家政婦は見た!  中国経済の異変、不景気で減る仕事  帰省できず爆竹禁止でたまる鬱憤

爆竹・花火禁止を呼びかける横断幕やポスターが年の瀬の町の至る所に掲げられた

(上海市内) 

  「爆買いはもう終了」、との声もありつつ、この春節(旧正月)も大勢の観光客が日本各地を訪れ旺盛な消費力

を見せつけた。一方、中国国内、それも私の生活する上海市内に目を転じてみると、今年の春節は気になる2

つの変化が見られた。1つは春節の風物詩とも言える花火と爆竹の禁止。もう1つは春節にも帰省せず上海に

とどまる家政婦など出稼ぎ労働者が増えたことである。中でも帰省しない家政婦の一件は、中国経済の変調を

うかがわせる、気になる現象である。  

  中国に来たことのない人でもニュース映像などで一度は見たことがあるのではないかと思うが、中国の春節を

象徴するものの一つに、人々が爆竹を鳴らし花火を打ち上げることがある。春節の休暇期間を通じて、昼夜問

わずに町のそこかしこから爆竹や花火の音が聞こえるのだが、ピークは3回ある。除夕(大晦日)から初一(春

節初日)に日付が切り替わる前後の1時間、お金の神様である財神が天から地上に降臨するのをお迎えする

日とされる初五(春節5日目)の未明、そして春節休暇が終わりを告げる春節15日目の元宵の夜がそれで、

上海中の市民が同時多発的に一斉に鳴らすため、家の中で目の前にいる相手の声が聞き取りにくいほどの爆

音と、朦々たる煙に町が包まれる。  

  ところが今年は、大気汚染のこれ以上の悪化を食い止めることを目的に、大都市を中心にこれを禁止する土

地が続出した。上海でも中心部を取り巻く環状線の内側での打ち上げが禁止された。  

日本人の想像を絶する中国人の爆竹好き  

  中国人は、春節に帰省すること、そして家族で爆竹を鳴らすことを人生の楽しみに、そして励みにして暮らして

いるようなところがある。  

  私はこれまで、何度も中国で春節を過ごしたが、帰省はともかく、大人になってまで爆竹を鳴らすことの何がそ

んなに楽しいのか、残念ながら今に至るまで、実感としては皆目分からないでいる。ただ、私が初めて中国に暮

らし始めた1988年、新卒で大学の教師になった人の初任給が70元(現在のレートで約1260円)だった時代

に、春節の花火と爆竹に費やす金額が1家族あたり200元(3600円)にもなるという話を聞いて、驚き呆れると

同時に、爆竹を鳴らすのは中国人にとって、よく分からないけれども、とにかく特別なことなのだなということは

感じた。現在でも、500~1000元(9000~1万8000円)程度は使うようである。  

  私は昨年、河南省の辺境にある農村地帯から上海に出てきて廃品回収をしている友人が帰省するのに合わ

せて彼の自宅にお邪魔し春節を過ごしたのだが、やはり大量に買い込んだ爆竹と花火を納屋にしまい込んでい

た。そこで、何がそんなに楽しいのかと単刀直入に聞いてみると、40代の友人はきょとんとした顔で、「因為、開

心嘛」(だって、楽しいじゃん)と答えた。理屈抜きで楽しい、という意味である。中国人にとって、爆竹や花火は

体の深いところに訴えかける何かがあって、ストレスも何もかもを吹き飛ばす効果があるのだろう。  

「自首」「通報」町に溢れる寒々しい言葉  

  その爆竹が大都市の多くで禁止された。上海では年の瀬から至る所に禁止を告げるポスターや横断幕が掲

げられ、「違反を通報すれば報償」「違法行為を発見したらすぐ119番に通報せよ」「隠している者は自首を奨励

する」といった寒々しい言葉が師走の町に溢れかえった。爆竹・花火打ち上げの3つのピークの中でも特に激し

い年越しの夜に上海当局は、監視のために警察やボランティアを動員したのだが、その数なんと30万人と言う

から驚く。私の住むアパートの入り口にも、年越しの夜は数人の警官が張り付いていた。その甲斐あってか見

事に爆竹や花火の音は聞こえなかった。  

  ところで、過去数年にわたり反腐敗による幹部の摘発が相次ぐ中、春節の爆竹に対する厳しい締め付けが行

われたことで、「まるで文化大革命の時代が戻ってきたようだ」、といった批評を、日本のネットや報道で見かけ

ることがある。「通報」「自主」などという言葉の羅列を町中で目の当たりにすると、確かにいい気持ちはしない。

ただ、文革のまっただ中に生きた中国人に話を聞くと、「文革時代に似てるというのはさすがに大げさ」という反

応があることを伝えておきたいと思う。  

  北京で新聞記者の家庭に生まれたという60代のある女性は、文革のさなか両親の勤めていた新聞社の社

宅のアパートに住んでいたが、「『今日は何号棟から同僚が飛び降りた』『昨日は何号棟から飛び降りた』という

ような話が毎日のようにあった。地獄だった」と当時を振り返る。  

農村に溢れる習近平夫妻のポスターの意味  

  やはり文革当時、天津で幼少年時代を過ごした50代のある男性は、遊び場にしていた近所の雑木林で

時々、死んだ人間が転がっていたのを鮮明に覚えているという。「子供のころ、死体を見るのは特別なことでも

なかった」。この男性が生まれたのは日本で東京オリンピックが開かれた1964年。私は彼の1つ年下だが、こ

れまで目にした死体は、亡くなった自分の祖父だけである。  

  中国の国や人の行動や言動を見て「どうして中国はこうなのかな」と理解に苦しむことも少なくない。ただ、同

時代に生まれながら、幼少期に見たもの聞いたもの触れたものがまるで違うということを知ると、思考や価値観

が違うこと自体は当然だということには得心がいく。  

この春節、私が訪れた安徽省の農村部にある石畳が美しいある古村落では、自宅の目立つところに習近平国

家主席のポスターを貼っている家が目立った。どこで買うのと尋ねると、村の書店で売っているとのこと。この様

子を見て私も、「農村では習近平に対する個人崇拝が進んでいるのかな」ということがチラリと頭をかすめた。た

だ、その村に住む20代の友人は、「お正月に指導者のポスターを買って飾るのは特に珍しいことではない」と

言う。そうなのか、でも、日本に安倍晋三と夫人のポスターなんて、書店はおろかどこにも売ってないよと話した

ら、彼女は「へえ、そうなの」と、とても意外だという顔をしていた。  

春節の農村部で多数見かけた習近平夫妻のポスター 

  中国人の自宅に国家主席とファーストレディーのポスターなどがペタペタと貼ってあるのを見ると思わずギョッ

としてしまうが、話を聞いて実態を知ると、特に意味があることではなかったりもする。何をもって中国を理解す

るかというのは、なかなかに難しい話である。  

去年の11月から急減した仕事  

  さて、春節を目前に控えた1月末のある日。「明日帰省しちゃうからその前にウチにゴハンを食べに来て」と同

世代の友人夫婦が誘ってくれた。安徽省の農村から上海に出稼ぎに来ているハンさん夫妻である。夫は再開

発に伴う建物の取り壊しの現場で肉体労働、妻は富裕層から上位中間層の家で家政婦をしている。  

  彼らに会うの3カ月ぶり。昨年10月に結婚した次男夫妻に子供ができたと嬉しいニュースを聞かせてくれた

のだが、どことなく浮かない顔をしている。次男の嫁を「ちょっとかんしゃく持ちね」と評していたので、嫁姑問題

でも勃発しているのかと尋ねると、「そんなことじゃないよ!」と笑いながら手を振り、しかしすぐに笑顔を引っ込

めて、「仕事が減っているのよ」と言う。  

  ハンさんは、息子が結婚するのでその準備に1カ月ほど仕事を休んで帰省した。働きぶりが真面目で料理も

上手なハンさんは売れっ子で、多いときには固定客だけで8軒を掛け持ちし、1カ月に過去最高で1万元(約

18万円)、平均でも8000元(15万円)と、大卒サラリーマン顔負けの月収を稼ぎ出している。  

「だから、1カ月ぐらい休んでも、お客さんはすぐに取り戻せると高をくくっていたの。ところが11月に上海に戻っ

てみると、完全に状況が変わっていた。家事を頼むお金持ちが、減っていたのよ」と言うのだ。  

  仕事が減っているのはやはり景気が悪くなっているから?  と尋ねると、「家政婦仲間ではそういう認識。掃除

だけ頼まれていた家から仕事を打ち切られたとか、掃除と食事の準備を頼まれていた家から『食事だけでいい

わ』と言われたとか。そんな話がこの2カ月で急に増えた」。ハンさん自身も、最高で8軒あった固定客は2軒

に減った。「いくら1カ月休んでいたからといって、2軒から増やせないとは思いもしなかった。次男が結婚して

初めての春節だから、両親として帰省してくるお嫁さんを実家で迎えないわけにはいかない。でも、上海に残っ

て少しでも稼ぎたいというのが本音よ」。  

  ハンさんの夫も、上海の都心部に取り壊すべき物件がほとんど無くなり仕事が減ったため、この数カ月はつて

を頼って、富裕層を中心に広がり始めた床暖房の敷設工事をやり始めた。だが、解体の仕事が毎日あったころ

の月収には届かない状況が続いているという。  

「仕事奪われるの怖い」  帰省できない出稼ぎ層  

  仕事が減っていると証言する家政婦はハンさんだけではない。やはり安徽省の農村出身で、シングルマザー

として4歳の一人娘を育てているチョウさんもその1人だ。チョウさんは、過去2年、スマートフォンやパソコン

が日本でも人気の台湾メーカーの上海工場で夜勤の仕事をしていたが、夜中に12時間働いても月収が4000

元(7万2000円)に満たないため、週末に家政婦をして家計の足しにしていた。ところが、過去2年は2軒あっ

た得意先が、昨年の11月から1軒に減ったのだという。「切る理由は言われなかったけど、景気が悪くなったこ

とが関係しているのは間違いないと思う」。危機感を覚えたチョウさんは、今年の春節は子供だけを帰省させ、

自分は上海に残って家政婦の口を探すことにした。ただ、結果は、「1軒も見つからなかった」とチョウさんは不

安そうな顔で唇をかんだ。  

  上海のメディア『東方網』は2月4日付で、今年の春節は家政婦の時給が50元(900円)と通常の25元(450

円)の倍になったと報じている。これだけを見ると家政婦は売り手市場のように思えるが、チョウさんは、「ひとく

ちに家政婦といっても、料理、洗濯、掃除など家事の需要と、老人や身障者の介護、乳児や子供の世話の需要

に分かれる。今年、春節の相場が倍になったのは、家政婦がいなければ家族が本当に困ってしまう介護の家

政婦の方。家事だけなら同じ25元のままでしたよ」と実情を語る。  

  先に紹介した習近平夫妻のポスターを自宅に貼る家々がある安徽省の古村落から上海に出稼ぎに来て家政

婦をして10年目になるというオウさんも、「春節は、去年までなら上海に戻るのは、早くても法定休日最終日の

初六(春節6日目)。長いときには元宵節(春節15日目)まで田舎の自宅にいた。でも今年は初四(春節4日

目)には上海に戻る」と言う。例年より前倒しで仕事を再開する訳を尋ねると、「景気が悪くなって仕事が減り始

めていることを心配して、今年は春節に帰省しない家政婦が多いと聞いたから。他人に仕事を取られると困る。

私は今のお得意さんとは長い付き合いだが、安心はできない。仕事が減れば、音楽大学に通う子供に仕送りを

するのも苦しくなる」。  

田舎の自宅に残って米を作り、農閑期には荷役をして現金を稼いでいるワンさんの夫が、妻や子供と顔を合わ

すのはこの10年間、春節に家族が帰省した時だけ。ワンさん夫妻にとって今年は、たった4日間の夫婦水入

らずの時間となった。  

  さらに身近なところでは、上海にある私の団地のご近所さんも、今年の春節は外地に出稼ぎに行っているご

主人が帰省してこなかった。隣人夫婦は江蘇省の出身だが、既に身寄りがいないため故郷には帰省せず、夫

婦の自宅があり妻が働く上海で春節を過ごすのを常としていた。ところが今年はご主人が戻らない。今年はご

主人が帰ってこないんですね?  とも聞けずにいたが、「わが団地の情報通」と自他共に認める16号棟のオバ

ハンが私を目ざとく見つけてすり寄ってきて、「ご近所さんと麻雀して聞いたんだけどね、アンタのお隣さんのダ

ンナ、稼ぎが悪くて今年は春節に戻ってこられないらしいよ」と耳打ちした。私は陰でなんと言われているのだろ

う。ヤレヤレ、である。  

強引な政策は危機感の表れ  

  ともあれ、不景気の影響で、出稼ぎの人々の仕事が減り始めているのは間違いないことのようである。これが

春節前後だけのことであれば、日本をはじめとする海外に爆買いツアーに出かけるからその間、家政婦は不

要、ということも考えられるし、実際、そういう理由も一部にはあるのだろう。ただ、家政婦たちは「11月ごろから

仕事が減り始めた」と口を揃える。日本での買いっぷりを見ていると気付き難いが、景気の悪化は爆買い客の

主体である富裕層、上位中間層よりも、彼らにサービスを提供する出稼ぎ層に一足先に忍び寄り始めたよう

だ。  

  さらなる景気悪化の懸念が叫ばれる中、気になる現象ではある。ただ救いは、春節の爆竹禁止が都市部だけ

にとどまり、出稼ぎ層の帰省先である地方の小都市や村落には適用されなかったことだろうか。私が訪れた安

徽省の農村でも、早朝5時ごろから深夜2時ごろまで、村人たちが連日、盛大に花火や爆竹を鳴らしていた。

それでも、現地の夜空は、星に手が届きそうなほど澄み渡っていた。  

  高度成長を享受するという点において、出稼ぎ層は、都市出身者に比べ確実に見劣りする。家政婦をしてい

る人で日本に爆買いツアーに出かけたことがあるという人に、少なくとも私はまだ、お目にかかったことはない。

その彼らが、何よりも楽しみにしている帰省先での春節の爆竹と花火を禁止されとしたなら、鬱憤は確実にたま

ることだろう。  

  いや、今年は上海に居残りせざるを得ず、爆竹もできずに鬱憤をためた出稼ぎの人々が、昨年よりも確実に

増えたはずだ。爆竹・花火の禁止を聞いたときには、大気汚染解消にはそれよりも先にやることがいくらでもあ

るだろうと突っ込みを入れたくなったものだ。ただ、市民の鬱憤が確実にたまるだろうことを承知で禁止に踏み

切ったのは、景気と汚染の状態が、それだけ抜き差しならないところに来ていることを認識した当局の危機感の

表れなのだろう。

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