中国共産党の反腐敗闘争が経済改革にもたらす逆効果

反腐敗闘争はいつまで続くのか?2016年も続く高級官僚の「落馬」 

習近平総書記が続けてきた反腐敗闘争。足もとでは中国の経済成長・改革に負の効果をもたらし始め

たように見える 

 「加藤さん、反腐敗闘争はいつまで続くと思いますか? 」 

  最近はあまり聞かれなくなったが、これは1~2年ほど前まではしばしば耳にした問題提起である。 

  第十八回党大会(2012年11月)以来、習近平総書記と王岐山・中央規律検査委員会書記はスクラムを組み

ながら、二人三脚で反腐敗闘争を続けてきた。そんな闘争の近況が気になるのは、共産党体制内で行われる

権力闘争、全国各地の党・政府・国有企業の幹部や役人が摘発・処分されるプロセスが、中国人、外国人を問

わず、この国と付き合っていく上で決して軽視できないファクターであるからだろう。 

  私自身、反腐敗闘争という現象あるいは側面は、中国共産党の現在地、党内権力闘争、そして改革開放・構

造改革などの行方を占う上で極めて重要であると考えている。本稿では、久しぶりに“この問題”を扱ってみた

い。 

  まず参考までに、18党大会後に“落馬”(筆者注:汚職や腐敗が原因で摘発され、党組織としての処分を受け

ること)した高級官僚(筆者注:中央次官級・地方副省長級以上の高官を指すものとする)の数をレビューしてお

きたい。 

  2012年11月~2013年末が19人、2014年が39人、2015年が29人。また党軍関係的に同級以上の解放

軍幹部では、2012年11月~2015年末のあいだに41人が落馬している(筆者注:徐才厚、郭伯雄・両元中央

軍事委員会副主席は解放軍幹部としてではなく、党高級官僚として換算)。 

  このように見てくると、反腐敗闘争は、特に高級官僚の落馬という視角からすればピークは過ぎていると言え

る。一方、昨年1年間だけで29人もの高級官僚が処分されていることを考えれば、闘争はいまだオンゴーイン

グだとも見て取れる。 

  2016年に入ってからも、高級官僚が断続的に落馬している。 

  3月、全国人民代表大会(全人代)が開幕した直後、王珉・遼寧省共産党委員会前書記、全人代文科衛生委

員会副主任が落馬した。地方の書記というポジションは高級官僚の中でも群を抜いて高い職位ということもあ

り、世論は騒然とした。全人代や同時に開催されていた政治協商会議に参加した各指導者たちは、「反腐敗闘

争が終わっていない証拠。断固として党中央の決定を支持する」というコメントを出していた。 

  毎年、全人代期間中の落馬状況には注目が集まってきた。恒例の「政府活動報告」を発表した李克強首相

は、同報告のなかで「断固として腐敗を撲滅していくこと」「官の汚職や腐敗を徹底的に取り締まっていくこと」を

強調した。 

  全人代閉幕後の3月23日には李嘉・広東省常務委員会委員兼珠海市書記が、4月に入ってからは蘇宏章・

遼寧省常務委員会委員兼政法委員会書記、楊魯豫・山東省済南市副書記兼市長、陳家記・広東省人民代表

大会常務委員兼財経委員会主任委員が、重大な党規律違反をしたことが原因で中央規律検査委員会による

調査を受けている。 

  私が最近注目している1つの現象に、高級官僚よりも中級クラスの官僚(筆者注:日本の官僚組織に例えて

イメージすると、各省長の局長級や地方自治体の副市長クラス)を対象とした摘発や処分が継続的に実施され

ていることが挙げられる。中央規律検査委員会の公式サイトでその状況を大体モニタリングできるが、直近の

落馬状況には次のようなケースがある。 

・広東省規律検査委員会は、黄錦輝・同省恵州市前常務委員兼副市長が厳重な規律違反をしたとして立件・調

査を進めている(4月21日) 

・騰衝・広西チワン族自治区観光発展委員会副主任(局長級)が厳重な規律違反をした疑いがあるとして、現在

組織の調査を受けている(4月21日) 

・中央規律検査委員会は、龚清概・中央台湾工作弁公室前副主任兼国務院台湾事務弁公室元副主任が厳重

な規律違反をしたとして、立件・調査を進めている(4月21日。筆者注:同弁公室副主任の地位は中央次官級

に相当) 

・河北省共産党委員会の批准を経て、潘静蘇・保定市副市長兼公安局局長が現在組織の調査を受けている(4

月24日) 

習近平と王岐山は党19回大会まで反腐敗闘争の手を緩めない? 

  私は、習近平と王岐山は、党の19回大会が開かれる2017年秋頃までは反腐敗闘争の手を緩めないと判断

している。その時期に近づくに連れて、高級官僚の落馬は減っていくものと想定されるが、2017年秋に引退す

る可能性の高い王岐山は、最後の最後まで、中央・地方の中級クラスに対しては摘発や処分を徹底していくで

あろう。任期内における責務を全うすべく、静かに奔走・奮闘し続ける王岐山の空気感が伝わってくる。 

  地方政治という観点からすれば、地方役人が政策を決定・履行する過程で陥る不正や責任回避に対する追

及も強化されている。直近の例を挙げると、福建省にて貧困問題解決資金を不正に濫用していた、あるいは使

用する過程で不正が見られたことが原因で、同省における381人が降格や党籍剥奪などの処分を受けてい

る。また、四川省成都では、インフラプロジェクトの公開入札を行わず、ブラックボックスのなかで賄賂を受け取

るなどの不正を行ったとして、同プロジェクトの責任者を含めた同市幹部240人が処分を受けている。 

  反腐敗闘争という党中央にとっての“大義名分”を起点とした上で、全国各地の組織・官僚への監視・審査・処

罰が強化される過程で懸念されるのが、本連載でも扱ったことのある“恐怖政治”と“事なかれ主義”(あるいは

“無作為主義”)の蔓延、そしてそれらが原因となって経済政策や構造改革といった第十三次五ヵ年計画(2016

~2020年)の目標としても掲げられている事業が滞ってしまうことに他ならない(参照記事:連載第51回「二重

の恐怖”に怯える中国官僚から“改革派”は生まれるか?」)。 

反腐敗闘争が経済成長・改革に与えるネガティブな影響 

  昨秋、米国から北京に拠点を戻して以来、特に地方自治体の党・政府組織と地元企業との関係に注目してき

たが、その過程で私が継続的に痛感していることが、まさに反腐敗闘争が経済成長・改革に与えるネガティブな

影響、特に成長や改革の実働部隊である経済官僚らの事なかれ主義や企業家も含めた社会全体に広がる無

作為主義、すなわち「今は何もしないのが最も安全」という集団的な意識であり、風潮である。 

  官僚は「次に摘発されるのは自分かもしれない」という恐怖から積極的に政策を立案したがらない。政策を立

案するとなれば、特に前出のインフラプロジェクトなどを履行する場合には、必ずと言っていいほど地元企業や

社会との癒着関係が生まれる。その過程で賄賂をはじめとした不正が発生するのは中国では“ある意味”当た

り前であった。「腐敗は文化」という風潮である。その中には、「汚職は成長を生む」という意識さえ横たわってき

たように思える。 

 「何か事業をやりたくても、党・政府と話を進める過程で捜査の対象になるのが怖くて何もできない」 

  北京を拠点とする某建設会社の社長が私に語ったこの言葉は、多くの企業家の共通認識であるように聞こえ

る。経済官僚だけでなく、企業家たちも反腐敗闘争の“とばっちり”を受けるのが怖くなり、何もしたがらないので

ある。 

  以前、広東省のある政府官僚が私に語った言葉ほど、中国における腐敗と経済、汚職と成長の関係を赤

裸々に表しているものはないと感じている。 

 「役人と商人が結託すれば必ず汚職が発生する。ただ、汚職の中でプロジェクトが生まれる。プロジェクトの中

でGDPが上向く。汚職なき成長はなしだ」 

  同官僚は続けた。 

 「しかも、中国におけるすべての役人は下心を持って組織に入っている。これだけ給料が低い中、少しの汚職

もできずして、誰が好んで役人などになるか。役人は汚職をするからこそ頑張るのだ。そんな意識が結果的に、

国家の成長や改革を生むのだ」 

  国家指導者たちは、反腐敗闘争のリバウンドとしてのこの現象を自覚しているように見える。2月23日、中央

全面深化改革小組の第二十一回会議の席で、習近平組長は次のように主張している。 

 「改革を擁護・支持し、勇気を持って立ち向かうのが改革促進派だ。改革を自らの手の中で握りしめ、実践し、

成果を収めるのが“実幹家”だ」 

  習近平や李克強は全国各地を視察したり、座談会を開いたりするたびに「改革促進派たれ!」と呼びかけて

いる。しかしながら、呼びかければ呼びかけるほど政治が高圧的に映り、経済官僚たちはますます習近平を怖

がり、萎縮し、結果的に一層の“無作為至上主義”に走るという悪循環に、中国経済社会は陥っているように見

える。私は、昨今の経済成長や構造改革にとっての最大のリスクが、反腐敗闘争という恐怖政治が産んだ“惰

政”だと考えている。 

中国で起きている「奇怪な現象」、共産党常務委員に欠員が出る前代未聞 

  本稿の最後に、いま現在中国で起きている奇怪な現象を紹介したい。 

  中国には合計31の省・直轄市・自治区があるが、現在、20の地方自治体における「共産党常務委員」に欠

員が出るという前代未聞の状況が起きている(2016年4月中旬時点)。常務委員とは、各省・直轄市・自治区

における“中央政治局常務委員”のような存在で、政策決定プロセスにとって決定的に重要なメカニズムでもあ

る。同委員には一般的に、書記、副書記、省長、副省長、事務局長、政法書記、統一戦線部長、宣伝部長、組

織部長などが含まれる。各地の常務委員は大体10~13人くらいである。 

  参考までに、欠員が出ていない省における最新の常務委員の人数を調べてみると、山東省で13人、吉林省

で12人、海南省で10人となっている。欠員が出ている省・直轄市・自治区とその数を整理してみよう。 

・3人:黒竜江省、遼寧省、湖南省、浙江省 

・2人:天津市、河南省、江蘇省、雲南省、湖北省、広西チワン族自治区 

・1人:北京市、上海市、河北省、陝西省、内モンゴル自治区、寧夏回族自治区、安徽省、福建省、広東省、四

川省 

  この状況が何を意味するかであるが、私は根本的な原因は反腐敗闘争にあると考えている。より詳細に3つ

の視角から背景を掘り起こしてみると、1つ目に、北京、上海、広東という重要な地域における欠員の原因がい

ずれも“落馬”によるものであることから、反腐敗闘争の直接的な結果であると言える。 

  2つ目に、共産党指導部・体制内で人事をめぐる権力闘争が緊迫し、利害調整が難航している現状が挙げら

れる。 

  そして3つ目に、経済の構造改革を大々的に推し進める、言い換えれば、経済官僚たちを改革促進派へと導

くために人事という要素を最大限に発揮すべくもがき、奔走している党指導部の空気感が伝わってくる。 

  これらとの関連で言えば、反腐敗闘争のリバウンド現象として発生している党幹部・経済官僚の事なかれ主

義・無作為主義が蔓延している政経ジレンマが、「前代未聞の党幹部欠員」という状況に反映されていると解釈

できるだろう。

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