全人代での要人発言から「次の中国」が見えてきた?

今年も中国で開催されている全人代。要人たちの言動から「次の中国」のい姿を読み解こう 

  今年もまた、北京が1年に一度の政治の季節を迎えた。“両会”(全国人民代表大会&全国政治協商会議)

である。日本では「全人代」と呼ばれることが多い、あの政治会議である。 

  国務院首相、全国人民代表大会委員長、全国政治協商会議主席、最高人民法院院長など、党・政府の各部

門の首長が過去の1年を振り返り、これからの1年の目標を提起する。また国務院における各部署(日本の省

庁に相当)の首長が記者会見を開き、より具体的に政策を説明する。全国各地の自治体が人民大会堂で会議

を主催し、そこに習近平総書記、李克強首相らが飛び入り参加し、メディア記者たちも質問を投げかける。全国

人民代表大会代表や全国政治協商会議委員には、社会的に著名な文化・スポーツ人、学者などもの民間人も

含まれる。前提は、共産党が領導する社会主義政治に“忠実”であることだ。 

  あらゆる数字や情報が集中的に錯綜する“両会”。中国政治・経済・社会に対する継続的観察にとっては有益

なプラットフォームであることは疑いない。2016年の経済成長率目標6.5%~7.0%や2016年度国防予算伸び

率7.6%といった数字の多くはすでに日本でも報道されていると察するため、本稿ではあえて触れないことにす

る。本稿では、私が“両会”を眺める過程で印象深く映り、中国民主化研究をめぐる思考のアンテナに引っかか

った「3+2+1」の場面をケーススタディとしてお届けすることにする。 

     

  まずは「習近平政権下における高級官僚たちの言動スタイル・パターン」をめぐる物語である。ここでは3つの

ケースを紹介したい。 

(1)全国人民代表大会・傅瑩報道官の「人権弁護士」に関する発言 

  3月4日、開会に先立って記者会見を行った同報道官は「“人権弁護士”が逮捕されている状況をどう見る

か?」という質問に対して次のように答えた。 

 「“人権弁護士”という呼び方に関して、私は多くの人がこのように呼ぶことに賛同していないように思える。我

が国の弁護士に対して政治的線引きをしているように聞こえる。弁護士はまず法律を守る模範であるべきで、

我が国の弁護士をめぐる規定に則るべきである。彼らは憲法を守り、法律を守るべきである。仮に弁護士が法

律を知りながらそれに違反した場合は、法律による処罰を受けなければならない」 

  1つの実例として、昨年12月、“人権弁護士”の浦志強氏がソーシャルメディアに書き込んだ内容が「民族の

恨みを扇動した罪」などに問われ、懲役3年、執行猶予3年の判決を受けているが、傅瑩報道官は浦氏を含

めた人権弁護士が“違法行為”をしたと言いたいのだろう。 

     

(2)教育部・袁貴仁部長の「西側教材不適切論」に関する発言 

  米ウォール・ストリート・ジャーナルの記者が同部長に次のように聞いた。 

 「あなたは以前西側の価値観に基づく教材は教室に適さないとおっしゃいましたが、説明をお願いします。“西

側の価値観”とは何を指すのですか。マルクス主義は本来西側の概念ですよね。教育部がこれら西側の価値

観に基づいた教材をどのように処理していくのかについても教えてください」 

  袁部長は“西側の価値観”(中国語で“西方価値観”)という言葉には触れず、記者の問いにも答えず、次のよ

うに主張した。 

 「マルクスは中国人ではないが、我々がマルクス主義を指導思想に据えているのは、中国共産党の開放的な

精神を体現している」 

 「我々が主張するマルクス主義とは、中国の国情と結合しながら不断に創新されるマルクス主義である。この

点について我々は断固とした立場を持っている。我々が主張する価値観とは、マルクス主義が提唱し、かつ中

国の伝統的文化の有機的に結合した価値観である」 

  同部長はその後、中国がいかにして学生たちの道徳教育を重視しているかを語り続け、最後に、中国の若者

がいかに理想・責任・抱負に満ちた世代であるかを主張して、回答を終えている。 

(3)外交部・王毅部長による「日本は“裏表のある人間”」に関する発言 

  長く対日外交に携わり、“知日派”外交官としても知られる同部長は、日中関係の現状と展望に関して次のよ

うに主張した。 

 「日本側の歴史問題などにおける誤ったやり方が原因で、近年の中日関係は確かに軽くない傷を負ってきた。

双方の有識者の努力によって両国関係は改善の兆しを見せているが、展望は依然として楽観できない。日本

政府と指導者は一方で日中関係を改善しなければならないと不断に語り、一方では不断にあらゆる場面で中

国に面倒をかけている。これは実際、1つの典型的な“表裏のある人間”(筆者注:中国語で“双面人”)のやり

方である」 

 「中日両国は海を隔てた隣国であり、両国人民にも友好の伝統がある。我々は当然中日関係が真の意味で好

転することを望んでいる。しかし、“病気を治すには根っこから”という俗語があるが、中日関係にとって、病の根

っこは日本の為政者の対中認識に問題が発生した部分にこそ見いだせる。中国の発展を前に、中国を友人と

するのかあるいは敵人とするのか、パートナーとするのかあるいはライバルとするのか。日本側はこの問題を

真剣に考え、考えぬくべきだ」 

  “双面人”というのは王毅部長自身の言葉であろう。対日外交に携わってきたからこそ、国内政治・世論にお

いて「日本に対して軟弱」と見られないよう、意識的に日本に対して強く出る傾向が見て取れる。 

政治性と敏感性を備えたテーマに共通する「3つの特徴」 

  以上、3つのケースを見てきた。「人権」「西方価値観」「対日関係」、いずれも中国共産党の正当性の“根っこ”

を脅かしかねない政治性と敏感性を備えたテーマである。これらにどう向き合うか、どう対処していくかという問

題は、中国共産党の問題意識や改革の方向性を考える上で極めて示唆に富んでいると言える。前述の3者の

回答には、3つの共通する特徴が見い出せるように思える。 

・問いに対して真正面から答えない。 

・自らの政策は絶対的に正しいという立場に基づいている。 

・責任の所存は自らにはなく、とにかく相手が悪いと主張する。 

  公平性という観点から断っておくと、中国共産党の政策や主張はすべてのテーマにおいてこのような特徴に

満ちているわけではない。特に経済に関しては、昨今の情勢に対して困難やリスクを自ら提起しているし、昨年

荒れに荒れた株式市場への対処法をめぐっては、自らの過失すら認めている。これらの分野でも、指導者たち

は自らの政策はそれでも正しいという立場に基づいているが、それは“相対的”なものであるように私には聞こ

える。 

  前述の3つのテーマにおいて“絶対性”を全面に押し出すのは、それが、中国共産党が引くに引けない問題、

換言すれば、党の権威性や安定性を構成する“急所”であるからに他ならない。そして、胡錦濤政権から習近平

政権に“完全移行”してちょうど3年が経ったいま、習近平総書記の部下・同僚たちは、共産党にとっての“核心

的利益”をめぐって、かつてないほど強硬的な言論を展開しているように思える。前政権のそれが霞んで見える

ほどに。 

賄賂断絶に自治体の直接選挙、変化を期待させる発言も 

  次に「習近平政権下で“もしかしたら”を期待させる」物語である。ここでは2つのケースを紹介したい。 

(1)習近平総書記の「幹部に賄賂を渡してはいけません!」に関する発言 

  3月4日、習近平総書記が兪正声・全国政治協商会議主席(序列4位)を引き連れて、同会議における民主

党派、工商関係者に対して演説を行った。中国が社会主義に基づいた経済制度を堅持する必要があることや、

中国共産党による領導の下、特に改革開放以来、公有制だけでなく非公有制(筆者注:同党は決して“私有制”

とは言わない)も重視する混合所有制を発展させてきたことなどを習近平は語ったが、私は同氏の党幹部と民

間企業家の関係性、および中国では“当たり前”、もっと言えば“必要条件”とすら認識されてきた賄賂に関する

部分に着目した。 

 「経済社会の発展を促すために、党の幹部が非公有制経済人と付き合うのは経常的であり、必然であり、必要

なことである……しかし、これが封建的な官僚と“紅頂商人”(筆者注:役人でありながらビジネスに手を染める

人間)のような関係であってはならないし、西側国家における大財閥と政界のような関係であってもならないし、

横暴に飲み食いをする飲み友達のような関係になってはもっとならない」 

 「我々が捜査・処罰した腐敗案件には、民間企業家に関わるものもある。一部は党の幹部が企業家に賄賂を

求めたものであり、一部は企業家が進んで幹部に賄賂を渡したものである。前者の場合は、我々の幹部に対す

る管理・教育が不足していることが原因であり、強化しなければならない。後者である場合にはみなさん自戒し

てほしい。そのようなことをしては決してならない!」 

  これらのセンテンスを眺めながら、改めて、習近平という指導者は自らの性格、そしてそれに基づいた言葉を

持った人であると私は感じた。中国でビジネスを展開している読者の方々には、ぜひ参考にしてほしい文面でも

ある。 

(2)全国人民代表大会・張徳江委員長による「9億人が投票」に関する発言 

 「2016年、全国各地で新しい県・郷レベルの人民代表大会で選挙が行われるが、9億人の有権者が選挙に参

加し、この直接選挙によって250万人強の県・郷レベルの人大代表が生まれる見込みである」 

 「これは全国人民の政治生活のなかにおける大きな出来事であり、社会主義民主政治建設における重要な実

践である」 

  中国において、形式上、全国人民代表大会は日本の国会に相当する。「人大代表」とは議員に相当する。ま

た、中国の行政区分は、省級・地級・県級・郷級という4つの層・レベルから成っていて、下に行くほど自治体と

しては小さくなる。日本の地方自治体における県会議員・市会議員・町会議員などをイメージすればわかりやす

いだろう(国情が異なるため単純比較はできないが)。 

  全国議会の首長である張徳江は、下から2つの自治体レベルにおいて“直接選挙”を実施すると言っている

のである。 

  以上、2つのケースを見てきた。 

  賄賂断絶を主張する習近平は同演説のなかで「反腐敗闘争は市場の秩序を整えること、市場に本来の面目

を還元することに役立つ」と主張する。私もそう思う。しかし一方で、本連載でも随所で提起してきたように、反腐

敗闘争が原因で役人が事なかれ主義に陥ったり、企業家が本来の事業を進められなくなったりという状況も各

地で発生している。習近平政権下において、役人も企業家も互いにどう付き合っていいかわからず、結果的に

「何もしない」という選択をしているケースが目立っているように映る。 

 「中国民主化研究」というタイトルを付けた本連載が、張徳江発言に興奮しないはずがない。「直接選挙」「民主

政治」、いずれも大歓迎だ。しかしながら、2016年を境に、中国の地方&下位レベルにおける政治状況はどう

変わるのだろうか。 

  実際に、郷レベルの下には「村民委員会」といった自治組織が設けられており、これまでも“直接選挙”が行わ

れてきたというのが共産党の立場である。共産党はこれまでも自らが行う政治は“社会主義民主政治”であると

主張し、中国の政治が“民主的”であることを否定したことはかつて一度もない。習近平氏も国家主席に“当選”

したというのが共産党の公式的な立場である。このような状況を顧みるとき、今後の中国政治をどのように進化

させるのかという観点から、今回の張徳江発言にも懐疑的にならざるを得ない。少なくとも現段階では不透明だ

と言える。 

重慶をベタ褒めにする両雄、ポスト習近平のおぼろげな展望 

  最後に「ポスト習近平の座を争う」物語である。ここでは1つのケースを紹介したい。 

  3月8日、李克強首相が全人代重慶市代表団全体会議に出席した際に、次のように述べている。 

 「《政府活動報告》のなかでも指摘したように、昨今の経済状況において、地域と業界の行き先が分化してい

る。通俗的に言えば、“氷火両重天”(筆者注:両極端なほどに両者のギャップが大きい状況を指す)であるが、

重慶は“火”の端に属する。まさに“重慶火鍋”のようだ」 

  中国政府が発表した統計によれば、重慶の2015年度GDP成長率は11.0%(2014年は10.9%)、固定資産

投資伸び率は17.1%、平均可処分所得は9.6%であり、いずれも全国トップレベルの業績である。 

  2016年1月4日、習近平は新年初めての視察地に重慶を選んだ。果園港における建設や施設を前にして、

習近平は語った。 

 「ここは大いに希望がある」 

  習近平と李克強。政治と経済をつかさどる両雄が、違和感を覚えるほどに重慶をベタ褒めにしている。その理

由として、(1)実際に重慶が(少なくとも統計上)は優れた業績を残していること、(2)重慶がすでに数年前に中

国政治を震撼させた“薄煕来事件”の呪縛から脱し、共産党の統治が全国的に安定していることをアピールした

いこと、の2つが挙げられるだろう。 

  ただ、その背後で私が最も関心があるのは、両雄によるベタ褒めがポスト習近平をめぐる争いにどう影響する

か、である。重慶市現書記は孫政才で、広東省現書記の胡春華(2人はともに1963年生まれ)と並んで、“第六

世代”リーダー候補である。この世代で政治局委員(トップ25)に入っているのは2人だけだ。 

共産党の第十九回大会で次を示す「何か」は見えるか? 

  前述の現状は孫政才の“株”を上げるだろう。逆に、胡春華はそんな現状を面白く思っていないはずだ。特に、

同じ共産主義青年団出身である李克強が、ライバルが統治する重慶を褒め殺している光景は複雑に映ったに

違いない。 

  私は過去4ヵ月の間に重慶市と広東省を訪れたが、そこで受けた率直な印象は、孫政才も胡春華も静かにし

ていて、斬新的な取り組みはせず、極力リスクを取らないようにしていることであった。“次”を見据えた冬眠状

態のようにすら思えた。 

  “次”はわからない。 

  静けさの背上で、孫政才は攻めているように見える。本人がそれを意図しているか否かは別として。胡春華は

何かを待っているように見える。本人が“何”かを理解しているか否かは別として。 

  約1年半後に迫った2017年秋、共産党の第十九回大会が開かれるとき、次を示す「何か」が見えてくるのか

もしれない。 

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