回る・おしっこをするという6種類の感心できないペット犬の行為について、自宅に出張してしつけを行うというサービスだ。飼い主は、外出することなく、経験豊かなトレーナーに自宅に来てもらって上質のサービスを受けることができる。同サービスの利用料金は時間制、1課題45分で80元(約1500円)、6種類のしつけを全て受けさせるとなると、480元(約9000円)かかる。

「狗狗専車」マーケティングディレクターは、「この出張サービス業務がスタートして3カ月経ち、約2万人の顧客に利用いただいた。利用者数は急増している」と述べた。(提供/人民網日本語版・翻訳/KM・編集/武藤)

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3.Innovation/Motivation

高齢化先進国、日本で生まれた話題の急成長産業、保険なしのリハビリに利用者続々、中国から富裕層も

2015.11.12(木) profile 川嶋 諭  JBPress

 

ラグビーW杯イングランド大会・プールD、アイルランド対フランス。試合中に負傷し、担架で運び出されるアイルランドのポール・オコンネル(20151011日撮影)〔AFPBB News

 猛スピードで進んでいる日本の高齢化に特効薬があるかと問えば、「そんなものがあったらとっくの昔に実施しているさ」と反論されておしまいだろう。特に既得権益が絡むとほとんど手がつけられない。

 しかし、一方で急激な変化は、どんな産業であれ大きなビジネスチャンスを生み出す。ここに民間の活力の源泉があるとも言える。

 つまり、少子高齢化に何とか対策をしなければと考えるとお手上げでも、この変化が何かビジネスにつながらないかと考えると、様々なアイデアが湧いてくる。

 そんな実例をご紹介したい。

保険を切り離し急成長

 東京都中央区に本社を置くワイズ(早見泰弘・会長兼CEO)は20142月に会社を設立して以来、急速に事業を拡大している。事業の中心はリハビリである。

 リハビリとは事故や怪我、脳梗塞などの病気で体の一部に障害が出たとき、それを回復させることである。「そんなのは病院や老健(介護老人保健施設)で行われているじゃないか。何を今さら」と思われるかもしれない。

 しかし、ワイズの早見会長によると、リハビリ事業は将来性が極めて高いという。なぜか――。

 その秘密は、リハビリを国の保険制度から切り離したことにある。保険を使わず純粋に民間の事業として始めてみたら、想像以上にリハビリ難民が多く、またリハビリをしたくても満足できる環境が少ないことを実感したと言うのである。

 しかも、日本は世界で最も高齢化のスピードが速いだけに、新しい"市場"が最も早く生まれる。そのため、顧客は日本だけでなく、今後、日本以上の速さで高齢化が進み始めるアジアからの顧客も見込める。

 実際、事業を始めて1年ほどなのに早くもネットで噂を聞きつけて、中国からリハビリのために来日している顧客もいるという。

ワイズが20149月に始めた脳梗塞リハビリセンターは、東京や神奈川、千葉で現在5か所展開している。ここに治療に訪れる人は、保険を使わない。すべて自費だ。その分、高額になるが、保険では不可能だったサービスを受けられる。

 脳梗塞リハビリセンターの名前が示すとおり、ここを訪れる人は脳梗塞を中心とした脳血管疾患で体の一部に障害やマヒが残った人たちである。

 脳梗塞を患った人は病院で治療を受け、その後のリハビリも病院で受けることになるが、医療保険を使ったリハビリが受けられるのは180日まで。それ以降は機能が十分に回復していなくても退院するしかない。

 「退院後、リハビリを続けたい人は外来での通院や介護保険施設などで実施することになりますが、外来だと限られた時間ですし、介護保険施設では症状は人それぞれなのに数人のグループで一緒にリハビリを受けさせられるケースが多く、個々の状態に応じた十分なリハビリを実施することが難しい状況です」

 ワイズの早見会長はこう話す。それでも、現役を完全に引退した世代ならいいのだろうが、40代や50代の現役世代で一刻も早く職場復帰したい人には深刻な問題となっている。

保険より職場復帰

リハビリの様子(写真:ワイズ提供)

 「例えば、IT関連の企業で働いていた40代の方は、1日も早くパソコンのキーボードが打てるようになりたいと必死です。しかし、そういう人も高齢者と一緒のレクリエーションや集団リハビリが中心で個別機能訓練はわずかな時間しか受けられない」

 今の保険制度では、最低限の生活ができる程度に回復すれば目的は達成で、それ以上のことはしてくれない。働き続けたい人に対応できる仕組みになっていないのだ。

 それなら、保険を使わないリハビリ施設を作り、患者さん一人ひとりのニーズに合わせたサービスを提供したらどうだろうか――。早見会長はそう考えた。そして生まれたのが20149月に東京・文京区にオープンした「脳梗塞リハビリセンター本郷」だった。

 料金はコストをぎりぎりまで削って12時間で15000円に設定した。高いと言われれば高いかもしれないが、リハビリの専門家がマンツーマンで対応してくれることを考えれば決して高い料金ではない。

 「初めは正直、保険の利かないリハビリに来てくれる人はいるだろうか心配でした。しかし、実際に始めてみると予約を受け切れない時もあるんです」と早見会長。お金を払ってもしっかりしたリハビリを受けたいという人が多いことにびっくりしたと言う。

「脳梗塞リハビリセンター」では理学療法士・作業療法士・言語療法士による運動機能・言語聴覚機能の改善だけでなく、鍼灸も取り入れたことも大きな特徴の1つだ。

 「鍼灸療法の脳卒中後遺症に対する有効性はWHO(世界保健機関)でも認められています。そこで、鍼灸を取り入れたところ、多くの利用者さんから好評の声を頂いています」

 早見会長は、効果が期待できそうな方法は積極的に取り入れていくことは重要なことだと言う。高い料金を払っても機能を早く回復させたいと願う人に対し、サービスを提供する側も手を尽くすことで応えようという意気込みである。

 保険がないことが、サービスを提供する側の創意工夫、やる気につながっている事例の1つと言っていいかもしれない。

富裕層の心をくすぐる先端性

鍼を使ったリハビリ(写真:ワイズ提供)

 脳梗塞リハビリセンターには最近、ネットで評判を聞きつけて遠く中国からわざわざリハビリにやって来た人がいる。中国でいくつもの会社を経営する富裕層で50代。家族とともに1か月間日本に滞在してリハビリに通った。

 日本でリハビリする――。彼がそんな決断したのは、中国に一人ひとりにきめ細かく対応してくれるリハビリ施設がなかったからだが、もう1つ、鍼灸の存在も大きかったという。治療の先端性が富裕層の心をくすぐるのだろう。

 「脳梗塞リハビリセンター」は、本郷を皮切りに、神奈川県の川崎市、東京都の新宿、三田、そして千葉県の船橋市と現在5か所にまで増えている。早見会長は「これまでは東京が中心でしたが、今後は日本全国へ展開していきたい」と鼻息は荒い。

 背景には間違いなく時代の追い風がある。

 変な話だが、医療の進歩が脳梗塞後遺症の患者を増やしているという現実がある。以前なら助からなかった人が一命を取りとめるようになったのだ。その結果、体の一部に障害が残る人も増えている。

2008年に133万人だった脳梗塞の患者数は現在、150万人。140万人と言われるがん患者の数をすでに超えている。患者数は毎年25万人ずつ増え、10年後には300万人に達するという見方もある。

 

 

ワイズの早見泰弘・会長兼CEO

 これだけの急な変化には、いわゆるお役所仕事では絶対に対応できない。ワイズのような純粋な民間企業の創意と工夫が不可欠なのだ。

 しかも、増え続ける社会保障費を少しでも抑えるため、リハビリも少しずつ保険対象外になりつつある。例えば、入院期間が短縮されたり、外来は保険適用外にすることなどが検討されている。

 先ほど全国展開したいと言う早見会長を鼻息が荒いと書いたが、日本全国でワイズのような新しいリハビリ事業が求められているとも言える。

 さて、早見会長がいち早く、このような事業を思い立ったのはなぜか――。その理由は医療の専門家ではなかったことも大きい。早見会長はIT産業からリハビリの世界に飛び込んできた。外様であることで、これまでの慣習などにとらわれなかったと言える。

 早見会長のプロフィールを簡単に紹介しよう。

1990年代、ITベンチャーで成功

1996年、つまり「ウインドウズ95」が誕生した次の年、インターネット時代の到来とともに法政大学経済学部を卒業。在学中から勤務していたプリント基板設計用CAD(コンピューター支援設計)の会社に就職するが、7月にはウエブマーケティング会社であるイニットを創業した。

 ベンチャーキャピタルやトヨタ自動車などから出資を得て事業を急テンポで拡大させ、当時ウエブ製作の会社ではトップスリーに入るまでになった。当時、トヨタ自動車もウエブ事業を豊田章夫社長(当時は次長、部長)の下で推進しており、その事業にも深く関わった。

 実は当時、私自身もトヨタのウエブ事業を徹底して取材していた経緯があり、早見会長へのインタビューでは、時間の半分近くを当時の思い出話に費やしてしまった・・・。

 それはともかく、時は流れて2004年、早見会長は自ら創業したイニットを大口出資者の1つだったトランスコスモスに売却、自身はトランスコスモスの常務執行役員となって事業を続けた。

 ここでも事業は急成長を続けた。しかし、2013年、順風満帆だった早見さんに突然の不幸が襲いかかる。腰椎椎間板ヘルニアを発症してしまったのだ。過労が大きな原因の1つだった。

 手術は成功するが、筋力が衰え歩行が困難になる。下手をすれば一生車椅子生活の危険性もあったが、必死のリハビリで回復した。

40代、社会人として脂の乗り切った時期に訪れた突然の不幸に失意のどん底に突き落とされた。しかし、天性の起業家魂を持った人材はただでは転ばなかった。

 自ら必死のリハビリに取り組む中で、高齢化社会も起因して今後ますますリハビリニーズが高まるであろうと感じ取ったのだ。

 歩けるようになると同時に、かつてウエブマーケティングの会社をトランスコスモスに売却した際に得た資金を使い、整骨院の経営をサイドビジネスで手がけようと考えた。

 そのとき、整骨院を多店舗化するビジネスを始めていた伊藤康祐さんと知り合う。伊藤さんは武蔵工業大学でいまや流行となったラグビーに熱心に取り組んでいた元ラガーマン。

リハビリの様子(写真:ワイズ提供)

 大学卒業後は飲食店の多店舗展開を手伝っていたが、年がら年中、怪我と背中合わせのスポーツであるラグビーは、整形外科や整骨院と切っても切れない縁のようなものができる。伊藤さんは独自に整骨院の多店舗化を始めていた。

 知り合った2人は年齢も同じことも手伝って、高齢化が急速に進む日本でリハビリは数少ない成長産業だと意気投合。共同でワイズを設立した。

 会社設立当初は整骨院の多店舗化を事業の中心としていたが、1か月後にはリハビリとフィットネス型のデイサービスを行うアルクルを設立、リハビリ事業に乗り出した。アルクルとは、「歩ける日が来る」に由来する。

 介護保険も適用されるアルクルの事業を展開している中で、保険が利かなくてもマンツーマンのリハビリを求める患者さんに出会ったのが脳梗塞リハビリセンターを設立するきっかけとなった。

 変革は常に周辺から起きる――。

 異業種から転じたワイズは、日本でリハビリという産業を大きく育てる可能性がある。そして、それは遅れて高齢化を迎えるが日本以上のスピードで進むアジアの国々にも間違いなく広がるはずだ。

【コミュニケーション】

【リーダーシップ・フォローシップ】

【ブランディング】

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4.Society.Culture・Edu.・SportsOthers

「油抜き」「野菜だけ」ダイエットがダメな理由、油を上手にとって健康的な美ボディに!安達 純子 :医療ジャーナリスト 安達 純子あだち じゅんこ

医療ジャーナリスト

東京生まれ。医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。大手企業のOLから転身。フリーランスの雑誌記者としてさまざまなジャンルの取材を行う中で、病気の発生メカニズムに興味を持ち、医療関係の記事の執筆に比重を置くようになった。現在は、先進医療といった最新の医療状況をはじめ、免疫疾患や感染症などに強い関心を持つ一方で、生活習慣病といった身近な病気を対象とした記事を数多く新聞等で連載中。身体に個人差がある中で、その人にとっての健康とはなにか。病気の仕組みはどこまで解明できるのか。また、未知の病気の正体はどこにあるのかなどをテーマに現在取材を進めている。

20151115

アマの種子からとれる亜麻仁油(アマニ油)は、オメガ3が豊富なことで知られている(写真:Hungry Works/PIXTA

食欲の秋。旬の食材に次々と舌鼓を打っていると、体重の増加は避けられない。おなかが気になりだしてから、あわてて脂っぽい料理を控えても、体重がなかなか落ちないという人は多いだろう。実は「油抜き」のダイエットは太りやすく、病気などに結びつきやすいそうだ。

『あなたを生かす油 ダメにする油』(KADOKAWA刊)の著者、医学博士の白澤卓二医師が説明する。

「肥満の人が多い米国では、1980年代に『低脂肪食』が提唱されました。油を控えて炭水化物を増やすことで、総摂取カロリーを控えるダイエット法です。結果として、右肩上がりに糖尿病の患者さんが増え始め、2011年には80年代と比べて約3倍にもなりました。専門家の検証により、油を抜いたダイエットは、肥満や生活習慣病の改善で逆効果になることがわかったのです」

白澤医師によれば、ご飯などの炭水化物は1グラム4キロカリー、油は1グラム9キロカロリーのエネルギーを生み出す。従来、油を控えると総摂取カロリーを減らすことができ、運動などで消費カロリーを上げればおなかについた脂肪は燃焼されやすいと考えられてきた。ところが、油を抜くとおなかの脂肪が増え、糖尿病などの生活習慣病になりやすくなるという。

「油をたくさんとると、肝臓で脂肪を作るのを抑制する身体の仕組みがあります。ところが、ご飯やパン、麺類などの炭水化物を食べたときには、その仕組みはありません。炭水化物は脂肪に変わりやすいため、油を抜いて炭水化物を増やすと、太りやすくなってしまうのです」(白澤医師)

野菜だけでは細胞を維持できずカサカサに

白澤流ダイエットのポイントは、身体が必要としているエネルギーを炭水化物ではなく油で補うこと。ただし、すでに油どころか炭水化物も控えている人はいるだろう。野菜中心の減量では、体重は落ちても、肌はカサカサになりやすい。

「人間の細胞膜などは、油を食べないと壊れやすく、全身の神経やホルモンなどにも悪影響を及ぼします。油を食べずに野菜中心の食事のダイエットでは、肌の細胞が維持できずにカサカサになり、体内の細胞でもそのような状態が起こるのです。体内で合成される油の仲間のコレステロールは、脳に5分の1ほど存在し、油を食べないと脳の働も上手くいかなくなります。油を抜くことは健康によくないのです」(同)

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油の成分には、体内で合成できずに食事からとならければならない「必須脂肪酸」がある。必須脂肪酸は「オメガ3」と「オメガ6」の2つで、「オメガ3」は、青魚、亜麻仁油、えごま油などにたっぷり含まれ、ほうれん草などの野菜、白いんげんなどの豆類にも含まれる。「オメガ6」はサラダ油などの植物油などに多く含まれている。野菜中心のダイエットでは、「オメガ3」を少しは取り込めるが、その量は十分とはなりにくい。さらに、油抜きで揚げ物や炒めものなどを控えると、「オメガ6」も取り込めず、必須脂肪酸が足りない状態になってしまう。

「野菜だけでは栄養が偏り、組織を維持できず、エネルギーも不足します。ただし、『オメガ6』はとりすぎると、体内で炎症を起こし、ぜんそくなどのアレルギーの病気や関節リウマチなどの自己免疫疾患、大腸がんなどに結びつきます。『オメガ6』の炎症は『オメガ3』が抑えてくれます。必須脂肪酸をバランスよく食べることが、健康的なダイエットにつながるのです」(同)

炭水化物を控え意識的にオメガ3をとる

炭水化物の代わりに油を増やすポイントは、「オメガ3」と「オメガ6」の割合を「11」にするのが理想という。しかし、厚生労働省の「平成25年国民健康・栄養調査結果」を見ると、1日の栄養素等摂取量では、「オメガ6」が9.28グラムに対し、「オメガ3」は2.17グラムと少ない。

「油を控えるのではなく、意識的にオメガ3を増やすことがとても重要です。カロリーを気にする必要はありません。炭水化物を控えてオメガ3をとりましょう」

こうアドバイスする白澤医師によれば、オメガ3の主な増やし方は次のとおり。

1)サバやアジなどの青魚をたくさん食べる。サーモンもお勧め

2)ひとつの食材に偏ることなく、いろいろな野菜や豆類なども食べる

3)炒めものをするときに、オリーブオイルの「オメガ9」を活用して、植物油の「オメガ6」を減らす。

 「オメガ9は体内でも合成できる油ですが、熱しても酸化しにくいため、炒めものなどではオリーブオイルを使用するといいのです。オメガ6をオメガ9に置き換えれば、とりすぎを防げます。また、炭水化物は、食後の血糖値の乱高下により強い食欲にもつながるため、まずは、炭水化物を控えて、油を見直してみてください」(同)

脳は、炭水化物が分解されたブドウ糖をエネルギー源としていると一般的にいわれる。だが、脳はもうひとつ、油によって体内で作られるケトン体という成分も、エネルギー源として利用できるそうだ。

「私は以前からココナッツオイルを食べたときに体内で生じるケトン体が、健康やダイエットに役立つことを啓蒙しています。朝食では、炭水化物を抜いて、野菜のスムージーにココナッツオイルを大さじ1杯加え、卵2個を用いてオリーブオイルで作ったオムレツを食べるといった方法です。脳がケトン体を効率よく使うことができるうえに、強い食欲も抑えられるためにスムーズな減量も可能です。油を上手に活用しましょう」と白澤医師は話す。油ダイエットで、健康的な美ボディを手に入れてみてはいかがだろうか。

(参考)あなたを太らせる「塩、砂糖、脂肪」のワナ、味蕾の地雷、『フードトラップ』を読む鰐部 祥平 HONZ 鰐部 祥平

HONZ

1978年愛知県生まれ。10代の頃は中学3年で登校拒否、高校中退、暴走族の構成員とドロップアウトの連続。現在は自動車部品工場に勤務。気がつくとなぜかHONZのメンバーに。趣味は読書、日本刀収集、骨董品収集、HIPHOP

20140802日 TK

アリゾナ州に住む体重360kgのスザンヌ・エマンさん。「世界一重い女性」としてアフロにストックされている写真だ(写真:Barcroft Media/アフロ )

18歳以上のアメリカ国民の33パーセントが、BMI30以上の肥満体だという。本書によれば、陸軍幹部が公式発表で首都ワシントンの18歳以上の男女が太り過ぎで採用できないと表明。また、カリフォルニア州ロサンゼルスでは、太り過ぎのため帝王切開が困難になり死亡する産婦が増えているという。また痛風患者は全米で800万人にも達するという。

なぜアメリカはかくも肥満大国になってしまったのか。本書はアメリカの加工食品産業の問題点について、原材料である塩、砂糖、脂肪という三点を軸にしながら追及する。

塩、砂糖、脂肪の罪

この三つの材料は加工食品になくてはならない物である。なぜなら、製造工程において、苦味、金属味や渋味などの付着がおきてしまうのが通常だが、この三つの材料を加える事により、それらの不純な味を隠すことができるのだ。

糖分への渇望は人間が本能的に持っているものだ。生後間もない赤ちゃんに砂糖水を与えると微笑むという。また、糖分には「至福ポイント」と呼ばれるものがある。至福ポイントとは食べ物や飲み物に糖分を加えた際、最も美味しいと感じる最大点の事だ。この至福ポイントを的確に狙う事で、より依存度の高い商品を開発できる。だが、驚くことに脂肪分には至福ポイントが存在しない。多く投入すればするほど、脳は快楽を得て恍惚感に浸るのだ。

実は糖分や脂肪分を摂取したときに使用される脳の神経回路は麻薬などを摂取したときに使われる神経回路と同じである事が最近になって判明している。

左から7オンス、12オンス、16オンス、32オンス、64オンスのドリンク。2012年、ニューヨーク市では32オンス以上の飲料が規制されている。もちろん肥満対策の一環だ(写真:ロイター/アフロ )

このような消費者の糖分、塩分、脂肪分への渇望を食品会社は熟知している。各社は膨大な予算と大量の科学者を抱え、科学的に人々を依存へと導く商品の開発にまい進しているのだ。例えば、社内で「ビリオネア・ブランド」と呼ばれる29種類のブランド商品を持つネスレはローザンヌ、東京、北京、サンティアゴ、ミズーリ州セントルイスなどの施設に化学者350人を含む700人のスタッフを抱えている。彼らは毎年70件以上の臨床実験を行い、200本の学術論文を発表し、80件もの特許を出願している。

ネスレは悪の帝国?

ネスレのビリオネア・ブランドのひとつ「ホット・ポケット」と呼ばれる冷凍食品は重さ約230グラムの中に飽和脂肪酸10グラム、ナトリウム1500ミリグラムが入っている。これ一つで成人男性が健康的に暮らすために推奨されている一日分の摂取量の上限近くだ。先ほども書いたが、糖、脂質、塩分は麻薬と非常に似た働きを脳内で示す。これらの成分が大量に含まれた商品は食べても、食べても、また食べたくなるという特徴がある。

食べ過ぎを誘う大量の依存物質が入った商品を販売するネスレは、一方で過食に苦しむ人々向けの医療栄養食品を扱う企業を2007年に買収し、その分野にも進出しているという。人々に過食を促し、太らす商品を販売する一方で、太り過ぎの人々を治療する食品も販売している。

このような話を聞くと、ネスレが悪の帝国のように思えてくる。だが、ネスレは摂取し過ぎると健康を害する原材料の使用量を抑えるために様々な努力をしているのだ。しかし、塩、砂糖、脂肪を減らした商品は目に見えて売り上げが落ちる。たとえ、ネスレが一社が努力しても、売り上げが落ちればスーパーの陳列棚を競合他社が占領していくだけである。企業としてそれは看過できる事態ではない。

本書では様々な食品会社がいかにスーパーの陳列棚の占拠を巡り、激しい競争を繰り返しているかが綿密に取材されている。アメリカの子供たちの朝食を巡り、ケロッグなどが激しいシリアル市場の攻防戦を繰り返し、ペプシコとコカ・コーラは「コーラ戦争」を戦う。商品の砂糖含有量はみるみる跳ね上がり、成分の70パーセントが砂糖というシリアルまで販売されている。もはや、それを朝食と呼ぶことができるのであろうか。

著者は加工食品の売り上げにおいてマーケティングがいかに重要かに気づきマーケティングの専門家にも多数インタビューを行っている。コカ・コーラ社はユーザーの新規開発と同じくらい重要なものとして、以前からコーラを愛飲しているヘビーユーザーの重要性にいち早く気づいた企業だ。ヘビーユーザーにもっとたくさんのコーラを飲ませる。そして、思い出に残る楽しい場面にコーラが常に存在するように、という点に多くの力を注ぎながら日夜マーケティング戦略を練っている。

食品業界の一部の人々も、高まる健康志向と自己の良心の呵責の末に、塩分、糖分、脂肪分の減少を模索する。しかし、彼ら良心派は常に亜流に止まる。熾烈な競争の中で、いかに利益を上げるかという重圧は業界の人々に常に圧し掛かる。著者の目は次第に彼らの出資者が集まるウォール街へと向いていく。

味蕾を刺激する地雷

本書は食品業界が流通させる、加工食品がいかに健康を害するかを論じた本である。一方で企業の歴史やマーケティング戦略といったビジネスに関する面を、内部資料の分析や業界人へのインタビューで非常に丹念に追っている。そのような視点で読めば、優れたビジネス書として読むこともできる。また、自由主義市場が求める利益が加工食品メーカーの良心を圧殺しているという視点を鋭く指摘している点も見逃せないと思う。

加工食品メーカーは出資者の求める成果を出すために科学者、心理学者、技師、マーケティングの専門家、デザイナーなどがあらゆる能力を駆使し、綿密に計算された商品を「設計」しているのだ。

これは肥満という現代の社会問題が個人の意思のみで解決しうるものでないことを如実に表している。我々はまさに味蕾を刺激する地雷に囲まれた日常を生きている。本書を読むことで、真実と情報を手に入れ、賢く懸命に振る舞える消費者になることが、自己と家族の健康を守る唯一の武器になるのではないか。そう思わせる一冊だ。

7~9月期実質GDP、年率0.8%減2期連続マイナス15/11/16 日経Net

 内閣府が16日発表した2015年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.2%減、年率換算では0.8%減だった。4~6月期(年率換算で0.7%減)から2四半期連続のマイナス成長となった。中国景気の不透明感などを背景に、企業の設備投資が低調だった。実質賃金の改善傾向が続く中で、前期に落ち込んだ個人消費は持ち直した。

 QUICKが13日時点で集計した民間予測の中央値は前期比0.1%減、年率で0.3%減だった。

 生活実感に近い名目GDP成長率は前期比0.0%増、年率では0.1%増だった。僅かながら、4四半期連続のプラスだった。

 実質GDPの内訳は、内需が0.3%分のマイナス寄与、外需は0.1%分の押し上げ要因だった。

 項目別にみると、設備投資は1.3%減と、2四半期連続のマイナスだった。企業収益は過去最高水準で推移しているが、設備投資への意欲は高まらなかった。企業が手元に抱える在庫の増減を示す民間在庫の寄与度は、0.5%分のマイナスだった。

 個人消費は0.5%増と、前期(0.6%減)から2四半期ぶりに増加に転じた。公共投資は0.3%減と、2四半期ぶりにマイナスとなる一方、住宅投資は1.9%増と3四半期連続でプラスだった。

 輸出は2.6%増、輸入は1.7%増だった。輸出の回復ペースは鈍かったものの、原油安などの影響で輸入の伸びも小さく、GDP成長率に対する外需寄与度はプラスとなった。

 総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期と比べてプラス2.0%だった。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは0.2%上昇した。

 2015年度の実質GDP成長率が内閣府試算(1.5%程度)を実現するためには、1012月期、16年1~3月期で前期比年率4.7%程度の伸びが必要になるという。〔日経QUICKニュース(NQN)〕

カザフスタンに謎の地上絵 NASAが撮影2015/11/21日経Net記事保存

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カザフスタンの台地に四角形に並べられた盛り土は、新たに発見された地上絵のなかでは最大のもの。(PHOTOGRAPH BY DIGITALGLOBE VIA NASA

 中央アジアのカザフスタンで見つかった謎の地上絵が話題を呼んでいる。上空から見ると、巨大な円、十字、四角、さらにかぎ十字まで様々な図形が、盛り土を並べて描かれている。米航空宇宙局(NASA)が最近、これらの地上絵をとらえた衛星写真を新たに公開し、広く世間に知られることになった。

 最初に見つけたのは、カザフスタン北部の町クスタナイに住むビジネスマンのディミトリー・デイ氏。テレビで古代エジプトの番組を見て以来、自分の国にも何か面白そうな古代遺跡はないかと、グーグルアースを使って衛星画像を調べていたところ、人里離れた草原地帯のいたるところに、人の手によるものと思われる奇妙な図形が点在しているのを発見した。以来8年、地上絵はいつ、何のために作られたのか、デイ氏のチームを含め複数のチームが調査を進めてきた。

■年代をめぐる対立

 リトアニア歴史研究所の考古学者ギードレア・マツゼビシウテ氏は、カザフスタンのクスタナイ大学のアンドレイ・ログビン氏率いる国際研究チームの一員として、人工的に作られた55カ所の地上絵のうち2カ所を調査した。「建造には大変な労力を要したと思われます。ここにある土は大変重量があって、粘土のようです。それに、何もない草原のど真ん中に作られていました」と同氏は語る。

この円形の地上絵は、中央アジアで最初の町が出現した鉄器時代幕開け頃(紀元前800年頃)のものと思われる。(PHOTOGRAPH BY DIGITALGLOBE VIA NASA

 地上絵は、民家のまばらなカザフスタン中央のトゥルガイ地域で発見された。うち十字形が21個、四角形が1個、円形が4個、そしてかぎ十字形のものが1個見つかっている。多くが、フットボール場をすっぽりと覆うほどの大きさだ。

 4年前に地上絵の存在を知ったというマツゼビシウテ氏は、発見はデイ氏の功績であるとした上で、地上絵は大きく分けて2つのタイプに分類されるとする。第1のグループは、河川の流域を見下ろす小高い台地に描かれたもの。かぎ十字形を含む第2のグループは、川沿いの、紀元数世紀頃にできたとされる埋葬地の近くにある。かぎ十字はナチスのシンボルとして有名だが、古代の中央アジア地域ではよく使われていた形である。

 マツゼビシウテ氏の研究グループは、最新の年代測定方式を用いて、地上絵のうちのひとつが作られた時期を紀元前800年頃、もうひとつが紀元前750年頃と推定した。鉄器時代の幕開けであり、この地域に初めて町や大きな建物が現れた時代に当たる。

 放射性炭素年代測定に必要な有機物が採取できなかったため、年代測定には光刺激蛍光線量計(OSL)を採用した。これは、試料が太陽光へさらされてからどのくらいの期間が経過したかを測定するもので、誤差はわずか20年ほど。

 一方、発見者のデイ氏もクスタナイ大学のカザフスタン人考古学者を含む研究チームを結成し、盛り土に見られる浸食の程度や現場周辺で見つかった新石器時代の石器などから年代を推定、地上絵は8000年前のものであると主張している。

 しかし、盛り土はずっと後の時代に作られたもので、そこに昔の石器が混ざった可能性もあると、マツゼビシウテ氏は反論する。また、浸食の度合いから年代を推定するのは難しい。デイ氏が調査した地上絵については年代測定や発掘調査が行われていないが、マツゼビシウテ氏は2000年前より古くはないだろうと考えている。

かぎ十字風のこの地上絵は、カザフスタンの草原を流れる川沿いの低地に作られたもの。(PHOTOGRAPH BY DIGITALGLOBE VIA NASA

■天体観測所か それとも道しるべか

 年代よりもさらに謎なのが、これらの地上絵が描かれた目的である。デイ氏は、新石器時代の太陽崇拝に使われた天体観測所ではないかと主張している。

 しかし、考古学者らはその意見にきわめて懐疑的だ。米ワシントン大学の考古学者マイケル・フラチェッティ氏は、「どんな解釈でも、しようと思えばできます。動物用の囲いの跡でも、ソビエト時代の水道でも、ストーン・サークルでも」と指摘する。同氏は中央アジアで発掘調査を行っているが、今回の研究には加わっていない。

 マツゼビシウテ氏は、明確な答えを得るにはまだ多くの研究が必要であると認めながら、「遠くからも見える、道しるべのようなものだったのではないか」と語る。「空からでなければ確認できないナスカの地上絵とはまた異なるものです」

 川沿いで見つかっている第2のグループについては、「タムガ」の一種ではないかとの見方もある。タムガとは、ユーラシアの部族が動物への焼き印または領地を線引きするのに用いた印章である。

謎に包まれた地上絵は、このような十字形をしたものが最も多い。(PHOTOGRAPH BY DIGITALGLOBE VIA NASA

 デイ氏は、地上絵の数は260個あるとしているが、マツゼビシウテ氏は、その中には後の時代のクルガンと呼ばれる墳墓や、もっと最近に作られた動物の囲いなども含まれていると指摘。本当に古代のものはおそらく55個、そのうち実際に現地で研究者が確認したものは半分にすぎないという。「衛星写真だけを見て、実際に現地を訪れていないのであれば、間違った解釈をする恐れがあります」

 デイ氏とマツゼビシウテ氏はともに、近い将来、研究論文を発表したいと考えている。デイ氏はすでに仕事を辞め、このプロジェクトに注力するつもりだ。(文 Andrew Lawler、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2015116日付]

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5.EconomyPolitics・Military Affaires

中国人はドンキで何を「爆買い」しているのか、訪日客の意外なおみやげ選び石山 真紀 :フリーライター・売り場研究家 石山 真紀いしやま まき

フリーライター・売り場研究家

法政大学卒業後、食品企業で販売の現場に携わる。その後、流通コンサルタント企業へ転身。結婚による退職後、物流業界新聞社、流通業界雑誌社を経て、2008年よりフリー。現在は流通専門誌や弦楽器専門誌などでも取材・執筆・編集に携わるほか、売り場づくりやマーチャンダイジングの研究も行っている。
 

20151116日 TK

 

道頓堀御堂筋店はインバウンド強化型の店舗だ

11月も半ば。2015年もすでに終盤戦です。この時期恒例となった今年の流行語大賞のノミネートを見てみると、お笑いや政治関連の言葉が多い中、「インバウンド」「爆買い」のキーワードが目に入りました。

昨今、中国の旧正月である春節や、建国記念日にあたる国慶節といった中国の大型連休の時期になると「爆買い」のニュースがあちこちで報道されますが、今年はことのほか多かった気がします。

中国からはもちろん、韓国や台湾、香港、タイなど、アジア圏を中心に外国人観光客は年々増加傾向にあり、年間を通じて恒常的に来日しています。そんな外国人観光客にとっての買い物天国が、大型ディスカウントストアのドン・キホーテです。

インバウンドは大阪・道頓堀が熱い!

ドン・キホーテの店舗というと、首都圏在住の読者の方は新宿歌舞伎町の入口にある「新宿東口本店」や渋谷の道玄坂にある「渋谷店」などを思い浮かべる人も多いかと思いますが、このインバウンド需要については、実は関西圏が非常に伸長しています。

ドン・キホーテ全店における免税売上高構成比の上位店舗を見てみると、1位は今年6月オープンしたばかりの大阪の「道頓堀御堂筋店」がランクイン。2位はこの店舗から300メートル足らずの「道頓堀店」、3位は沖縄の「国際通り店」、4位に「銀座本店」、5位が「新宿東口本店」となっています。

大阪は昨今、ユニバーサルスタジオジャパンや近隣の京都観光からの立ち寄りだけでなく、買い物中心のツアー客も多くなっているといいます。ドン・キホーテ道頓堀御堂筋店は、道頓堀川と大阪市の中心部を縦断する御堂筋沿いに位置するインバウンド強化型の店舗。2位の道頓堀店はグループ全店舗で訪日外国人に対する免税売上高ナンバーワンの店舗です。

新店である道頓堀御堂筋店では1階にニーズの高い菓子や医薬品、全国のおみやげ、2階に生活用品、3階に化粧品、4階に家電など、フロア別にテーマを設定し、目的型の買い物がしやすい売り場づくりを行っています。同社では近年、国内外からの観光客で賑わいを見せる大阪ミナミの変遷に合わせ、店舗体制を強化。インバウンド需要をさらに取り込んでいきたいという考えです。

では実際にドン・キホーテで、外国人観光客に人気のおみやげを見ていきましょう。ここでは高級時計やブランド品を除いた、「爆買い」のフレーズにふさわしい大量購入されている日常使いのアイテムを検証してみたいと思います。

定番のチョコレートに意外なキッチン用品も

たくさんのキットカットが並ぶお菓子売り場

まずはバラマキみやげの定番であるお菓子類。以前の連載記事「出張、旅行のおみやげは現地スーパーで探せ」でもご紹介しましたが、外国人観光客にとっても、やはり人気なのはチョコレート菓子。

特に「キットカット ミニ オトナの甘さ 抹茶」など日本特有の抹茶フレーバーのお菓子は飛ぶように売れています。

日本のスーパーでも新茶シーズンになると、抹茶フレーバーの商品を集めてコーナー化をしたりしますが、外国人観光客が多く訪れるドン・キホーテの店舗では、抹茶フレーバーの菓子コーナーを常設している店舗も多くなっています。

次に日用品を見てみましょう。まずはステンレスボトル。意外に感じる商品のひとつですが、同社の広報によると「中国人の方は冷たいペットボトルの飲料を飲む習慣があまりなく、温かいお茶などを好みます。そのため保温性や気密性の高い日本製のステンレスボトルを求める傾向にあります」とのこと。中国の食習慣から考えると納得の内容です。

同じくキッチン用品ではセラミック包丁も人気です。自宅用には高級包丁、親戚に配るのはセラミック包丁といったように、買い分けしているお客もいるよう。同社のプライベートブランド「情熱価格」のセラミック包丁もよく出ているようです。またバラマキやすいものとして、筆者も愛用している「消せるボールペン」も人気の商品となっています。

中国のSNS等で話題「神薬12」の強さ

医薬品の売り場の様子。日本製の医薬品類は外国人観光客に人気が高い

インバウンドを語るうえではずせないのが医薬品類です。昨年秋ごろから中国のSNSや口コミで広がった「神薬12」というキーワード。

これは「日本に旅行へ行ったら買うべき12の医薬品」を指しており、目薬や冷却シート、ビタミン剤から湿布までその種類はさまざまです。その売り上げはすさまじく、ドン・キホーテ全店売上高に占めるインバウンド比率が4%であるのに対して、「神薬12」のインバウンド比率は46.3%にもなります。

またこの神薬ではなくても、日本製の医薬品類は品質の高さから、外国人観光客に人気があります。たとえば「オロナインH軟膏」は「娥羅納英H軟膏」という名前で、香港でも販売されていますが、中国人観光客にとって、日本で販売されている「オロナインH軟膏」は商品名や説明文が中国語ではなく日本語で表記されていることから、特にプレミア感を感じ、おみやげ需要につながっているようです。

医薬品類に続き、化粧品も爆買いされやすい商品です。やはり日本のメーカー品が人気で、特に酵素の入った洗顔パウダーは、現地に比べて安価であることからカゴいっぱいに購入するお客もいるそう。美容ローラーやナノケア対応のドライヤーなど、美容小物家電も人気。小さな子どものいる家庭では、日本製の紙オムツやミルクなどもよく出ています。

これだけの買い物をしたら、荷物がいっぱいになってスーツケースに入らないのでは……と心配になりますが、そこは品揃えの豊富なドン・キホーテ。おみやげを持ち帰るためのキャリーケースもインバウンドの売れ筋商品にしっかりと入っていました。

外国人観光客に対する手厚いサービス

ドン・キホーテがこれだけ多くの外国人観光客から支持されるのには、れっきとした理由があります。同社では2008年から他社に先がけ、訪日外国人観光客向けへのサービスを強化してきました。免税専用の「ウェルカムカウンター」をはじめ、4カ国語対応のコールセンター「ウェルカムデスク」や、訪日観光客向けの専任スタッフ「ウェルカムクルー」を配置。特に外国人観光客の利用が多い全国20店舗においては、国内初となる外貨7通貨(中国人民元、台湾ドル、韓国ウォン、タイバーツ、香港ドル、米国ドル、ユーロ)のレジ精算サービスを開始しています。

今年の2月には「春節」での需要拡大に合わせて、訪日外国人観光客向けの予約サイト「ウェルカム予約サイト(中国語版)」を開設、他にもまとめ買いのサポートとして空港の配送サービスを行うなど、観光客へのきめ細やかなサービスが外国人観光客の心を捉えているのではないでしょうか。

同社の2015年の国慶節期間の免税売上高は昨年対比で3.5倍と大きく伸長しました。免税の手続きをした客数は7日間で42000人。免税の客単価を見てみると、国内客単価平均に対し免税平均は約6.3倍、中国人観光客では約10倍にもなります。

2020年の東京オリンピックにあわせ、外国人観光客の増加が見込まれる日本。外国人向けサービスの充実で波に乗る同社の更なる成長が期待できそうです。

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6.Marketing

訪日客が満喫 ナイトライフ つかむインバウンド消費

2015/11/18付 情報元

日本経済新聞 電子版

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 日本の観光で未熟なもののひとつが、ナイトライフだ。欧米の観光都市のような夜に楽しめるショーが少なく、アジアの主要都市より百貨店なども早く閉まる。訪日客をホテルに引きこもらせてはもったいない。娯楽、飲食、ショッピング。各分野で夜を新たなゴールデンタイムにする動きを追った。

■「ホテルから外へ」演出競え

 夜の京都。市役所に近い裏通りの小劇場に外国人が次々と入っていく。上演される「ギア」は、ロボットや人形という設定の5人の演者が、ダンスや手品を通じて物語を見せる。オランダ人のニコ・ワーヘナーさん(61)は「色々なパフォーマンスが融合してずっと山場だった」と絶賛する。

 

 昼は寺社など観光資源にあふれた京都も夜は選択肢が乏しい。統括プロデューサーの小原啓渡さんは、当初から観劇文化を持つ欧米人客を狙った。セリフのない無言劇とし、さらに「外国人がギリギリ分かる笑いのネタを探っていった」。例えば「だるまさんが転んだ」のしぐさは外国人も沸く。一方で「刑事がカツ丼を食べさせる」シーンは省いた。昨夏から口コミサイトで評価が高まり、多い日は100席の3割が外国人で埋まる。

 日本で小劇場に通う客層は限られるが、旅行者は常に入れ替わり新たな客となる。「評価さえ高ければロングランが可能になる」。外国人の夜の消費力を取り込み、公演回数は小劇場では異例の1100回に達した。

 吉本興業は1980年代末、大阪で欧米のような夜のショーに挑戦したが頓挫した。足元の訪日客の急増をテコに、再び挑むのが9月に興行した「THE舶来寄席」だ。

 お笑いの専門劇場「なんばグランド花月」がある大阪・ミナミはアジアの観光客であふれる。劇場に引き込みたいが「漫才や新喜劇は間とアドリブ。翻訳や字幕は難しい」(戸田義人取締役)。THE舶来寄席は外国人の演者がシャボン玉やシーソーを使った言葉の要らない芸を披露する。

 外国人の団体客は約3週間でまだ数十人程度。来年夏からの通年興行を目指し、日本的要素や笑いを入れた「吉本らしいショー」への脱皮を進める。戸田取締役は「東アジアの訪日客の1割をつかめば年中満員にできる。日本のショービジネス全体の課題だ」と話す。

 地方都市でも挑戦が続く。7日夜、福岡市のバー。「おしゃれでしょ胸のチーフ。引っ張るとポケットの裏地ってばれちゃうんだけどさ」。英国人のボケに笑いが沸く。今年から始まった「コメディフクオカ」は、演者一人の英語お笑い芸だ。

 主催者のオリー・ホーンさん(24)は九州大学の大学院生。日本で英語の娯楽を楽しめるのは「映画館かクラブだけ」。今の客は福岡に住む外国人が中心だが「ひとつの文化として根付かせ、観光客や日本人にも来てもらいたい」と話す。

 

 札幌市では13日夜、JTB北海道がショーを開いた。訪日客アンケートで「夜の観光」に祭りや伝統芸能が求められていたことを受け、アイヌ民族の踊りや空手の演武を45分に凝縮。YOSAKOIソーランの演舞が終わると会場は興奮に包まれた。インドネシアからの留学生フレッディさん(34)は「ここだけでしか見られないのがもったいないほど」。今回は道内に住む外国人らを招いたテスト開催。来年前半の本公演を目指す。

 飲食店があふれる東京。ただ、テラス席など開放的な店が多い欧米に対し「東京は地下やビルの2階に店があり入りづらい」。東京に住む米国人、ブレット・バーグハウアーさん(32)は「安心」に商機を見た。

 「ウエルカム・トゥ・トーキョーパブクロール!」。六本木のバーに集まった約80人の外国人が「ヒーハー!」と応える。バーグハウアーさんたちが運営するイベント「東京パブクロール」は毎週金・土に、バーやクラブを3~4軒はしごする。参加費は2千~3千円。一昨年に会社を設立して事業化した。

 この日は約半数が旅行者。アイルランドのショーン・ブロークさん(27)は「昨夜は新宿ゴールデン街に行ったけど、少し怖かった。このイベントには明日も参加するかも」。会場となったバー「プロパガンダ」の杉崎宏哉オーナーは「人の少ない早めの時間帯に大人数で助かる」と話す。

 ショッピングも夜に花開く。7月に開店した東京・新宿のドラッグストア、アインズ&トルぺ新宿東口店。この店のピークタイムは、閉店間際の夜10時台だ。「昼間はツアーなどで観光していた家族連れが夜になると増える」(神智範統括店長)。免税売り上げの半分を午後7時~閉店までの夜の4時間で稼ぐ。

 その秘密は、夜に重点配置した外国人パートたちだ。約10人が店内に散らばり、グループ客を「専属アテンダント」として案内する。「これは植物成分なんですよ」。「いい匂いね」。中国語で丁寧にプレゼンした結果、マレーシア人女性(38)は観光客が好む有名ブランドだけではなく、同店オリジナルのハンドクリームを購入した。

 客はポーチなどドラッグストアで購入する予定でなかったものにも手を伸ばす。同店の訪日客の客単価は2万円弱だが「アテンドするとほとんどが上回る」(神店長)。

 「買い物は友人から与えられた『仕事』。空いている時間にすませたい」。午後8時前、伊勢丹新宿本店(東京・新宿)の閉店間際に駆け込んだ中国人男性(49)は、フェラガモのベルトを手に話した。同店の免税カウンターは、午後6~8時が客数も売上高もピーク。香港の50代夫婦は「もう少し遅くまで開いているといいのに……。日本はヨーロッパよりは遅いけど、香港は午後10時まで大体の店が開いてる」。

 「コンビニが最後のとりで。夜でも買い忘れたお土産を買えるから安心」(香港の男性、26)。全国1千店で免税対応するセブン―イレブン・ジャパンでは、午後9時台が最も免税売り上げが多く、1時間で1日の約3割を稼ぐ。

■日本人も取り込む工夫を 娯楽充実へ不可欠

 なぜ日本ではナイトライフが乏しいのか。事業者からは「日本では風紀上良くない『夜遊び』ととらえられてきた」「欧州は日没が遅く自然と夜型になる」などの意見があった。いずれにせよ、外国人を狙うだけでなく、仕事帰りの日本人客を取り込むことがナイトライフ充実への道筋だ。

 「あと1時間、開演や終業を遅らせるだけで全然違う」と、旅行ガイドブック「地球の歩き方」の奥健編集本部長は指摘する。ニューヨークのブロードウエーなどは午後8時の開演が多く、仕事を終えて簡単な夕食をとってから楽しめる。

 曜日などで変わるが、美術館の閉館時刻は国立新美術館(東京・六本木)が最も遅い場合で午後8時、対してルーヴル美術館は9時45分。スポーツも日本プロ野球は6時プレーボールで、米大リーグは7時。夜景でもエッフェル塔は午前1時近くまで開いている。

 六本木ヒルズ内の森美術館は午後10時まで開いており、3割の客が夕方以降に訪れる。「英語の音声ガイドを借りる人は全体の15%」(同館)で外国人客を含めた夜の娯楽ニーズを実証する。

 花見、祭り、花火と日本らしい夜の娯楽も外国人に知られてきたが、場所ごとに年に一回しかないイベントは集客に限界がある。「週に一度でも定期的に続けることが大事。『行けば見られるんだ』と情報が伝わっていく」(ギアの小原プロデューサー)

 クラブなどの24時間営業に道を開く改正風俗営業法への期待もある。「外国人はダンスが好き。深夜に踊れる場所があれば若い観光客をもっと呼び込める」と東京パブクロール主催のアンドリュー・グエンさん(32)。

 「驚くほど世界中のミュージシャンが演奏に来る」(奥編集本部長)といった、日本ならではの強みもある。何より、女性でも夜に一人歩きができる治安の良さは、挑戦を支える大きな武器になるはずだ。

(石森ゆう太、井土聡子、岸本まりみ、小山隆史、平本信敬)[日経MJ20151118日付]

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