上海漢院顧問のつぶやき (No.357)

20151231日付

15年度No.46,通算No.357

 

 

1.特集

 

 

【中国関連】

 

【日本関連】

 

【アジア関連】

 

【米国・北米関連】

 

【欧州・その他地域関連】

 

【世界経済・政治・文化・社会展望】

 

2.トレンド

 

3.イノベーション・モチベーション

 

4.社会・文化・教育・スポーツ・その

 

5.経済・政治・軍事

 

6.マーケティング

 

7.メッセージ

 

  【上海凱阿の呟き】

 

記事

 

1.今週の特集

 

【China関連】

 

流行語に見る中国で今モテる男の条件、ティーンは説教オヤジに胸キュン、熟女は「若い肉」に妄想山田 泰司20151224日(木)NBO

山田 泰司著述業/EMSOne編集長19922000年香港で邦字紙記者。2001年の上海在住後は、中国国営雑誌「美化生活」編集記者、月刊誌「CHAI」編集長などを経てフリーに。2010年からは、「EMSOne」編集長も務める。

 

ファンに説教するスタイルが受け「老幹部」の火付け役になった霍建華(写真:ChinaFotoPress/Getty Images

 今年もあと1週間。毎年この時期になると、「今年こそは中国の十大ニュースや流行語で気軽に読んでもらえる原稿を1本書こう」と思うのだが、結局は書かずにやめるということを繰り返してきた。

 理由は2つ。1つは、日本の「ユーキャン新語・流行語大賞」のように、流行語大賞と言えばこれ、と定着したものがないということ。新聞、雑誌、最近であればインターネットのポータルサイトなどがてんでんバラバラに発表するのだが、どれもさほどの盛り上がりも見せず、注目も集めないまま年が明けて忘れ去られてしまう。

 もう1つの理由は、十大ニュースや流行語を選定・発表するのが、中国共産党や政府機関を背景に持つメディアである場合が多いことが影響し、どうしても「お堅い」ものが多いということ。中国の体制にとっては意義のあることであろうが、日本人など海外の読者にとっては、興味を持ちにくいものが大半なのだ。

 例えば、例年、1230日前後に国内の十大ニュースを発表する新華社が2014年のトップニュースに選んだのは「改革の全面的深化の元年に多項目の重大な改革政策が打ち出される」。どうです、なかなかのお堅さでしょう? ニュース解説ならばいくらでも書けそうだが、このニュースを日本人に向けて気の張らない読み物に仕立てるのは、なかなか骨の折れる作業である。

 流行語にしても事情は似ていて、近年流行語を毎年発表している「咬文嚼字」という雑誌は、上海のメディア全体を統括する上海新聞出版局と、上海文化出版社というお堅い機関が経営・管理しており、しかも言語学の専門誌。メディアを統括する部署の息がかかった出版社のランキングだけに、発表当日は全国の多くのメディアがトップに近い位置で報じるから注目度は高い。ただ、言語学専門誌だけあって、選考の基準が、どれだけ流行ったかということよりも、言語学的に見ればどうかという方向に引っ張られ過ぎる嫌いがあるのが難。今年も流行語入り間違いなしと思われていた「然并卵」(何の役にも立たない)という言葉を、「言語の持つ知恵に乏しく、内容がなく、この言葉を使う者の品性が出るのみ」と腐して落選させたものだから、この言葉を日常用語として大いに活用している若い世代からは「うまく使いこなせない選者がこの言葉の面白さを分からないだけだ」と非難囂々である。

今年のキーワードはちょっと違った

 さて、12月に入ってボチボチ出始めた流行語や十大ニュースを眺めながら、今年も期待できないだろうなと思っていた矢先、広東省の出版社が隔週で出している雑誌「新周刊」が「2015年のキーワード10選」に選んだ言葉を見て、おや、今年はなかなか面白い言葉が挙がっているな、と思った。

 それは「老幹部風」という言葉。ごく大ざっぱに意味を言うならば、中国の女性、それもそろそろ結婚を意識し出した20歳前後から30歳までの女性たちにここ12年ウケている男のタイプ、つまり「男の趣味」を表す言葉なのである。

 「老幹部」という言葉はそもそも、年齢で一線を退いた中国共産党の元幹部らのことを指す。中国共産党は、党や軍の幹部に対しては定年後も手厚く面倒を見る。町中にはこうした元幹部が利用できる「老幹部活動センター」という施設がある。

 老幹部というと、長老の立場から現役の幹部に政策の提言などをするというイメージがあるが、そこまで地位が高かった人たちばかりではなく、日本で言うなら村議会レベルの幹部でも引退すれば老幹部である。これら老幹部らが三々五々集まっては、お茶を飲みながら雑談したり、カードゲームに興じたり、新聞を読んだりと、日がな一日、楽しんでいるようである。

 ただ一方で、市場経済化が進み世の中が忙しくなってきた近年の中国では、めまぐるしく動く社会にあって、そこだけ時間が止まったような空間に生きているかのような老幹部たちを、計画経済時代の遺物として、冷ややかな目で見る風潮もある。「老幹部風」をキーワードに選んだ新周刊も、「老幹部といえば少し前までは、ヒマ・陳腐・ダサいの代名詞だった」と評しているほどだ。

中年で昔気質がカッコイイ

 ところがこの1年で、老幹部という言葉の持つイメージはガラリと変わった。今年放映されヒットしたいくつかのドラマに主演した男優たちの中に「老幹部風でカッコイイ」と言われる芸能人が登場したためである。

 それでは、中国の女性たちは、どういう男たちを老幹部みたいだと言ってもてはやしているのか。2040代の女性らに話を聞いてみたところ、「禁欲的で、ある程度の地位と実力がある、長身痩躯で35歳以上の昔気質な男」という姿が浮かび上がってきた。つまり、老幹部そのものではなく、青年から中年にさしかかろうとしている年代の幹部のイメージである。さらに、「老」とつけるのは、10代、20代の若い芸能人との対比という意味もある。

 これらの要素を個別にもう少しく詳しく書くと、まず、ある程度の経験を積まなければ幹部にはなれないので、年齢は35歳より上。仕事に真面目で熱心であり、かつ能力があることを衆目が認めている人物であること。必要なことはしゃべるが、無駄口はきかない。パーティーなど派手なことを好まず、質素で必要のないものは買わないなど禁欲的。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の使い方もよく分からないなど流行には無頓着。自己管理の厳しさをうかがわせるように体は痩身。基本的に生真面目な表情を崩さないが、たまに見せる笑顔が飛び抜けて優しい、といったところか。

 そして、老幹部風の男に欠かせない重要な要素がもう1つある。それは、「女性に向かって説教したり、教訓を垂れるのが好き」なことだというのだから、耳を疑うではないか。日本ではこの2つこそ、若い女性にオヤジが嫌われる要素だというのに。

 ところが実際、老幹部風の代表格と見なされている霍建華という台湾出身の男優は、ファンに説教する姿が度々伝えられたことで株が急上昇。「他人にも厳しいけれども、自分にも厳しい。他人を厳しく叱るのは、それだけ相手のことを真剣に考えているから。まるで老幹部のような素敵なお方」として、老幹部風の男の人気の火付け役となったのだという。

 どうやら、老幹部風という言葉には、「理想の上司」のような意味がありそうだ。そして、そのような男を結婚の相手として歓迎するのが、中国の女性たちにとって、いまのトレンドだということなのだろう。この言葉を十大キーワードに選んだ新周刊の記事も、「老幹部風の男の流行は、華美でなくてもいいから、自分を引っぱっていってくれる相手と堅実で安定した生活を送りたいというイマドキの女性たちの願望がある」と解説している。

やっぱりピチピチの若い男

 ただ、どの年代の女性でも、老幹部風の男が好き、というわけではないらしい。上海でファッション誌の編集をしている旧知の上海人女性は言う。「説教されたり教訓を垂れられて喜ぶのは、物心ともにそこそこ豊かになった1990年代以降に一人っ子として大事に大事に育てられ、親に叱られ慣れてない世代だけ。既に結婚している比率が高くなる35歳以降、すなわち老幹部風の男たちと同世代から上の年齢の女性たちは、自分自身もそれなりに人生経験を積んでいる。いくらイケメンだろうが、説教する老幹部風の男なんて真っ平ですよ」。

  では、アラフォー以上の中国の女性たちにいま人気があるのは、どのような男なのかと尋ねると、間髪入れずに「小鮮肉」という言葉が返ってきた。

 小鮮肉。中国語が分からなくても字面でなんとなく意味は分かると思うが、「ピチピチした肉体を持つ若い男」という、妄想をかき立てそうな、かなり赤裸々な言葉だ。

「小鮮肉」と呼ばれる芸能人を表紙に採用する雑誌や新聞も多い(上海市内の新聞スタンドで)

  この言葉も2014年に最も流行った言葉の1つなのだが、先に紹介した流行語を選定する「咬文嚼字」誌は、昨年の十大流行語でこの小鮮肉を選ばず、「12を争う流行り言葉を落とすなんて」と、やはり囂々たる非難を浴びている。

 小鮮肉と呼ばれる芸能人を見てみると、共通するのは二十歳そこそこ、色白で皮膚がつるっとした、王子様のようなタイプが多いようだ。あえて1人、外見のみで代表的なタイプを挙げるなら、フィギュアスケートの羽生結弦クンが近いだろうか。日本でも羽生クンのようなタイプが3050代の女性に大人気だという点は中国と同じ。ただ、王子様タイプのアイドルを形容する言葉として、「ピチピチした肉体」という直接的な表現が出てくるところは、日本人と中国人、やはりかなり感覚が違うのだなということを改めて認識させられる。

客寄せのポスターもあからさま

 感覚が違うという話でもう1つ。

 とかく評判の悪い「咬文嚼字」誌が、今年の十大流行語の1つとして「任性」という言葉を選んでいる。任性は「わがまま、勝手な」というような意味で、もともとは「有銭就是任性」、すなわち「金持ちは本当に勝手なことばかりする」と、カネに飽かせてやりたい放題する人間が世の中に増えたとして、彼らの振る舞いを非難する意味合いで流行った言葉だ。

 ただ、ある投資信託会社が客寄せのポスターに、天からバラバラ降ってくる金貨を、地上にいる無数の人間が手を伸ばしてつかみ取ろうとする様子の絵を使い、その上に、「有銭就可以任性」、すなわち、「カネさえあれば、好き勝手にできるんですよ」というコピーを大書していた。日本人にだって、そういう気持ちが無いわけではない。でも、ここまであからさまではないよな、と思ったのである。

「カネがあれば勝手気ままにできる」と人間の欲望にダイレクトに訴えかける投資信託会社の看板(上海市内で)

中国経済はどこへ向かうのか?発展と貧困併存

20151230日(Wed)  WEDGE

 

 

富坂 聰 (とみさか・さとし)  ジャーナリスト

 

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock

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2015年の幕が閉じようとする中国社会では、二つの相反するニュースが人々の話題をさらった。 上海市長寧区の貧困地区。古くからの個人店が立ち並ぶ(iStock

格差社会の相反する現実に揺れる中国

 1つ目は12月上旬のことだ。四川省欅枝花市の25歳のタクシー運転手が借金を苦に川に身を投げるという事件が起きた。こうした事件は中国では決して珍しくないが、このニュースが全国区となるきっかけがあったからだ。それは、水死体となった息子の遺体が見つかったものの、貧しい農民である両親がそれを引き上げる費用をねん出することができず、ずっと遺体を放置したまま岸部で泣き続けるという問題が起きたからだった。

 当初、付近の漁民たちが提示した金額は18000(36万円)だったが、事情をかんがみ交渉の末に8000元にまで値は下げられたというが、それでも両親は払うことができなかったという話だ。

 地元の『華西都市報』などが大きく伝え、貧困の現実に多くの中国人が震えた。

 そして2つ目は1214日、『経済参考報』が伝えた記事で、タイトルは〈(著名な経済学者)林毅夫が予測 2020年には中国人1人当たりのGDP12615ドルに達する〉だった。

 高速成長の時代を過ぎ経済の停滞期を迎えたとされる中国だが、“中所得国の罠(1人当たりのGDP3000ドルから1万ドルの間の国が急速に落ち込むことを指す)”を脱し、先進国の仲間入りをするとの予測を紹介した記事である。予測したのは北京大学国家発展研究院の教授である。中国の現在(2014)1人当たりのGDP8280ドルであるから、単純に5年後に15倍となる計算だ。

 前者の視点で材料を集めれば、明日にでも中国が崩壊に向かうという記事を書くことは簡単であり、その逆もまた真なりである。その意味では来年もまた無責任な崩壊論と礼賛論が中国の周りではかまびすしくなることだけは確かなようだ。

 そうした雑音はさておき、2つのニュースが示しているように2つの相反する事実に中国が揺れていることは間違いない。そして大きな難題を抱えた習近平指導部が、いったいどのように問題と向き合おうとしているのかをみることは、中国の未来を占う上での基本的な態度ということになるのだろう。

 

富坂 聰 (とみさか・さとし)  ジャーナリスト

 

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

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危機感強まる指導部 打ち出した経済の方向性とは

 私自身、胡錦濤指導部の時代には、中国が抱える問題の大きさに対して指導部の示した危機感が薄すぎると中国の未来を悲観していたが、習近平の時代になり1500人以上というペースで党員を処分する取り組みなどに接すると、いまの指導部が強い危機感を抱いていることが理解できた。またそれは国民にも伝わり、社会の空気を変える作用もある程度は果たしている。

 指導部の危機感は、秋に行われた中国共産党中央委員会第5回全体会議(5中全会)で発表された「135か年計画(135)にもくっきりと刻まれている。

 今後5年間の中国経済の方向を決めた「135」の特徴は、以下の5つのキーワードで理解することができるとされる。

 ①創新(イノベーション)

 ②緑色(エコ・環境)

 ③協調

 ④開放

 ⑤「共享」(利益の平等分配)

 なかでも焦点は⑤の「共享」とされるが、そのターゲットは貧困である。より具体的には中国になお残る7000万人ともいわれる極貧層(11ドル以下で暮らしている人々)があるとされるが、これを5年後に撲滅するというものだ。

 実は、習近平は「135」の前から脱貧困については積極的に言及してきていた。現状、貧困の実態に関するニュースがメディアに多く見られるのは、それが一つのトレンドになっているからなのだ。

 目下のところ指導部の意図がどこにあるのか――「貧困層のかさ上げによって新たな発展の余地としようとしているのか」、それとも「社会の安定のためには避けられない優先事項」と考えられたのか――判然とはしない。しかし、少なくとも分配を見直すという方向には向かうことが予測されるのだ。

 この「135」を受けて、1214日に召集された党中央政治局会議では、より具体的に2016年の経済運営のための10大任務”が確定された(新華社)という。

 ここでそのすべてを記すことはできないので要約を並べて見たいが、特徴は①に個々人のイノベーションを推進し新たな発展につなげることを掲げ、②に企業の淘汰を促しつつ、③社会保障や税金、電力といったコストを低減してゆくとしている。また、④として不動産に関しては在庫処理に注力しながら出稼ぎ労働者の都市への定着を推進し不動産の取得を促すことを打ち出し、金融では⑤として効率の良い資金供給のためのインターネットの活用を掲げ、同時に不良債権処理でのハードランディングを避ける⑥としている。さらに、⑦で国有企業改革、⑧で国民生活、⑨で一帯一路構想の推進、⑩で外資との協力と知的財産権の保護を打ち出しているのだ。

 これらが中国が今後取り組む優先課題だということだ。逆から見れば、中国がいまどんな問題を抱えているのかが良く伝わってくる内容でもある。

 

富坂 聰 (とみさか・さとし)  ジャーナリスト

 

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock

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上海のパノラマ(iStock

米国との摩擦の懸念

 1点だけ、このなかに挙げられていないが重要だと思われるのが高付加価値化に向かわざるを得ない中国の道標である。かつて太陽光発電を次の成長エンジンの一つにしようと目標を掲げたときのようにITを重視するかと思われたが、それはどうなったのだろうか。

 実は、この点において懸念されるのは次の発展の場所を中国がITと定めたとき、どうしてもアメリカとの間で深刻な摩擦が起きてしまうとされていることだ。これは太陽光パネルをめぐって、いまは蜜月の欧州との間で深刻な摩擦が発生したことにもつながる問題だ。

 一説には、このところ急速にアメリカ国内で中国警戒論が広がった背景には、シリコンバレーが本気で中国を警戒し始めたことと無関係ではないとも言われる。

 そういった意味で中国は、アメリカとの調整が本格化する1年だということができるのではないだろうか。国際社会における中国の立場を考えてもアメリカとの関係は重要だ。しかもアメリカは大統領選挙の年である。毎回、中国に対する攻撃が最も強まる1年でもある。つまり2016年を位置づけるのであれば、米中関係の調整から目が離せない1年ということが言えるのではないだろうか。

世界経済にかつてなく大きな影響を及ぼした中国

2016年も世界経済を左右する重要な国になるが、その影響は異なる?2015.12.25(金) profile Financial Times  JBPress

20151224日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

中国は今年、かつてないほど大きな影響を世界経済に与えた。2016年はどうなるか〔AFPBB News

 中国はこの1年、かつてないほど大きな影響を世界経済に及ぼした。中国の景気減速はエネルギーやコモディティー(商品)の生産国に苦痛を与えただけでなく、ほかの途上国にとっても深刻な経済成長減速要因となり、世界全体の成長率を押し下げた。

 また、同じくらい衝撃的だったのは、この夏の株価急落と手際の悪い通貨切り下げのために米連邦準備理事会(FRB)が9月の金利引き上げを延期したことだ。

 金融政策の立案に当たってFRBほど外部の影響に反応しない中央銀行はない。

 そのFRBがこの点で予想外の敏感さを見せたことは、中国の台頭によって世界がいかに大きく変化したかを物語る出来事だった。

 さらに、中国政府はついに、人民元を国際通貨基金(IMF)の準備通貨のバスケットに採用してもらうという大願も成就させた。

効果を発揮し始めた景気刺激策、政策の方向性に注目

来たる2016年も、中国は再び、世界経済の動向と資金の流れる方向を左右する非常に重要な存在になるだろう。だが今度は、景気減速が云々という話にはならない。鉱工業生産指数からうかがえるように、景気刺激策は効果を発揮している。また、特に地方政府によるインフラ投資の改善に反応する形で、投資が上向いている。国有企業も投資を増やしている。

これは中国政府がかねて脱皮しようとしていた、投資・輸出主導の古い経済成長モデルへの回帰にほかならない。予想をはるかに上回る景気減速に直面した今年、中国共産党の幹部たちは方針を転換した。比較的古い産業で失業が高水準になれば社会不安が生じ、共産党による権力維持の脅威になりかねないと恐れたに違いない。

来年には、経済における消費の割合を増やしたり金融の自由化を続けたりする当初の計画が放棄されたか否かを示す、決定的な証拠が明らかになるだろう。もし放棄されたのであれば、中国は高くつく資源配分の誤りを永続させることになり、後でさらに高い代償を払うことになる。

 中国以外の国々も代償を払うことになるだろう。

 持続不可能な経済成長モデルは、中国が世界全体の生産能力の余剰に寄与したために多くの産業で利益率が落ち込むという悪影響を外部に及ぼしている。

 あまり指摘されていないが、これは米国と大半の欧州諸国で金融危機以降に企業の投資が低迷していることの1つの要因だ。

人民元切り下げの行方

 最も大きな疑問の1つは通貨戦争に関するものだ。中国の産業界は、競争力のない人民元レートに苦しんでいる。上昇の著しい米ドルにペッグしていることが、この問題をさらに悪化させている。

 今月になって中国当局が、通貨バスケットに基づく指数に切り替えたことは、表向きは市場で決まる部分が大きい為替レートへの移行に寄与する。中国人民銀行(中央銀行)が人民元レートを切り下げるときの煙幕にもなる。また生産者物価が急低下していることも、人民元の実質ベースの下落に寄与している。

ここへ来て人民元の動きが注目を集めている〔AFPBB News

 先進国が需要不足に苦しんでいることを考えれば、秩序ある切り下げなら、世界のほかの国々にとって元安は対応可能かもしれない。

 原油価格が下落して消費者の所得が押し上げられていることに加え、中国から輸入される製品が値下がりすれば、消費を刺激することに役立つと思われるからだ。

ただ、もっと急激な人民元切り下げとなれば(実行されるとすれば、日本がさらに競争的な通貨切り下げを図るときに促される可能性がある)、話は別かもしれない。大統領選挙が行われる年に米国で保護主義的な感情を燃え上がらせてしまう場合は特にそうだ。

 米国経済全体に占める貿易可能財セクターの割合は比較的小さいものの、輸出業者が連邦議会に対して行使するロビイング力はかなり強い。

 とはいえ、グローバルサプライチェーンの存在は、グローバル化が始まる前に比べれば、貿易保護主義の主張が抑制されたものになるかもしれないことを意味している。

中国マネーが各国でバブルを生む可能性

 中国の当局者らが金融改革に対する意欲を取り戻すようなことがあれば、別の種類のショックがほかの場所で感じられるかもしれない。

 完全な資本勘定の自由化に向けた動きは、莫大な貯蓄のプールを解き放ち、外国市場に向かわせるだろう。財産権がより強固でガバナンス(統治)が安定した国々へ投資を多角化させようとする衝動は、圧倒的に大きいはずだ。そうなると、バブルが生まれるだろう。発展途上国世界の比較的狭い市場では特にそうだが、先進国でも生じるはずだ。経済には、それより悪いことが起き得るものだ。By John Plender © The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. Please do not cut and paste FT articles and redistribute by email or post to the web.

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【Japan関連】

トヨタが“下請け”になる日-人頼みの「カンバン」や「ケイレツ」だけでは通用しない日経ビジネス編集部 2015930日(水)

「第4次産業革命」とも言えるインダストリー4.0に向けて、国ぐるみのドイツ、ITの巨人が主導する米国と比べ、日本は大きく出遅れている。外とつながることを拒否したままでは、トヨタ自動車すら“下請け”になりかねない。

トヨタ自動車の生産ライン。様々なメーカーのロボットや工作機械が1台のクルマを形作っていく(写真=AA/時事通信フォト)

 4次産業革命を進めるには、様々な場所からリアルタイムでデータを集め、他社と共同で分析を深めることが不可欠。だが、日本は足踏みしている。他社とつながるメリットよりも、磨き上げてきた生産ノウハウなどの情報流出リスクを警戒するからだ。日本の製造業を牽引してきたトヨタ自動車ですら、その呪縛から抜け出せていない。

 せっかくの機能が宝の持ち腐れになっている──。トヨタの工場にロボットを納める、ある大手機械メーカーの役員はこうこぼす。「トヨタさんがインターネットにつながせてくれない」。

 納入したロボットは、工場の外部とつながる遠隔監視機能を搭載している。本来ならネット経由で稼働状況をモニターし、保守業務を効率化できるはずだが、現時点では不可能だ。ネットに接続すると「生産ノウハウが社外に流出しかねない」と、トヨタが難色を示しているからだ。 故障したらその場で人がすぐに対応できるように「担当者が工場に常駐して見張っていてほしい」とトヨタから要望されたという。

分断状態のトヨタ「ケイレツ」

 ロボットの遠隔監視は単なる故障対応の効率化という問題にとどまらない。今後、工場内の設備が社外とつながり、顧客ニーズを迅速に判断しながらカスタムメードの製品を量産するインフラへと発展する可能性も秘める。その第1ステップをトヨタは踏み出せない。

 「カンバン方式」など緊密な連携を強みとするトヨタの「ケイレツ」。だが、各社を結びつけるのは人であり、情報をやり取りするのも、電話やメールといった従来型の手法が主流となる。

 人を使いながら最高の生産効率を追求、実現してきただけに、その成功体験が次への一歩を阻んでいる面もあるだろう。トヨタ系部品メーカーの首脳は「生産にはトラブルがつきもの。結局は、人間が対応せざるを得ない」と話す。従来のやり方を変えても、メリットは少ないとみているのだ。

 トヨタは販売店と自社工場との間をネットでつなぎ、生産ラインの稼働率やクルマの製造状況を逐一把握している。だが、それはトヨタ社内に限られる。ケイレツなど親しい企業との間ですら、ネットでの情報連携は道半ば。別のトヨタ系部品メーカー幹部は「個別企業のIoTへの取り組みは始まったばかり。ケイレツ内で工場を相互につなぐのはまだ先の話」と打ち明ける。企業や工場の壁を越えて、複数拠点をつなぐIoTの観点から見れば、トヨタケイレツはまだバラバラだ。

 現場の知恵による生産革新で、トヨタは最先端を走ってきた。世界各地に展開した工場は、長い間磨き上げてきたノウハウ、すなわちビッグデータの宝庫だ。しかし、それらがデジタル化されていない限り、つながりをベースにモノ作りを刷新しようという第4次産業革命をリードするのは難しい。

 GEグループ出身で大手製造業のコンサルティングを手掛けるジェネックスパートナーズの眞木和俊会長は、こう指摘する。IoTへの取り組みから考えると、今後、独フォルクスワーゲン(VW)がトヨタを競争力で上回るようになる。(生産ノウハウをデジタル化し)新興国の工場と知識を共有するなどの観点ではVWが先行している」。

 トヨタだけではない。日本の製造業においては、社外はもとより、自社工場内でも十分に情報連携ができているとは言いがたい。産業機械やロボットの規格が乱立しているからだ。

 「我々が旗を振ってもいいと思っているのだが、他社さんはなかなか乗ってこない。日本は力のあるメーカーが多いから難しい」。三菱電機の楠和浩・FAシステム第二部長は言う。

 三菱電機は、工場の「頭脳」に当たる制御装置で高シェアを握るFA(工場自動化)の雄。2003年から、顧客の工場内の機器をネットワーク化して生産現場の改善につなげる「eファクトリー」を展開してきた。

 だが、もう一段の飛躍には、単独での努力は限界にぶつかっている。工場の通信規格で自社方式の普及に動くが、国内ではファナックや安川電機、オムロンなどFA大手がひしめき、思惑の調整は容易ではない。

 産業機械やロボットが相互に「会話」しながら、最適な生産を導くのが第4次産業革命の神髄だ。通信規格の標準化はその最低条件。ドイツや米国は通信も含めた産業機械の制御ソフトで「デファクト」を握ろうとしている。制御ソフトを手中に収め、規格を統一すれば、工場の内外にある数多くの生産設備を、文字通り手足のように動かせるようになるためだ。

 これは、ドイツの事例で見てきたような、生産ラインを流れる部品一つひとつについて機械の動きを調整し、カスタムメードを量産する「マスカスタマイゼーション」には不可欠なインフラである。日本のお家芸である産業機械やロボット業界だが、足並みがそろわないままでは世界から取り残されてしまう。

 こうした状況に政府も手をこまぬいているわけではない。経済産業省は富士通など複数の企業に、様々な工作機械やロボットを一元管理できる、制御ソフトの開発と実験を打診している。だが、動きは鈍い。「メード・イン・ジャーマニー」を守り、発展させるため、国を挙げて立ち上がったドイツのようなダイナミズムは、まだ見られない。

「ドラスチックな逆転劇が起きる」

 このままでは日本のモノ作りは衰退してしまうのではないか。日本企業の一部にも、危機感は広がり始めた。

 「日本の自動車メーカーが、海外勢の下請けになっても不思議ではない」。こう語るのは、日産自動車でEV(電気自動車)「リーフ」の開発を手掛ける、ITITS開発部の二見徹エキスパートリーダーだ。「IoTがクルマ作りを大きく変え始めた。ドラスチックな逆転劇が起きる」と見ている。

 例えば米国のITの巨人たちに、顧客ニーズを迅速に反映した製品開発で主導権を奪われる。そうなると、日本は海外勢の指示通りにモノを作らされる、下請け的立場に追い込まれかねない。

 これから自動車業界の勝ち組になるのはどこか。二見氏が警戒心を募らせている相手が、EV専業の米テスラ・モーターズだ。デジタル機器に囲まれて生まれ育った世代を「デジタルネーティブ」と呼ぶが、テスラを例えるなら「IoTネーティブ」。日産など旧来型の自動車メーカーとは、思考法が全く異なる。

 テスラの強みはソフトをアップデートしてクルマを進化させること。自動運転もソフト更新で機能を追加し実現する。イーロン・マスクCEOは「5年程度の時間軸で、テスラのEVに完全な自動運転技術を搭載する」と話す。

EVの覇権を競い合う、米テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEO(左)と、日産自動車のカルロス・ゴーンCEO(写真=Getty Images

ディーラー網は強みにならず

 ソフトの改良や不具合修正を通じて、販売後に製品の機能を拡張するのは、IT業界では当たり前。最初から完成品を顧客に届けることにこだわる日本車メーカーとテスラとでは、モノ作りへのスタンスは正反対といってもいい。

 これからクルマの競争力は、自動運転など制御ソフトが左右することになる。金型の改良といった日本が得意としてきたモデルチェンジから、ダウンロードによるモデルチェンジへ。これも、第4次産業革命の一断面だ。日本のモノ作りが今のままでは通用しなくなる可能性をはらんでいる。

 こうした危機感も後押しし、日産は製品の改良にIoTを活用し始めた。全世界で15万台販売したリーフをネットに常時接続、バッテリーの状況や走行履歴を24時間管理している。刻々と集まるビッグデータを、リーフの競争力強化に生かそうとしているのだ。

 目指すのは、「航続距離」の延長だ。仮に、1回の充電で走れる距離が大幅に延び、ガソリン車と遜色なくなれば、EV普及の最大のボトルネックが解消されるわけだ。

 アクセルを踏んだ際の電流量や、電池の消耗状況をネット経由で把握。バッテリー残量予測の精度を高めた。減速時のエネルギー回生効率向上も含め、2012年に発売したリーフの航続距離は228kmと旧型より1割伸びた。

 データの分析をさらに深めることで、航続距離を一段と延ばせる新たな電池材料を使えるメドも立ちつつある。「どうすれば電池性能が向上するか、理屈では分かっている。(道路での利用状況など)実際のデータと突き合わせることで、材料や製造プロセスを見直せるようになった」と二見氏は話す。

 こうした成果が出始めたにもかかわらず、日産がテスラ流のモノ作りを本格導入するのは難しい。全社に広げるにはこれまでのビジネスモデルを大胆に捨てなければならないからだ。

 それは、日本の本社で基幹技術を開発し、世界中に展開した大規模工場で単一製品を大量生産した上で、隅々にまで張り巡らせた販売網で売り込む手法である。カスタムメードの量産が主流になる時代に、目玉商品を飾って来店客へ売り込む店舗は必要なのか。そして、同じ製品を高効率で量産する既存の工場も根底から変えなければならなくなるはずだ。

 「工場やディーラー網を持っていることは、IoT時代には強みにならない」。二見氏がこう自覚するように、次の時代に向けてやるべき方向性は、見えてはいる。だが、実行には業態転換にも匹敵するような大きな痛みを伴う。

 それを乗り越え、新たな産業革命へと動き始めた世界の中で、日本だけがこのまま止まっていていいはずがない。

やっぱり2016年は円高トレンドの1年になる,日米の金利差だけで円安は続かない中原 圭介 :経営コンサルタント、経済アナリスト 中原 圭介なかはら けいすけ

経営コンサルタント、経済アナリスト

 

経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析しており、その予測の正確さには定評がある。「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、ファンも多い。
主な著書に『2025年の世界予測』『シェール革命後の世界勢力図』『経済予測脳で人生が変わる!』(いずれもダイヤモンド社)、『これから日本で起こること』『これから世界で起こること』『アメリカの世 界戦略に乗って、日本経済は大復活する!』(いずれも東洋経済新報社)、『トップリーダーが学んでいる「5年後の世界経済」入門』(日本実業出版社)、『未来予測の超プロが教える 本質を見極める勉強法』(サンマーク出版)など著者多数。

 

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仮に円相場が110円を目指す展開になれば、日銀は追加緩和に踏み切るだろう(撮影:今井康一)

さまざまな経済メディアを見ていると、エコノミストや機関投資家を含めた市場関係者の間では依然として、日米の金利差拡大を根拠にして「円安が継続する」という見通しが多いようです。某銀行が主催する経済講演会で、某外資系証券のエコノミストの話を聞いてきたばかりですが、「米国の利上げにより円相場は130円を目指すだろう」と予想されていました。

ところが私は、円相場を予想するうえで重要なのは、さまざまな要因を俯瞰したうえで総合的に判断することであると考えております。日米の金利差拡大という要因だけで円安が続くと予想するのは、あまりに視野が狭い判断であり、歴史的な見地を軽視していると思うのです。

円安トレンドはなぜ終わるのか

 

拙書『これから日本で起こること』および『経済はこう動く〔2016年版〕』では、米国の利上げをきっかけに、いよいよ円安トレンドは終わるだろうという見通しを述べさせていただきました。

その見通しの根拠となっているのは、経常収支や金利差、購買力平価、過去の歴史などであります。ドル円相場を短中期的に左右するのは、日米の経常収支や金利差であり、長期的な流れを左右するのは、何といっても購買力平価を置いて他にはないのです(詳しくは『円安終焉へのカウントダウンが始まった』(1214日)を参照してください)。

 

さらには、その見通しを補完するために、市場の歴史を参考にする必要もあります。米国が1999年と2004年に利上げを開始した後、当時も日米の金利差が拡大したにもかかわらず、円安ではなく円高に振れたという事実を軽視してはいけません。いずれのケースでも、短期で見ると利上げ開始後は円安が進んでいたのですが、中長期で見ると大幅な円高に振れてしまったのです。

これらの歴史的な事実は、市場が米国の利上げを相応の期間をかけて織り込みに行っていた証左であるといえるでしょう。FRBは今回の利上げにおいても、1年にも渡って慎重に市場へのアナウンスを行ってきたので、市場では金利差はほとんど織り込まれていたと考えるのが自然であるといえるわけです。

 それでは、仮に私の見通し通りに円安トレンドが終了した場合、円高基調がどのくらいの水準まで進むと考えるのが妥当であるのでしょうか。これも前回の記事の繰り返しになってくどいようですが、私は購買力平価(消費者物価ベース)の100円~105円あたりがひとつの目安になるのではないかと考えています。

ただし、ここで意識しなければならないのは、仮に円相場が120円を割り込み、110円を目指すような展開になったとしたら、日銀の追加緩和が行われる可能性が徐々に高まっていくだろうということです。

日銀は201510月に株式市場が期待していた追加緩和を行いませんでしたが、それは株式市場の期待だけでは追加緩和が行われることはないという証左であります。これまでの安倍首相と黒田総裁の発言の変遷とその関係性を見ていると、日銀(黒田総裁)が追加緩和を行う強い動機は、今後は安倍政権の要請以外には考えられないといえるのです。

外貨投資は難しい時期に入ってくる

ですから、円安から円高へとトレンド転換した相場がさしたる大きな抵抗もなく、ずるずると100円~105円のレンジに近づいていくというのは、予想することができないわけです。円高が予想以上に進む過程では株価も大幅に下落していくので、株高が生命線である安倍政権が急きょ態度を変え、黒田総裁に追加緩和を催促するようになると考えるのが自然であるからです。

おそらくは、円相場が110円に接近するあたりには、株式市場でも追加緩和への期待が相当に高まっていくだけでなく、安倍首相の発言にも変化が見られ始め、実際に追加緩和が決定される可能性が高まっていくのではないでしょうか。

外貨投資の分野では、私は自らの予測に基づき、201212月にドルだけに集中投資を開始し、201511月~12月にかけて123円台ですべて売却しましたが、2016年は安倍首相や黒田総裁の発言の変遷を見ながら、ドルの買い場を一回は探っても良いのではないかと考えております。追加緩和の内容にもよりますが、5円~10円の幅で利益を得られる可能性は十分にあります。

ただし、ドル投資の黄金の3年間はすでに終わってしまったと認識するべきでしょうし、だからといって、新興国通貨を買うのも拙速すぎると考えております。2016年以降の大きな流れでは、外貨投資は非常に難しい時期に入ってくるのではないでしょうか。

また、株式市場や原油価格の大きな流れについては、『日本株は、いよいよバブルの領域に入った』(625日)『原油価格、「1バレル30ドル時代」が来る』(811日)で述べていますが、新しい流れの兆候が感じられた時は、この連載やブログ等で触れたいと思っております。

 円高ドル安が進み、2016年末は112円になる,円安?円高?円高と見るプロの論理大崎 明子 :東洋経済 記者 大崎 明子おおさき あきこ

東洋経済 記者

機械、精密などの事業会社、証券、保険、銀行業界などを担当し、『週刊東洋経済』『オール投資』編集部、『金融ビジネス』編集長を経て、現在は、金融市場全般とマクロ経済、地方銀行をウォッチ

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ホリデーシーズンは記録的な暖冬で雪が降らなかったニューヨーク。利上げ後の米国の景気はどうなるのか(写真:AP/アフロ)

20151216日、FRB(米国連邦準備制度理事会)はついに利上げを行った。2016年のFRBの利上げペースがどうなるのか、ドル円相場はドルが強くなるのか、円が強くなるのかについては、見方が分かれている。三菱東京UFJ銀行の内田稔チーフアナリストに見方を聞いた。 

――ようやくFRB(米国連邦準備制度理事会)による最初の利上げがありましたが、2016年のドル円相場をどう見ていますか。

一貫して、1ドル=125円ぐらいが円安の限界という見方をしている。ポイントは2つある。

一つめは、米国経済の独り勝ちがそんなに長く続かないのではないかということ。世界の経済が全体に弱い中で、米国だけが利上げをすれば、ドル独歩高になるので、結局はこれがアメリカ経済を下押しする。二つめは日本円がそんなに弱い通貨ではなくなるだろうということ。原油安などによって、日本の経常黒字が再び急拡大してきたためだ。

2016年のドル円相場は1ドル=112126円のレンジで、現在は底堅い動きではあるが、2016年末にかけて緩やかにドル安円高が進んでいくと見ている。

円は経常黒字の急拡大で強くなっている

――中長期のトレンドとして円高に転換するということでしょうか。

 

まず、主要通貨が円に対してどのように動いてきたかを見ると、2012年は日本の経常黒字の減少と日本銀行が金融緩和に動くとの期待から、すべての通貨が円に対して上昇し円全面安だった。2013年は日本銀行のQQE(量的質的緩和)が始まり、やはり円全面安となった。

2014年は円安の度合いは薄まってきて、例えば、スウェーデン・クローナが円に対して値下がりしたが、全般に円安となった。これが2015年はほぼすべての通貨が円に対して値下がりし、円全面高に転じている。かろうじてドルだけは円に対して上昇したが、年初が11960銭、足元が121円なので、1%程度の上昇に過ぎない。

2015年に円が強くなった背景は経常黒字の急拡大に加え、ECB(欧州中央銀行)のマイナス金利政策でユーロのほうが弱くなったこと、さらに、世界経済全体が冴えない中で、米国の利上げが始まったことがある。世界のGDP(国内総生産)が伸びない中で米国が利上げに転換するのは初めてのことだ。これが、経済にいろいろなストレスをもたらし、市場がリスク回避の円買い動く局面が頻発した。2016年もそうした場面が増えてくると思われる。

――円はもはや弱い通貨ではないということですね。2012年の円安転換は経常黒字の減少が背景にあった。

内田稔(うちだ みのり)1993年慶応義塾大学法学部卒、東京銀行入行。外国為替のトレーディングやセールスを経て2007 年から外国為替のリサーチを担当。2010 年シニアアナリスト、2012 05 月より現職

それと、日銀の金融緩和への期待。だが、足元ではどうかといえば、追加緩和への期待は残っているが、毎月約10兆円も国債を買っており、買い増し余力は低くなっている。もう一段の円安株高を演出するのは難しい。

201512月のECB(欧州中央銀行)理事会では追加緩和が市場の予想の下限のレベルにとどまってしまったために、失望からユーロ高になってしまった。

日銀が追加緩和を行っても、同様の動きとなるおそれがある。問題は市場がその値動きを見てしまうと、黒田バズーカ=円安という神通力が失われてしまい、黒田総裁就任以前のように、バズーカは撃てず、“緩和したらかえって円高”ということになりかねない。

2015年は日銀がこれだけ通貨を供給していながら、ほぼすべての通貨に対して円高になったように、マネタリーベースの拡大が機械的に円高をもたらすわけではない。ECBもマネタリーベースを拡大しているが、ユーロはじわっと上がっている。

日銀の追加緩和はむしろ失望売りを誘う

――量的緩和の効果は失われているということですね。

量的緩和が波及する経路は、(1)名目金利が下がる、(2)期待インフレ率が上がる、(3)通貨安期待が高まる、の3つ。名目金利については、もう下げ余地がない、期待インフレ率については、日銀も困っていると思うが、原油価格が下げ続けていることでむしろ低下している。円安期待も以前よりは薄れてきている。追加緩和はむしろ市場の失望を誘う可能性のほうが高まっている。日銀の緩和=円安とはなりにくいだろう。

――FRBの利上げペースはどう見ていますか。FOMCのドットチャートは年4回を示しています。

時間が経つにつれて、たいして利上げはできない、という見方が強まっていくだろう。20163月も微妙だ。FF金利先物は2.5回を織り込んでいる。私はあと2回できるかどうか、という見方だ。3月か6月にできるかどうか。時間を追う毎に難しくなるだろう。9月は大統領選挙(11月)に時期が被るので難しい。あとは201612月にできるのかどうか。

米国の労働市場に陰り、利上げは進まず

――アメリカの経済はそれほど強くないということですか。

現状については、ドル高の影響で製造業は厳しいが、内需向けの非製造業がよいといわれている。内需は労働市場の改善と株高による資産効果が支えてきた。

しかし、注目すべきは労働市場に少し陰りが出てきていることだ。FRBが作成している19の労働市場関連の指標から編み出す「労働市場情勢指数」(LMCI)は、プラスなら改善マイナスなら悪化というもので、景気がよいときはプラス45とされる。しかし、2015年に入ってからは、これが一段低下して、1月のプラス3台が最高で、あとはマイナスをつけたり、足元でも1台で推移している。

2016年は労働市場の改善度合いが鈍くなり、毎月の非農業部門就業者数の増加が20万人を超えるのは難しくなってくるだろう。2015年も10月が27万で11月分は21万人と減った。2013年も2014年もクリスマス商戦などで盛り上がる11月は10月を上回っていた。この辺りからも陰りが出ていることがうかがえる。

2016年は株価もあまり上昇が期待できない。米国の株はITバブル崩壊後、だいたい予想PER(株価収益率)18倍が上値のメドとなっており、ほぼ天井に来ている。企業業績がよくなってEPS(一株当たり利益)が上がればPERは横ばいでも株価は上がるが、企業の収益自体が201579月期は6年ぶりの前年同期比マイナスを記録した。ドル高とエネルギー価格下落が響いている。

2004年以降、利上げを続けても株価が上がり続けた、という指摘があるが、当時の株高を牽引したのはエネルギーセクター。エネルギー価格が上昇し、エネルギーセクターの株価が23倍と上がっていったことが大きい。加えて、金融セクターも元気よかった。だが、今回金融規制が強化され、金融セクターも元気がない。そもそもQE3(量的緩和第3弾、資金供給の拡大)をやめた時点ですでに株価は上がらなくなっている。

労働市場の改善ペースが鈍り、株価も上がらないとなれば、頼みの消費は勢いを失ってくるとみている。米国経済全体の勢いも落ちるだろう。FOMC見通しは2016年の実質GDP成長率を2%台半ばと見ているが、私は2%に届かず1%半ば~2%とみている。利上げのペースは限られる。

たいした利上げができないとすれば、ドルはもはや弱くない円に対してどんどん強くなるということがない。むしろ現状ではややドル高が行きすぎており、調整が始まる。

――ドル円はどの当たりに落ち着くのでしょうか。

 

日米間の実質金利差とドル円は相関が高い。その関係から、逆算するとドル円の推計値は110円を下回る。そもそも10円ぐらいドルが高いということだ。この乖離は期待感によるものといえる。

一方、期待感を表す指標として、通貨オプションのリスクリバーサルが参考になる。ドル高円安期待が高ければ、ドルコール円プット需要が高まり、逆なら、ドルプット円コール需要が高まる。夏場以降、ドルプット円コールへの需要が後退しており、この指標を見ると、ドル高円安への期待値が徐々に低下していることが分かる。

外国株への投資が慎重になり円売り弱まる

 

経常黒字を重視する見方と関係ないという見方あるが、これは程度問題だ。
実際に2015年は円高が進んでおり、影響はあるといえる。だた、需給面では、日本から海外への投資による円売りも出ていたので円高が抑えられた面はあっただろう。

これが2016年にどうなるかといえば、海外への投資による円売りは弱まるとみている。

海外への投資は、直接投資と証券投資とがあり、企業のM&Aなどの直接投資は2016年も継続するだろう。証券投資の中身は株式と中長期債券に分けられる。昨年はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの公的年金と個人投資家による外国株への投資が大きく伸びた。株の投資はハイリスクハイリターンを狙って為替ヘッジを行わないため、これによる円売り効果は大きかった。

だが、GPIFはもう基本ポートフォリオの見直しによる株の比率の引き上げをほぼ終えており、2016年は様子見になるだろう。個人投資家も2015年が円高になったので慎重になるだろう。運用難の生命保険会社による中長期債券への投資は継続すると思われるが、これは為替ヘッジを行うため、大きな円売りとはならない。

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【World経済・政治・文化・社会展望】

「不安」と「強い政治指導者」が際立った年,2015年回顧 対立と衝突の1年を経て緊迫する世界2015.12.30(水) profile Financial Times

 

 

20151229日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

2015年は世界中で不安感が広がった1年だった。2016年はどんな年になるのか・・・ (c) Can Stock Photo

2015年は、不安な気持ちと嫌な予感がすべての大国の中心都市に住み着いたかのように思われた年だった。北京からワシントン、ベルリン、ブラジリア、モスクワ、そして東京に至るまで、政府もメディアも市民もびくびくし、苦境に立っていた。

 このような形で不安感が世界中に広がるのは珍しいことだ。

 過去30年以上にわたって、強気で楽観的な大国が常に1つはあった。

1980年代の後半には日本が数十年間に及ぶ景気拡大をまだ謳歌しており、自信に満ちた様子で世界各地の資産を買いあさっていた。

1990年代には米国が冷戦の勝利と長期の景気拡大という恩恵に浴していたし、2000年代の初めには、共通通貨を導入したり加盟国を2倍近くに増やしたりした欧州連合(EU)が活気づいていた。そして過去10年間は、政治と経済の両面で成長を続ける大国の中国に世界中が敬意を表することがほとんどだった。

すべての大国が不安に苛まれる時代

 しかし今日では、そうした大国がすべて確信を持てず、何かを怖がっているようにさえ見受けられる。筆者が今年体験した限りで言うなら、そのように言い切れない国はインドだけだ。ここでは政界や経済界のエリートたちが、ナレンドラ・モディ首相が発する改革への熱意のせいで活気づいているように思われた。

 これとは対照的に日本では、アベノミクスと言われる大胆な改革を実施すれば債務とデフレの循環を本当に断ち切ることができるとの自信が失われつつある。日本の不安は、中国との緊張が続いているせいでもある。

 しかし、筆者が今年の前半に中国を訪れたときに特に印象的に残ったのは、中国もまた不安を覚えており、その不安感はつい2年前と比較しても強まっているということだった。年率8%以上の経済成長を政府が難なく達成できる時代は終わった。この夏に上海証券取引所で生じた株価の大変動で明らかになったように、国内金融の安定性に対する懸念はじりじりと強まっている。

最大の原因は政治にあり

 だが、不安感の最大の原因は政治に求められる。習近平国家主席のリーダーシップは過去の国家主席たちのそれよりも精力的だが、予想しづらく、政府高官や財界人の間には恐怖感が広がっている。10万人を超える逮捕者を出すに至った反腐敗運動に巻き込まれることを恐れているのだ。

 中国経済減速の影響は世界全体に波及している。

 中国がコモディティーブームを刺激していたころ、ブラジル経済はこのブームに水上スキーのように引っ張られていた。

 だが今年に入ってブラジル経済は失速し、経済成長率はマイナス4.5%と水面下に沈んでしまった。

 ジルマ・ルセフ大統領は、弾劾を求める動きに直面するなかで汚職スキャンダルに巻き込まれている。

 欧州の雰囲気も暗い。今年は、パリが残忍なテロ攻撃に2度さらされた。7月にはギリシャがユーロ圏から追い出されそうになり、欧州大陸をここ数年悩ませてきた経済危機がついに決定的な局面に至ったかと思われた。一方、政治と経済のお手本として抜きんでた存在になっているドイツも、中東の紛争などを逃れてやって来た100万人超の難民の対応に苦しんでいる。

 また、欧州にはドイツと南欧諸国との間に通貨ユーロに起因する溝が以前からあったが、今年の難民危機はドイツと東欧諸国の間にもくさびを打ち込んだ。一方、英国はEUからの離脱をちらつかせており、フランスでは極右政党に投票する有権者の数がさらに増えている。

喝采しているべき米国でさえ険悪ムード

 経済指標で判断するなら、米国はこうした暗さの例外になるはずだ。この国の景気拡大は6年目に突入しており、失業率は約5%にまで下がっている。米国はインターネット経済も牛耳っている。ところが、世間のムードは険悪だ。

暴言を繰り返しても支持率が落ちないドナルド・トランプ氏〔AFPBB News

2大政党の1つである共和党が、野卑なデマゴーグのドナルド・トランプ氏を本当に大統領候補に指名する可能性があるとの見通しが出ていることは、米国が心穏やかでいるわけではないことを示唆している。

 実際、トランプ氏の――そして共和党からの指名を狙うライバルたちの――選挙運動は、米国は危険な衰退期にあるとの見方に基づいている。

では、こうした世界規模の不安感の背景には、各国固有の事情のほかに何らかの共通要素があるのだろうか。明らかに言えるのは、世界経済がまだ金融危機から完全に立ち直っていないということだ。また、かなり非伝統的な金融政策が数年間続いた後に新たな金融危機や経済危機が形成されるのではないだろうか、との見方も広がっている。

 政治・安全保障の分野では、中東の崩壊が続いている。

 ほかの地域の大国には中東の秩序を回復する能力がないことが明らかになったうえに、無秩序は難民やジハード(聖戦)主義者のテロという形でアフリカや欧州にも広がってきている。

 最も大きな共通要素は、明確に理解するのが最も難しい要素でもある。格差への不安と汚職に対する激しい怒りが重なって反エリート感情が高まるという現象がそれだ。この現象はフランス、ブラジル、中国、そして米国という実にさまざまな国々で見受けられる。米国や欧州では、そうした不満が国全体の衰退という広く知られた見方とリンクしていることが多い。

 また、このような社会的・経済的な不安感は、習近平氏やトランプ氏、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領などに代表される「強い」指導者を求める声が強まるという政治的な副作用をもたらす。汚職まみれのエリートを捕まえる、弱者のために戦う、国のために立ち上がるなどと(いかに偽善的であっても)約束する人々だ。

重病から回復できていない患者

 この世界を覆う暗い気分のせいで、国際政治システムは、2008年の金融危機のときに発症した重病からまだ回復できずにいる患者のようになっている。ショックをこれ以上受けなければ、回復は徐々に進むはずであり、最悪の症状も治まる可能性があるだろう。

 しかし、この患者は弱っている。大規模なテロ攻撃の発生や深刻な景気減速といった強いショックに再度見舞われれば、本当に苦しい状況に陥りかねない。

By Gideon Rachman © The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. Please do not cut and paste FT articles and redistribute by email or post to the web.

アメリカの金融正常化で先進国は「勝ち組」と「負け組」に分かれる野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] 【第43回】 20151224 DOL

 

アメリカの金融正常化後の世界経済は一見、不透明だが、大きな方向を見通すことはできる

 アメリカが金融正常化に踏み切った。その後に開ける新しい経済均衡は、どんなものになるのだろうか? その中で、日本はどうなるのか?

 IMFの予測では、日本の低成長が続くことが予測されている。

 つまり、アベノミクスによっては、日本の低成長構造は改善されないのだ。そして、日本は、出口のない金融緩和と、止めどもない円安に引きずり込まれるおそれがある。こうした状態から脱却するには、経済政策の根本が見直されなければならない。

世界経済が4つのグループに分かれる、その中で日本が位置するのは……

 アメリカの金利引き上げに対して、世界の株式市場は激しい値動きを示した。日経平均株価も、連日、数百円単位の価格変動を記録した。

 これは、金融正常化後の世界経済がどうなるかに関して、必ずしもコンセンサスが形成されていないことの反映だ。一見したところ、世界経済は大きな不確実性に包まれている。

 しかし、大きな方向を見通すことはできる。それは、世界経済が次の4つのグループに分かれることだ。

 第1グループは、市場経済を活用する度合いが高い先進国、すなわち、アメリカ、イギリス、アイルランドである。これらが、「勝ち組」になる。

 第2グループは、経済活動への国家の介入度合が強い先進国、すなわち、大陸ヨーロッパと日本である。これらが、「負け組」になる。

 第3グループは、新興国だ。資源に依存する新興国は、資源価格の下落によって、すでに危機的な状況に直面している。

 そして、第4が中国だ。これも危機的状況にある。

 これらのうち、中国経済は、独自のメカニズムで動く側面が強く、アメリカの金融政策による影響もあまり大きくない。そこで、この問題については別の機会に論じることとする。

 以下では、先進国が2つのグループに分かれること、第1と第2グループが経済成長率と為替の両面において対照的な動きを示すこと、そして、新興国がアメリカ金融正常化によって大きな影響を受けることを指摘したい。

アベノミクスの効果はなかった、日本の成長率は今後も改善しない

図表1には、先進諸国の実質GDP成長率の推移を示す(2015年以降は、IMFによる予測値である)。

14年以降、アメリカ、イギリス、アイルランドは2%を超える高い成長率を示している。IMFの予測によれば、2%を超える成長率は、今後も続く。

 これに対して、ドイツは1%台の成長であり、今後も成長率が高まることはない。

 日本の実質成長率は1%以下である。14年以降の経済成長率は、図表1に示す先進諸国の中では最低であった。そして、今後も改善しない。

◆図表1:先進国の実質GDP成長率 

(資料)IMF

  リーマンショック直後に、アメリカ経済が没落するとの見方が広がった。しかし、成長率がより大きく低下したのは、アメリカではなく(あるいは、第1グループの諸国ではなく)、第2グループの諸国だったのである。

 つぎに新興国を見ると、図表2のとおりだ。

 中国の実質GDP成長率は、リーマンショック以前には10%を超えていた。リーマンショック後も、需要喚起策が功を奏して、成長率が大きく落ち込むことはなかった。しかし、その後、徐々に成長率が落ちている。IMFの見通しでは、今後の成長率は6%台だ。

 ブラジル、ロシアという資源国は、リーマンショック前に5%を超える高い成長率を示していた。リーマンショックで落ち込んだが、すぐに回復した。しかし、その後、成長率は低下し、1516年には両国ともマイナス成長になる。17年以降はプラスになるが、成長率は12%という低い値にとどまる。

◆図表2:新興国の実質GDP成長率

(資料)IMF

アメリカが金融正常化するのは実体経済が強いから

 アメリカは、今後、金融正常化を進める。これは、上で見たように実体経済が強いからだ。そうした状況下で金融緩和を続ければ、投機を煽るだけの結果になる。

 アメリカの金融緩和政策(とくにQE2とQE3)は、アメリカ経済を活性化したというよりは、世界的な投機をもたらした。資源価格も、投機によって上昇していた側面が強い。

 しかし、金融正常化は、投機資金の調達を難しくする。このため、投機がやりにくくなる。こうして、原油価格が低下した。金融正常化が原因なのだから、それは一時的なものではない。原油価格は、今後も低位安定を続けるだろう。

 イングランド銀行の基本的な政策方向も利上げである。ただし、その開始は、2016年の後半になると見られている。

 これに対して、日本とユーロは、金融緩和から脱却できない。これは、実体経済が悪いからである。

以上で見たように金融政策の方向付けが正反対であることは、為替レートに甚大な影響を与える。図表3には、BIS(国際決済銀行)による主要通貨の名目実効レートを示す。

 日本円の減価は12年夏から始まっており、その後、最も大きく減価した。

 ユーロは14年初めまで増価し、その後、減価した。円もユーロも15年夏頃から増価している。

 これに対して、英ポンドは13年初めから一貫して増価している。米ドルは14年秋頃から増価している。

このように、日欧は、経済が弱いために金融緩和をとらざるをえず、その結果、為替が減価する。

◆図表3:先進国通貨の名目実効レート

(注)2010年を100とする (資料)BIS

通貨安では経済は改善しない、重要なのは市場機能の活用

 重要なのは、通貨安と金融緩和に頼る第2グループ諸国の経済パフォーマンスが改善していないことである。図表1に示したのが、そのことだ。先に、第2グループを「負け組」と言ったのは、そのためだ。

 ここでドイツとアイルランドの違いに注目しよう。両国ともユーロ構成国なので、為替レートからは同じ影響を受けている。しかし、図表1に見るように、アイルランドの成長率はドイツのそれよりずっと高い(アイルランドは、住宅バブルの崩壊によって一時は経済危機に陥ったのだが、それからは完全に回復したわけだ)。アイルランドは、アメリカやイギリスと同様に、市場経済志向が強い国である。つまり、図表1が示すのは、成長にとって重要なのは、通貨安ではなく市場機能の活用だということである。

 ところで、日本にとって最大の関心事は、今後の為替レートがどうなるかである。

 常識的な見方によれば、アメリカが利上げをして日本が金融緩和を継続するので、今後も円安が続くということになる。

 ただし、今後の為替レートを考えるに当たっては、つぎの諸点に留意が必要だ。

 第1に、マーケットが上で述べたような傾向をすでに価格に反映してしまっている可能性が強い。そうであれば、日米金利差が拡大しても、円安が進むことはない。

 第2に、アメリカとの金利差が開くといっても、差はそれほど大きくはない。また、日本の金利がアメリカに引かれて上昇することもありうる。

 第3に、新興国の通貨が減価する結果、実効レートで見れば円高になる可能性がある。実際、上に述べたように、円もユーロも15年夏頃から増価している。

 資源価格の低下は、新興国経済の状況を著しく悪化させる。

 実際、新興国では、利上げと通貨安が発生している。資源国通貨の名目実効レートは、図表4に示されている。リーマンショック後、11年頃に最高値になり、そのあと下落しているのが分かる。とくに、テイパリングが示唆された13年以降の減価が顕著だ。

159月にアメリカが金利引き上げを延期したのは、アメリカ経済に対する影響を考慮したというよりは、新興国経済への影響を考慮した結果であった。

◆図表4:資源国通貨の名目実効レート

(注)2010年を100とする (資料)BIS

日欧で通貨安が望まれるのは産業構造が古いから

30年前のプラザ合意の際には、自動車産業がアメリカの中心産業だった。だから、アメリカはドル安を望んだ。しかし、いまは違う。

 アメリカのIT関連企業は世界的な業務展開をしているので、ドル高になれば海外からの収入がドル建てで減少する。しかし、それよりは、新興国等の労働力を安く使えるようになることの利点のほうが大きい。世界的な事業を行なっているのであれば、為替レートの変化によって事業全体の数字が大きく左右されることはない。

 日本でもヨーロッパでも通貨安が望まれるのは、国内労働力によって生産し、それを輸出するという製造業が主要産業であるためだ。

 ところが、現実には、円安が進み、原油が下落したにもかかわらず、日本の貿易赤字は拡大した。世界の輸出市場の状況が非常に悪く、また日本の輸出の競争力が低下しているためである。今後、円安が進んでも、新興国経済が混乱し、中国経済が減速するため、日本の輸出は減少し続けるだろう。

 なお、円安によって海外からの旅行者が著しく増加している。しかし、円安が定着すれば、輸入物価が上昇して国内価格が上昇するため、海外旅行者にとって、とくに日本が有利ということにはならない。

 むしろ日本にとって問題なのは、円安が長期的な傾向として定着することだ。それは、日本国内の生産要素(とくに労働力)の価値が下がることを意味するのである。

緩和補完措置で歪みが拡大、ますます出口が見えない日銀

 日本の金融政策の主たる目的は、国債を買い支えて、その価格暴落を防止することだ。この目的は達成されている。しかし、その結果、膨大な残高の国債が日本銀行に蓄積されている。仮に価格が下落すれば、日銀に巨額の損失が発生する。したがって、量的緩和政策を停止することができない状態だ。

 日銀は、1218日の金融政策決定会合で、緩和の現状維持を決め、さらに補完措置としてつぎの2つを決めた。

 第1は、長期国債買い入れの平均残存期間を拡大すること。第2に、指数連動型上場投資信託(ETF)について、現在の年間3兆円の買い入れ枠に加え、新たに年間3000億円の枠を設けること。このようにして、日銀は、将来値下がりの危険がある資産をバランスシートに積み上げていくことになる。

 ETF購入の増大は、国を買い支えるという政策から、企業を支える政策に踏み込んだことを意味する。この点で、これまでの量的・質的緩和とは性格が異なるものだ。

 さらに日銀は、設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業の株式を含むETFを対象とするとした。これは、中央銀行が個別企業の経営に口出しすることを意味するものだ。本来あるべき中央銀行の政策の範囲を大きく逸脱している。

 金融緩和政策からの出口は、ますます遠ざかっている。

本当に必要なのは社会保障制度改革、刹那的な経済政策から脱却できるか

 現在の日本で本当に必要なのは、高齢化時代に備えて社会保障制度を維持可能なものにすることである。これは、年金、医療、介護のどの分野でも必要だ。しかし、どの分野でも大変難しい課題である。

 最低限必要とされるのは、労働力と財政に関する見通しを作成することだ。

 政府の財政収支試算がいかなる社会保障政策を前提にしているのかは、明らかでない。しかし、「新しい3本の矢」で示された「介護離職ゼロ」などの新しい政策を反映していないことは明らかである。したがって、それに見合って財政収支試算を改定する必要がある。

 しかも、政府の財政収支試算には、2023年度までしか示されていない。しかし、実は、その先が問題なのだ。

 いま、一時的に税収が増え、財政収支が好転している。このため、新規国債発行が減額されて、問題が見えなくなっている。財政赤字に対する危機感がきわめて弱くなっている。

 そのため、参議院選挙目当てのばらまき政策しか行なわれていない。補正予算では、65歳以上の高齢者で住民税が非課税の人を対象に、来年春以降、1人当たり3万円が配られる。このように、何のためかがはっきりせず、長期的見通しを持たない刹那的な政策が行なわれている。

16年は、新しい均衡に向けて世界経済が調整していく年になるだろう。そのなかで、日本が現在の状態から脱却できることを期待したい。

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1章 人工知能とビッグデータが広げる可能性
2章 新しいITサービスが変える市場経済の姿
3章 本格的利用が始まったビットコイン技術
4章 成長するアメリカと停滞する日本
5章 日本が新技術を取り入れるための条件
6章 アベノミクスでは日本は復活しない
7章 投機の時代の終了

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2.Trend

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3.Innovation/Motivation

【コミュニケーション】

外国人スーパーモデルから援交まで、師走の中国は金儲けで忙しい陳言 [在北京ジャーナリスト] 20151224 DOL

 「春節」を新年と考えている中国では、いまはどこに出かけても「ジングルベル」の曲が流れ、白い「雪」をかぶるクリスマスツリーが、常夏の南方都市でさえも商店街を飾っている。この国はいつのまにかこんなに「国際化」したのだろうかと不思議に思い、新聞に手を伸ばすと、もっとおかしな社会現象が雪のように目の前に降ってきた。

ウクライナから来た「スーパーモデル」その実の姿は「炭鉱労働者」

 四川省成都市で発行する「天府早報」からはこんなエピソードが流された。

 この数年、成都ではどこでも金髪碧眼で足の長い外国人モデルが見られるようになった。各種の商業イベントでは、外国人モデルの登場が増え続けている。現在、不動産やワイン、宝飾など多くの企業が外国人モデルを好むようになっており、外国人モデルによって企業イメージを高めようとしている。現在、成都で外国人モデルのマネジメント企業は10社近く、モデル数は計100人近くに達すると見られている。成都で開かれるショーの規模が大きくなるにつれ、外国人モデルの需要も高まっており、大規模なモーターショーにおける外国人モデルの割合は全体の40%に達するほどだ。

100人近いモデルたちの中では、ウクライナ人が半分以上を占めている。ウクライナは美女の産地であり、眉目秀麗で肌が白く背が高い美女が大勢いる。こうした先天的な条件の良さが、中国人の美的感覚にマッチし、歓迎されるようになったのだ。

 最近は、ウクライナ情勢の悪化によって同国の景気が後退したため、多くの若い美男美女たちが中国で生き残ることを選ぶようになっている。その際、モデルが不足している成都は、競争が厳しくなく、報酬も高いことから、彼らにとっては最初の選択地となっている。ウクライナの若者たちの収入は低く、平均月収は中国の通貨に直すと1000元(1元は約18円)程度、就職口のない者も少なくない。

 それに対して成都では、時給にして1000元を稼ぐことができる。同じことをしても、外国人モデルの報酬は中国人モデルの2.53倍に達し、素質に恵まれていれば月に78万元を稼ぐこともできる。こうしたウクライナ人にとって、成都は金儲け天国なのだ。

 多くの企業はこうした金髪碧眼のモデルを好むため、一部のウクライナ人女性は髪を金髪に染め、中国企業の“金髪碧眼”信仰に合わせている。

 外国人モデルの多くは合法的なビザを持っていない。彼らの多くは3ヵ月の観光ビザやビジネスビザを持ち、期限が来れば一度出国してまた帰ってくる。ほとんどのマネジメント会社も、費用が複雑で手続きも面倒なために、外国人モデルのためのビザ取得には消極的だ。

 こうした状況はモデル市場に混乱をもたらしている。一部のモデルはより稼ぐために仕事を選ばず、自身の将来を考えずにどんな仕事もこなしている。また、多くの外国人モデルはプロのモデルではない。彼らは自国ではごく普通の仕事に従事している。受付、事務員、販売といった仕事などで、ただルックスが良いというだけで中国に来るとモデルに変身する。

一人のウクライナ人男性モデルは弟を成都につれて来た。「弟はウクライナではスーパーモデルだ」と彼は言い、実際に弟のルックスはとても良かった。だが、その性格やウォーキングにはプロらしさは全くない。実はこの“スーパーモデル”はウクライナでは炭鉱労働者に過ぎなかったと、「天府早報」は記事の最後に明かしている。

広州で広がる女子大生の「援交」、目的は高級ホテルでの宿泊

 一方、「香港太陽報」はこんなエピソードを紹介している。

最近、広州の現地サイトでは、多くの自称大学生の「援交女」の名前が見られる。彼女らは、微博(ウェイボー、中国最大のSNS)を通じて自分のセクシーさをアピールする写真や動画、スリーサイズなどを公表し、微信などで顧客と価格交渉をする。価格は数百元から数千元とまちまちだ。

 「香港太陽報」の記者は「援交女」に連絡をとってみた。彼女らはいずれも自称大学生で、一番若い女性は自称18歳という。記者はその中の20歳の女性に会った。この女性は記者に会うや、自分から性行為の価格を提示してきた。彼女が提示してきた価格は一回につき1600元で、一晩で3600元。場所は四ツ星以上の高価なホテルを指定した。

 この女性は旅行が好きだが、「貧乏旅行」が嫌いで、旅先では少なくとも三ツ星か四ツ星のホテルに泊まりたいから、援助交際に手を染めたという。初めは慣れなかったが、お金の誘惑には勝てなかったという。彼女によると、多くの「援交女」が自分の価格を吊り上げるために整形をし、ますます多くの女子大生が援助交際に手を染めており、年齢も低年齢化し、顧客も低年齢化しているという。彼女は多くの20歳過ぎの大学生から価格の問い合わせを受けるという。

広州では多くの大学生が援助交際について直接、口にできる雰囲気であるし、その広がりは周知の事実となっている。ある学生は自分の周りのある同級生も、援助交際をすることに肯定的だと「香港太陽報」は書く。

社会には愛人があふれ撃退には専門業者に依頼

中国の企業名士は愛人を伴って接待の席に出席することで有名だが、政府官僚の愛人問題こそ当局が最も頭を痛めている事柄であると「タイムズ」も報道するほどだ。

 中国人民大学のある研究によると、2012年に腐敗により逮捕された中国の高級官僚のうち95%が愛人関係を持ち、これらの官僚の逮捕の60%が愛人問題と関係があるという。ある地方の地方政府が美人コンテストを開き、秘書を募集したときには年齢と3サイズが指定されたという。

 もちろん、中国人男性が誰でも愛人を持てるわけでなく、それは多くの金と大きな権力を必要とする。金と権力のある人からすれば、一人の若く美しい愛人は身分の象徴となるのである。

 中国で愛人現象が出現したことは、かつては紋切り型だった国家に変化が発生したことを示している。愛人の流行は中国の一部の女性が、このような社会の中で商品と同等のものとなっていることを示している。

市場経済改革以来、男性たちに比べ、中国の女性たちは今まで持っていた力をすでに失っている。中国人が金持ちになればなるほど、男女の収入差の開きも広がり、これが愛人現象が広がる根本の原因となっている。今の中国では女性が男性を探すときには本音で接してかまわない。例えば男に住宅がなければ妻にはならない。男女の間の取引条件はあまりにもはっきりしている。女性の最も大きなアピールポイントは「体」で、男性は「サイフ」である。

深センには、「愛人撃退」(夫婦関係に水を差す要因を撃退すること)市場に照準を合わせた受講価格1.5万元の新カリキュラムを開発して売り出した企業がある。受講者は全国各地の女性で、すでに300人が申し込んでいると広州の「羊城晩報」は報道した。

 「愛人撃退」関連企業のホームページによれば、この会社は複数の感情分析アナリストやカウンセラーなどを抱え、破綻した婚姻の救済に豊富な経験を有し、「愛人撃退」カリキュラムは33人の婚姻救済専門家が、これまでの事例を詳細に分析して開発したものだ。

受講生が会社と契約を結んだあと、講師は受講生の婚姻状況を把握し、その人に適したカリキュラムを組んで文字資料と動画CD資料を提供し、その後は随時悩みや相談に答えて充分なコンサルティングを実施する。カリキュラムには婚姻関係、姑との関係、整形指南、魅力アップの手引き、愛と技巧、誘惑技術、性愛指南、「愛人撃退」攻略法などが含まれる。

 李という28歳の受講生は結婚2年目、最近になって夫の浮気を疑い、カリキュラムを申し込んでプライベートレッスンの講師がついた。彼女は毎週QQ(中国版メッセンジャー)や手紙などで、講師と12回連絡して講義を受けているが、直接会ったことは1度もない。カリキュラムで学んだ彼女はその後イメージチェンジをはかり、夫と対するときは少女のように装うようにしている。

主婦で31歳の母親である王雪因もやはり夫の浮気が心配になり、7日に受講生になった。王はカリキュラムはたしかに効果的だと語り、現在、彼女の性格は前よりもずっと温和になり、夫の立場に立って思考できるようになった。言葉使いも以前のように強い口調ではなくなったという。

20世紀末までは中国になかったジングルベルやクリスマスツリーが、現在では社会にしっかりと根を下ろしている。市場経済を取り入れた経済成長が続く中で、2016年は果たしてどんな新たなエピソードが中国から生まれてくるのだろうか。

【リーダーシップ・フォローシップ】

【ブランディング】

なぜベンツはここまで大きな方向転換をしたのか,メルセデス・ベンツに見る「攻め」のブランド戦略2015.12.29(火) profile VIDEO SQUARE 編集部 メルセデス・ベンツは、これまでのお堅い企業のイメージを脱却しようとしている

posted by 野村 俊介

 ここ10年で時代が変わり、メディアが変わり、ライフスタイルが変わってきました。それに伴い、当然ブランド戦略も変えていかなければならないのは明白です。

 しかし、それまで築いてきたものが大きければ大きいほど、思い切った方向転換は難しいもの。

 今回は、どこよりも強固なブランドを築いてきたメルセデス・ベンツが仕掛ける「攻め」のブランド戦略を見ていきたいと思います。

スーツを脱ぎ捨てたベンツ

 もともと日本では、高所得者層をターゲットに高級セダンを販売してきたメルセデス・ベンツ。高級車の代名詞とも言えます。

 医者、弁護士、大企業の重役などがターゲットであったため、メルセデス・ベンツという企業ブランド自体、少しお堅いイメージがありました。

 しかし、時代は変わり、大型セダンが売れなくなりました。逆にABセグメントと呼ばれるコンパクト車が主流となってきています。

 さらに、若年層の車離れが叫ばれるようになって久しい状況です。そこで、メルセデス・ベンツは、これまでのお堅い企業のイメージを脱却。コンパクトカーにも力を入れ、若い人たちに受け入れられるブランドへと進化する決断を下しました。

 その皮切りとなったのが、2012年に公開されたプロモーション用アニメ動画『NEXT A-Class』です。舞台は近未来。主人公が、メルセデス・ベンツの新型A-Classに乗ってカーチェイスを繰り広げるアクションアニメです。

 キャラクターデザインは大ヒットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』を担当した貞本義行氏。動画の初公開は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の上映前シネアドという徹底ぶりでした。

 狙いは、話題性のあるアニメ映画と、発信力のあるアニメファンをハブに、ソーシャルメディアでの拡散につなげ、若年層へのリーチを強化すること。

 これまでのお堅いイメージを脱ぎ去って、大きく舵を切ったアニメ動画は、結果として270万回を超える大ヒット動画となりました。

八方美人はモテない

 なぜ、メルセデス・ベンツは、ここまで大きな方向転換をしたのでしょうか。ほんの10年前、動画広告といえばTVCMでした。TVというメディアは抜群のリーチを誇ります。その反面、ターゲットはあまり絞れません。

 そのためTVCMは、そのリーチを最大限に活かすべく、多くの場合、幅広い層に受け入れられるようなコンテンツにすることが求められてきました。

 メルセデス・ベンツも、方向転換をする前は、こんなTVCMを放映していました。

 メルセデス・ベンツのラグジュアリー感、C-Classの優れたスタイリング、車としての躍動感。これらを30秒にしっかりとまとめあげた、質の高いクリエイティブです。

 このTVCMを見せた上で「カッコいいか、カッコ悪いか」と問えば、ほとんどの人は「カッコいい」と答えるでしょう。

 ただ、このクリエイティブが、車に興味の無い人の心に残るかというと、疑問です。

TVCMではリーチを活かすために、ある程度、汎用性を持たせるのは仕方のないことです。

 しかし、動画広告は今やTVだけの物ではありません。YouTubeFacebookなどのソーシャルメディアでの動画展開も、かなり重要な施策となります。

 ソーシャルメディアでは、TVCMと比べてより細かくターゲティングが可能で、ターゲットにとって「自分事」となるようなコンテンツが求められています。

 誰にでもある程度受け入れられるだけの動画は、心に残るどころか、見られることもなく消えて行ってしまいます。

 皆にいい顔をする「八方美人」な動画ではなく、ターゲットを絞って心に刺さる動画を展開していかなければならないのです。

意中の相手をピンポイントに攻める勇気

 ターゲットを絞るということは、それ以外の人には、ネガティブな感想を持たれやすくなるということです。

 例えば、メルセデス・ベンツ最新の動画広告は、人気音楽ユニットのPerfumeとコラボレーションしたアニメーション動画です。かなりターゲットを絞ってきています。

 これまであまりアプローチできていなかった若い音楽好きや、アニメファンなど、ベンツが新しくターゲットとした層の印象には残りやすそうです。

 まだ、公開されたばかりで数字には出ていませんが、ソーシャルメディアでの拡散力もあると思います。

  しかし、昔ながらのベンツファンは、この動画をどう思うでしょうか?

 おそらく、「ベンツらしくない」「高級感はどこへ行った」と思う人の方が多いでしょう。

 しかし、メルセデス・ベンツは知っています。

 勇気をもって、自分たちがこれと決めたターゲットをピンポイントに攻めなければ、誰にも見られることもなく埋もれていくだけであるということを。

 そしておそらく、メルセデス・ベンツの決断は正しいでしょう。

 実際問題、昔からのメルセデス・ベンツのファンは、ウェブ上でアニメ動画が公開されたところで、眉をしかめるかもしれません。しかし、ファンをやめるというほどではないのです。

 必要以上に嫌われることを恐れる必要はありません。

 重要なのはすでに好いてくれている人に嫌われないことではなく、見向きもしてくれない人に興味を持ってもらうことなのです。

まとめ

 時代が変わり、メディアも、ターゲットのライフスタイルも変わってきています。そんな時代の移り変わりを受けて、ブランド戦略上ではターゲットの若返りをうたっている企業も多く見られます。

 しかし、そういった企業の多くは、若い人が好む雑誌に広告を出したり、Facebookに公式アカウントを作る程度の表面的なアプローチにとどまっています。

 本当の意味で若い人が興味を持ってくれるようなコンテンツを世に出すことは、勇気のいることです。これまで積み上げてきたものが大きれければ大きいほど、保守的になってしまうのもよく理解できます。

 しかし、それではブランド戦略上の「タスク」を消化しただけで終わってしまいます。

 ターゲットにメッセージを届け、獲得するのであれば、勇気をもってピンポイントで攻めていかなければいけないのです。

 そして、その「攻め」の狼煙を上げるのは、ブランディングを担当するマーケターなのです。

(文:Scott Nomura)

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4.Society.Culture・Edu.・SportsOthers

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5.EconomyPolitics・Military Affaires

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6.Marketing

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7.Message

93%の日本人は中国が嫌い」という調査数字が中国国内に起こした波紋吉田陽介[日中関係研究所研究員] 201563 DOL

 中国は改革開放政策をとって三十余年、人々の所得が向上し、生活水準も高まった。それに伴い海外旅行者も増えており、昨年、中国の海外旅行者数は1億人を越えた。そうしたなか、日本を訪れる中国人も多くなっている。2014年、日本を訪れた中国人観光客は前年に比べ28%増の2409200人に上り、中国人の間では日本は人気の旅行先のひとつといえる。今年の2月に中国人観光客が便座を爆買いしたのは記憶に新しい。

中国人観光客で連日溢れかえる免税店、ラオックス銀座本店

511日付け『環球時報』に法政大学の趙宏偉教授が書いた「日本観光の美景と幻覚」という文章が掲載された。この文章が掲載されるや、ネット上に広まり、記事を転載したいくつかのサイトは「93%の日本人、中国が嫌い」というタイトルをつけ、多くのネットユーザーの注目を集めた。

 文章は、現在日中両国は政治問題で関係が悪化しているにもかかわらず、なぜ日本に行く中国人が多いのかという疑問を投げかけている。なぜならば、93%の日本人が中国嫌いであり、彼らの多くが中国に旅行に行きたくないと考えているからだ、と続く。

 また、文章では、日本観光が中国人が思っているほどではなく、「幻覚」だと述べている。例えば、日本の景色はよいといわれているが、富士山などの有名なところはそうであっても、東京は道が狭く、建物が乱立しているだけだということや、日本料理はおいしいといわれているが、日本のいい店で使っている米は安物で、野菜は輸入物だということ、また、日本のサービスはレベルが高く、日本の店員は大変丁寧だといわれているが、彼らはただマニュアルに沿って動いているだけで、いわば「作られた行動」だという。

 さらに文章は、日本人は一部の中国人旅行者が派手に金を使う行為に対しいい印象を持っていないことも指摘している。

 そして、対中強硬姿勢をとる安倍首相の支持率が高いのは、民衆が彼を支持しているから。日本の政治動向に警戒する必要があるという言葉で結んでいる。ぱっと見たところ、反日の文章にも見えるが、その手の文章にありがちな根拠のない批判ではない

93%が中国を「嫌い」なわけではなかった

 ただ、この趙教授の文章に対し、疑問を投げかける文章があった。

513日付けの『環球時報』に外交学院の周永生教授が「日本旅行の爆発的人気は幻覚ではない」と題する文章掲載された。周教授の文章は趙教授のそれとは立場が違い、中国在住の中国人の視点から中国人の日本旅行について考えたものだった。

周教授の文章では、「日本に行ったことのある中国人旅行者は基本的に日本に対して高い評価を下しており、好感度が上がっていることは紛れもない事実だ」と述べており、日本の景色や日本料理などはすばらしく、「(旅行の質は)世界的に見ても比較的高い水準だ」と高く評価している。また、清潔さ、行き届いたサービス、整った社会秩序など中国人が学ぶべき点はとても多いとしている。

 周教授の文章は「条件を満たしているなら、日本は中国人が行って価値のあるところだ」という言葉で締めくくっている。

 また、『壱読百科』に掲載された「本当に93%の日本人は中国が嫌いなのか?」と題する文章は『環球時報』文章が挙げた93%という数字に対し疑問を呈している。『環球時報』の文章が「多くの日本人が中国嫌い」としている根拠は中国日報社と日本の言論NPOが共同で行っている「第10回中日関係世論調査」の調査結果だ。

 調査報告書を見ると、2014年、中国に対する「印象がよくない/どちらかといえばよくない」と答えた人たちが93%に達し、2013年の90.1%よりも増えた。また、中国に対する「印象がよい/どちらかといえばよい」と答えた人が、2013年の9.6%から6.8%に下がった。

文章によると、「印象がよくない/どちらかといえばよくない」と「嫌い」はどれもあまりよくないことだが、見方を変えれば、この結果は違うという。

 さらに文章は、例えば、ある人が、AさんはBさんにあなたに対する「印象がよくない」よと言ったとする。Bさんは恐らく「どうして」と聞くだろう。では、AさんはBさんを「嫌い」と言ったらどうだろうか。恐らく「嫌い」と言った本人に詰め寄ろうとするだろう。

 この例からも分かるように、「印象がよくない/どちらかといえばよくない」と「嫌い」は違った意味となると指摘している。93%という数字は、「印象がよくない/どちらかといえばよくない」を合わせた数字なので、日本人が中国人嫌いとは言えない。

 また、調査報告書には、両国国民が中日関係が大変重要と考えているという項目もある。報告書によると、「2010年より、中日両国国民の日中関係の重要性に対する認識は減少傾向にあるが、依然として両国国民は中日関係の重要性を認識している」という。だが、『環球時報』の文章はこれについて一言も言及していない。

これについては、513日に新華網が「特稿」の形での文章を発表し、次のように述べた。

 「『93%の日本人は中国が嫌い』というニュースが引用した『中日関係世論調査』は、論証の不備や論理の不明瞭さは見られない。(だが、『93%の日本人は中国が嫌い』というニュースは)例えば、調査結果にある「印象がよくない」と「どちらかといえば印象がよくない」という客観的な記述がかなりきつい表現である『嫌い』に置き換えられている。また、『中日両国国民の多くがこのような状況を改善する必要があると考えている』という重要な結論を軽く扱っている」、と。

新華網の「特稿」は「理性的思考が感情の発散に取って代わることを願う」という言葉で結んでおり、日中関係の問題を感情論で考えるのではなく、理性的に考えた上で意見を言う重要性を説いた。

 ただ、世論調査に言及した文章は、日本人の中国人に対するイメージのみを論じていたが、中国人の日本人に対するそれについては述べていない。文章で取り上げられた調査では、日本人に対しいい印象を持っていない中国人は86.8%で、2013年の92.8%よりも下がったが、依然として高水準である。そのような状況下で、日本に旅行する中国人が増えているという事実も見逃せない。

趙教授はネットの批判に「無責任だ」と反発

 ネットユーザーなどの批判を受け、趙教授は521日付けの『環球時報』に「私を罵る人たちに聞きたい。私の言っていることのどこが間違いなのか」と題した文章を発表し、一連の批判に反論した。

 趙教授の批判の矛先はネットユーザーに向けられていた。趙教授は文章の中で「私は(自分の文章に対する)書き込みを見たが、ある人は私を反日といい、ある人は漢民族の敵だという。彼らの言っていることは、私が文章で書いた事実とは何ら関係がない。ただ、個人的な好き嫌いの感情をぶつけているだけだ。それが中国のネットユーザーのやり方なのか」と述べて、ユーザーたちの無責任なコメントを批判した。そして、自らの考えを再度述べた。

 そこで趙教授は、日本は観光資源に乏しく、天然資源も少ないため、自力で多くの観光客を引き付けることもできないし、経済大国にもなり得ず、「人に頼って生きている」ことも強調した。ただ、93%の日本人は中国が嫌い」という表現は「93%の日本人は中国にいい印象を持っていない」に改められていた

趙教授は日本生活が30年で、日本のいい面と悪い面を知っているため、どの面も熟知した上での主張であり、一定の説得力がある。ただ、他の文章と認識のズレがあるのは、中国人がまだ日本について知らないことが多いことを物語っている。

ネットユーザーの日本旅行賛否には3つの傾向

 趙教授が批判の矛先を向けていたネットユーザーの書き込みを見てみよう。彼らのコメントを見ると、三つの傾向がある。ひとつは、日本への旅行に反対する意見である。二つは日本旅行を肯定する意見である。三つは、日本を理解することが大事だと考える意見である。

 まず第一の否定的な傾向のコメントをいくつか見てみよう。

 「世界はこんなに大きいのに、どうして日本に行く必要があるのか」

 「骨なしの奴らが好んで小日本に行くのだ」

 「日本人は口では甘いことを言っておきながら、心に剣を隠し持っている。彼らが礼儀正しいのは表面上のことだ。だが、サービス業は礼儀正しいことが求められる。彼らは内心では(中国人を)馬鹿にしているが、表面上はニコニコしてるのだ」

 上の二つのコメントは、日本がらみの文章によくありがちな日本を絶対的に否定するものだ。日本人と接したことのない、または日本に行ったことのない人たちがこのような考えをもっている。

 最後に挙げたコメントは、ある程度の知識はあるが、やや悪くとっている。

 次に第二の傾向である肯定的コメントを見てみよう。

 「(『環球時報』の文章は)とても偏っている。日本には(中国)国内よりもいいものがたくさんある。食べ物は安全だし、空気はきれいだし、サービスはいいし、また、日本の化粧品やスキンケア製品もいいし、環境もいいし、国民の資質も高い」

 「日本は国内のどの都市よりも清潔で、サービスもそうだ」

この手の意見は、筆者の中国人の友人も言う。現在はインターネットが発達しているため、日本語ができない人でも日本に関する情報を知っている。特に日本製品に対する評価が高い。

 第三の傾向のコメントを見てみよう。

 「日本はやはり先進国だ。行ってみて悪いことはない。いいところは学ばなくてはいけない」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず。日本を理解することも大切だ」

 このようなコメントはネットユーザーの中では多くはないが、二つ目に挙げたコメントは本当は日本が嫌いだけど、理解しなければならないと気持ちがにじみ出ている。まるで、日本は嫌いだが、日本の製品は好きだと言っている中国人に似ている。

 また、中国と日本を見比べて、中国の悪いところを挙げているコメントもあった。

 「我々中国人は本当におかしい。国内の工場で生産している日本車を叩き壊して、デモでは日本製品排斥を叫んでおきながら、日本に旅行に行ったら狂ったように日本製品を買いまくるのだから」

 以上がネットユーザーのコメントだが、ありがちな一方的な日本叩きではなく、多様な考え方が出てきていることが分かるだろう。

現在、中国人は以前に比べて物を言うようになってきており、仲間内ではその手のことをよく話す。

日本人が呆れる「爆買い」にも中国人なりの理由がある

93%の日本人が中国嫌い、また86%の中国人が日本にいい印象を持っていないのはなぜか、それはお互いをよく知らないことが原因であると思う。

 例えば、日本人が快く思っていない中国人旅行者の「爆買い」を例に考えると、確かに自分の財力を見せびらかしているような中国人もいるが、大量の日本製品を買うのには事情がある

 中国は人と人のつながりが大事な社会で、最近は反腐敗運動などで変わってきたが、何かをする場合、人間関係がものを言うときがある。東アジア文化圏に属する国は親戚との付き合いを重視する。中国でも親戚づきあいが大切とされ、旅行に行けば、大量のお土産を買って、春節(旧正月)や親戚が集まるイベントに配る。筆者の中国人の友人も日本を旅行した時、「親戚にたくさんお土産を買わなければならないので、帰りの荷物はいっぱいでした」と言っていた。

 また、中国人が日本で大量に物を買うのは、実は自国の製品に対する不満の裏返しでもある。中国製品は以前よりは質的に向上したが、まだ先進国のものとは開きがある。

日本製品は使う人のことを考えて作られている。例えば、ラップを例に考えてみると、日本のラップは適当なサイズにすぐに切ることができるのだが、中国のそれは切りにくく、なかなか好きな大きさに切れない。そういうこともあり、お土産に買わなくても自分用に日本の日用品などを大量に買う人がいる。

 筆者の中国人の友人もその一人で、「中国製品が日本製品くらいのレベルだったら、そんなたくさん買いませんよ」と言った。いかに使う人の立場に立った製品を作っていくか、「新常態(ニューノーマル)」下の中国の課題だといえる。

日中の国民がお互いを理解するには何が必要か

 急速な経済発展により、中国人は金銭面で豊かになったが、資質も向上したかといえば疑問が残る。旅行者の資質については、近年中国でもよくメディアに取り上げられており、一部の旅行者の「非文明(非理性的)的行為」が批判されている。ただ、大都市では人々のマナーはかなり向上していて、公共の場で大きな声で話したり、人の迷惑になるような大きな荷物を持って公共交通機関を利用する人は少なくなっている。

お互いを知らず、先入観だけで相手を見てしまうと、偏った中国人像、日本人像ができてしまい、等身大の中国、日本が見えなくなってしまう。

習近平主席は523日に人民大会堂で開かれた中日友好交流大会での講話の中で、「中日友好の基盤は民間にあり、中日関係の前途は両国人民に委ねられている」と述べ、民間交流を発展させていく重要性を説いた。

528日付けの『環球時報』の社説も、「中日関係は過去に『以経促政(経済によって政治を促進)』、『以民促官(民によって官を促進する)』という多くの経験がある。日本の3000人代表団の訪中は、日本人民と右翼勢力を分け、違った対応をする基礎が今もあることを我々に教えている」と述べ、右翼勢力は存在するがそれに影響されることなく民間交流を続けていくことが必要だと主張している。

 今回、「93%の日本人は中国が嫌い」がクローズアップされたが、インターネットという人々が意見を発表し、議論する場では、日中関係に関する情報は常に注目を集め、人々はそれにナーバスになる。そのため、メディア、特にインターネットは往々にして誇張して伝えるし、ひどいのになると、事実を歪曲したりする。そのため、それに類する情報に接したときは十分に注意し、メディアが言ったから信じるといった態度をとることは好ましいことではない。

 筆者の日本人の友人も「メディアの情報だけでは中国の実情がなかなか分からず、実際に現地に行って、現地の人と交流しなければ分からないこともある」と言う。実際に現地に足を運び、そこに住む人と交流することで、お互いのイメージはまた違ったものになるだろう。

 中国人が日本に旅行することは、一部の中国人のもつ抗日戦争ドラマの中の日本といったような偏ったイメージを改善するのに役立つため、中国人が日本を旅行することは「幻覚」とはいえないと筆者は考える。

【上海凱阿の呟き】

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